序章
色も音も景色も季節も。
何一つ、自分には優しくなかった。
こんなモノを背負って生まれてきた人間は、不運だ。
◇◇◇
もし。
なんて、言葉、何度繰り返しただろう?
もし、この家が誰もが羨む良家だったら。
もし、自分の母親が誰もが羨む良妻賢母だったら。
もし、自分の父親が誰もが羨む威厳溢れる偉大な人物だったら。
空想や妄想は簡単で、優しくて、甘くて、そして、どこまでも残酷で。
イラクサがささくれ、苦い臭いを放つ畳に丸い爪を立てながら、ぼんやりとした痛みを頭の隅っこで感じる。
重く鈍い振動が腹から背中へと駆け抜け、既に口の端で乾き始めている苦い唾液が塊となって頤を滑り落ち、汚い畳をさらに汚していく。
「お前みたいな奴をここまで育ててきてやったんだ!少しは恩を返そうとは思わねぇのか!」
聞き慣れた声も、怒声も。
感じ慣れた痛みも、恐怖も。
自分の日常だと受け止めるまで、理解するまで、随分と時間がかかった。
【おまえみたいなやつ】
信じたくない気持ちはよく分かる。
“こんな化け物”が自分の遺伝子から産まれた。なんて、信じたくないんでしょ?
記憶は遠いままだけど、自分の現実を知ったあの日の事、忘れた事なんて一度もなかった。
こんな人間が自分の父親だと信じたくない己の現実を、知らされたあの日の事は。
初めての自己作成文にドキドキです。
誤字・脱字等ありましたら、ご指摘下されば幸いです。
少しずつ書き上げていきたいと思いますので、お時間ありましたら拝読お願い致します。