未来から来た彼女いわく
「それでね。生き物が死ぬ時に、魂は肉体から抜け出て次元のない世界に移るの。そして新しい容れ物を探して彷徨うのね。で、新しい容れ物を見つけるとそこに乗り移る。そうするとその容れ物に生命の火みたいなのが灯るの。そうやって生命が産まれるの。
これが転生。ここまでは分かった?」
そう僕に熱く語るのは、同じクラスの松下さん。圧が強い。
「あ、はい。」
「それでね。魂のいる世界は次元が無いから、空間とか時間とか関係無いの。どこにでも、どんな時間にでも一瞬で行けるの。ううん、一瞬っていうのも違うな。とにかく0なの。これに比べたら普通の0秒がめっちゃ長く感じるほどの0なの。凄い0秒なの。過去でも未来でも何処にでも凄い0秒で行けるの。」
凄い0秒ってなんだろう?
「ええと…それで、君は未来から来た転生者で、かつ僕の子孫なんだっけ?」
「そう。私はあなたの孫の孫の孫で、今から約100年後の世界で高校生してたの。でも死んじゃって…そして気が付いたらこの時代に転生してたの。」
「そうなんだ〜。」
「ちょっと。ちゃんと聞いてる?」
「キイテマスヨ。」
松下さんは、この高校に入学してからの知り合いだ。ただ、知り合いといっても、入学してからこちら3か月、ほとんど話したことも無かったけどね。
ただ、時々彼女の視線を感じるので妙だなとは思っていた。
もしかして、僕が忘れているだけで旧知の仲だったのかもしれない。もしそうだとしたら申し訳ないなと思う気持ちで、自分から声をかけるのは躊躇ってしまっていた。
そして、そうこうしているうちに、意を決した彼女に放課後の校舎裏に引っ立てられ、今に至る。
「信じてくれる?」
「いや全く。」
「酷い。」
酷いと言われましても。
一般的な反応だと思いますよ。
「うーん…やっぱり信じてもらえないか。
じゃあいい。信じてもらえなくてもいい。でもこれだけは聞いて。そして覚えていて。
私は、君の身に降りかかる悲惨な未来を知っています。そしてそれを防ぐ術も知っています。今は信じてくれなくてもいい。でも【その時】が来た時に、今から私が話すこと、思い出して欲しい。」
悲惨な未来って何? 作り話でもそういうの怖いんだけど。
「君は、高校卒業後、地元の大学に進学します。そして、在学中にちょっとしたアプリを作り、起業します。それが後に悲劇を引き起こすもとになることも知らずに…。」
変に盛り上げる語り口調やめて。
学生で起業? アプリ? 悲劇? 破産でもしちゃうの?
「そのアプリはとても画期的な物で、日本のみならず世界中で利用され、事実上の情報インフラと見なされるまでに成長するの。」
え!? 僕そんなにすごいことになるの?
この前、数学で赤点取ったんだけど。
「今から10年後には、デジタル世界をリードする企業群として、君の会社も入っているんだよ前田くん。“GAFAMAEDA“としてね。」
MはMicros◯ftのMじゃん。駄目じゃん混ぜちゃ。
「でも、そんな成功の影で、君の破滅の時は静かに、しかし確実に…近づいていたの。」
だから、その無駄に盛り上げる語り口調やめて。
「世界の要人と肩を並べる存在となった君。自然と敵も増える。君に消えてもらいたい人も多かったでしょうね。」
怒涛の展開に脳の処理が追いつきません。僕、偉大過ぎる。
「ある時、君はある世界的に有名な大学で講演を行うことになったの。
会場となる講堂には満員の聴衆。一部始終を捉え全世界に配信するカメラ。舞台は整った…。」
「もう語り口に突っ込むのは諦めるよ。
なに? きな臭いことになっちゃうの? 暗殺とか? 僕殺されちゃうの?」
「当たらずとも遠からずと言うべきか…。
ところで前田くん。君、好きな食べ物は何?」
「え!? この流れで? …ええと、カキフライ、だけど?」
「そう、カキフライ。
講演の前に昼食が出るの。カキフライ弁当。君はそれをペロリと平らげ、意気揚々と講演会場に向かい、登壇する。」
「ま、まさか…。」
「スピーチが始まる。しばらくすると、君の様子がおかしくなる。そう、ウイルス性の食中毒。
君は腹痛と吐き気を必死に耐えながらスピーチを続けるの。でも、遂に耐えきれず…、」
………ゴクリ。
「壇上で倒れる。
……上から下から、汚物を撒き散らしてね。」
「嫌だあああぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」
「君の痴態は全世界に配信された。さらに君を蹴落としたい人たちが、その動画をあらゆるメディアに拡散したの。そして、世界中の人に一部始終を見られた君は…社会的に死を迎えるの。」
「嫌だああああぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」
「それだけじゃない。君、私は今から100年後の世界から来たと言ったでしょう?」
「ま、まさかっ!!」
「そう、そのまさか。
君が汚物の海に沈むのは今から15年後。そして私がいた時代は100年後。
汚物に沈む君の姿は、100年経った時代でもネタ動画として、人々の心に刻まれ続けているの。」
「イ、ヤ、だああああああぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」
• • •
「はあ、はあ、はあ、なんてことだ。そんな恐ろしい未来が待ち受けているなんて。」
「私の存在を信じろとは言わない。
でも、もし【その時】が来たら、少しだけでも、今日のこの話だけでも思い出して欲しい。」
「…信じるよ。」
「え?」
「君のこともまるまる含めて、全部信じる。
これが作り話だとして、こんな汚い話を、ろくに話したことも無い男子生徒にいきなりするのは、君にとってリスクでしかない。
そんなリスクを冒してまで話してくれたんだ。だから僕は君を信じよう。」
「あ、ありがとう。」
「こちらこそありがとう。君は僕の将来を救ってくれた恩人だ!!」
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僕はその日以来カキフライを食べていない。
そして、松下さんの存在が未来を変えたのか、その後の僕は、大学在学中に世界的な企業を興すこともなく、地元の企業に就職した。
アプリ製作に手を出してはいるけれど、趣味と副業の中間の小遣い稼ぎ程度だ。
どうやら破滅は回避したらしい。
ちなみに現在、松下さんは僕の嫁。
僕としては大恩人だし(多分)、松下さんは松下さんで、荒唐無稽な話を馬鹿にせず信じてくれた僕の事を気に入ってくれて、あれから程なくしてお付き合いをはじめ、やがて結婚したというわけ。
え? 子孫と結婚するのはどうなんだって?
松下さん曰く『私は君の子孫じゃなくて、子孫の生まれ変わり。だから全くの他人』とのこと。
「遺伝的にも全く別だよ。例えば君の一族みんなが苦手な牡蠣も、私は平気。」
と言って、僕の前で美味しそうにカキフライを食べる松下さん。
意地悪さんめ。
おしまい




