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Last Drive with Death.

「キミみたいな若くて可愛い子が、何も今・・・。

 まぁそんな事言ってる僕だって、人の事を言えた義理じゃあ無い、か。」


つい、言ってしまった言葉はもう取り消せない。

その為、自嘲を重ねてそれを打ち消す・・ようにしたかったが、

結局その言葉は彼女に真っすぐに届いてしまっていた。


「そうですね、友達に相談したら、”それだけは絶対にダメだよ”って。

 だけど、わかりますよね?もう、疲れたんです。

 絶望とか、そんな次元を通り越して、もう生きているという事が、

 これ以上の意味を持たない。少なくとも私にとっては。」


その言葉を聞き、少しだけハンドルを握る手に力が入る。

どうして、こんな事になってしまったのか、二人とも。

そうした社会に対しての、いや、人生そのものに対しての

不条理さや投げる先が見つからない怒りがこみ上げる。

しかしもう、それもどうでも良い。

僕たちはおそらくここから一時間もせずに死ぬ。

今はその最後の場所に向けて、車を走らせている。


お互いに、積極的に話す気にはなれない。

だって、もう話しても無駄なのだから。

それでも、もし最後が決まっているのなら、

ここは他人と話す最後の場所でもある。

しかしその他人に思いを伝えた所で、

それを誰かに話してくれるわけでは無い。


それでも、”共に同じタイミングで終える”という事実。

つい30分ほど前、初めて顔を合わせた関係だ。

それでも、最後を共にする不思議な縁の人間だ。


「早く、終わりたい。」


彼女の口からは、後悔や懺悔の類は一切出て来ない。

当然だ。迷いがあるなら、こんな方法は取らない。

覚悟が決まっている者しか、この死へのドライブは選ばない。


最後のドライブだと言うのに、しっかりと信号では止まり、

制限速度を守っている。

本当は別にどうでも良いのだけど、

せめてお互いに綺麗に死にたい。


山の中なんて、見つかるまでに腐敗が進み、

発見された時には綺麗では無いかも知れない。

熊や猪に食われる可能性だってある。

それでも、事故だけは避けたかった。

それは僕のせめてもの彼女への優しさでもあった。


彼女は本当に、世間一般で言う所の美人だ。

そんな子の顔を体をグチャグチャにするような終わり方を、

僕は最後とは言え、選びたくなかった。


「長い、ですね。やっぱり遠いんだな。」


少女が口を開いた。

口コミで見つけた、見つからないであろう場所。

そして僕達の双方ともが、ここなら良いと思える場所。

だから、近ければ何でも良いとか、そういう条件では無い。

ここで終わりたいと、納得した場所だから、遠くて当たり前だ。


「気持ちが変わった?」


別に何の狙いも無く聞いた。

それは今更覚悟が変わるわけでも無い事を理解しながらも、

やはり何かしら最後に会話というものを交わしたかったからだ。


「そうだとして、止めてくれるの?この車。」


「・・・・・・・。」


僕は、答えに窮してしまった。

もし、本当に彼女がそんな事を言ったら。

別に一人で死ぬ事は怖くない。

それでも、彼女が覚悟を曲げてまでもし、気持ちを変えて、

生きたいと願ってしまったら。


「送り返しまではしないけどさ、僕だってもう後戻りはしたくない。

 だけど気持ちが変わったなら、ここで降ろす事は出来るよ。」


「あっそ。でも良いよ、このまま行こう。」


僕の一瞬の悩みは何の意味も無かった。

それはどうでも良いのだが、車が走るほどに時間は近づいている。

僕は期待のような、それでいて、本当に終わるんだと言う実感が

まるで死神が首筋に鎌をかけているような感覚で、少し背筋に

ヒヤリと汗が伝った。

まさか、死を恐れているのか?

しかも、まだ現場に到着もしていないのに。

今からこれでは、いざその時になったら、どれだけ狼狽するのか。

僕は自分の覚悟が揺らぐのが怖くて、彼女に話しかけた。


「人生で・・・良い事はあった?」


少し雑な投げかけだが、今はこれくらいが答え易いだろう。


「・・・。

 あったよ、いっぱい。

 私、自慢じゃないけど、そこそこ恵まれた家庭で育ったの。

 だから、特に不自由は無かったし、病み系の子達みたいな、

 片親だからとか虐待とか、そういうのも無かったし。

 友達関係だって、結構良かった。不自由はしてなかったの。

 もちろん人並には悩みや苦しみはあったけれど。

 だけど、この希死念慮に気付いたのは最近だよ。

 あぁ、結局は何をしても、人は死ぬんだな、って思って。

 キッカケはまぁ、人並だけどさ、動物の死を見てさ。

 そこから何かこう、引き込まれちゃって。」


つまりは彼女は強い動機があったわけでは無い。

イジめや親の厳しい教育等のキッカケでは無く、

こういう言い方は正しくないかも知れないが、

たかだか有り触れた、動物の死、を目の前にして、

その感情が処理しきれなかったのだ。

これはもしかすると、恵まれ過ぎていたがゆえに、

彼女のネガティブな感情に対する処理能力が

非常に少なかったのかも知れない。

だがもう、そんな事は今更僕にはどうでも良い。

最後の1時間を共に過ごし、一人では無く逝ける。

そのための最後のパートナーがこんなに可愛い子なら

安心して逝ける。変な話だが、本当にそう思った。


「お兄さんさ、苦しかったの?」


珍しく、彼女から話しかけて来た。

いよいよ現場が近くなり、彼女も最後の会話をしたくなったのだろう。


「苦しかった・・・・か。

 うん、そうだね、とても苦しかったよ。

 何ものでも無い自分で、この主役だらけの世の中で生きるのは、

 僕にはもう耐えられないと思ったんだ。

 くだらないと思うかな。だけど僕にとっては、

 この人生の意味が無いと思えるに十分だった。

 この先生きても、僕はずっと死んだように生きるだけ。

 それだったら、せめて最後くらいは自分の判断で、

 主体を持って死にたいと思ったんだよ。」


「そっかぁ。」


彼女はそっけない返事を返した。

それぞれの事情はそれそれ本人の主観としてしかわからない。

彼女に対していくら言葉の限りを尽くした所で、結局の所、

それぞれの空虚さや無力感は本人にしかわからないのだ。


「着いたよ。」


とうとう、目的地の山に到着した。

口コミでは、ここから10分ほど歩いた先にある看板で

侵入禁止のほうに入り、そこから更に10分。

その斜面を上手く下った先が、まず人に見つからない場所だと言うのだ。

覚悟が決まっているにせよ、光の無い夜の闇は本能に訴える怖さがあった。


遠くでは何かの遠吠えが聞こえ、虫の羽ばたきや鳥が木から木へ飛び移り、

山は決して静かでは無かった。

懐中電灯を点けて、彼女へ確認した。


「行くよ。」


彼女は何も言わず、ただ無言で付いて来た。


無心に山を歩く。

あと20分足らずだ。

それで、全てが終わる。

何だか実感が無い。


脳内にふと、早すぎる走馬灯が蘇る。

高校時代、バイト先で好きだった子に玉砕した告白。

中学時代、惜しくも県選抜を逃した試合の涙。

小学校時代、自動販売機から自動販売機までの間を

必死でダッシュした。

そしてまだ物心が付いたばかりの一番古い記憶、母の子守歌。

突然、涙がブワッと溢れた。


少女がこちらを見、無言で圧をかけた。

それはきっとおそらく、「ここまで来て怖気づいたのか?」

というものだろう。


違う。覚悟は決まっているのだ。

ただ、何故だかわからないが、とめどなく涙が溢れた。

いや、わかっている。これは後悔だ。

だがしかし、もちろんここまで来て後戻りは無い。

そもそも、もう半分ほど来て、看板の立ち入り禁止まで来た。

これを逸れて、後はもう斜面の所まで行き降りてしまえば、

戻る道すらわからなくなるだろう。

食料も持って来ていないし、水も無い。

携帯も車に置いて来た。

今更こんな暗闇の中で、帰り道に戻れない。

それに、懐中電灯の灯りが頼りなくなって来た。

わざと、寿命の近い電池を入れて来たのだ。

これらは全て、直前になり怖気づいた時の為に計画した

後戻り出来ないための処置だった。


「ここですね。」


少女が静かに呟いた。

見ると、砂の多めの斜面が、下の方まで続いている。

普通、山の斜面は小さく生えて来ている木の芽等があり、

降りようとしても色んな障害物に引っかかり、降りれたものでは無い。

しかしこの場所は、まるで悪魔が口を開けて待っているように、

僕達の侵入を歓迎していた。


「うん、行こう。」


もう、”気を付けて降りてね”なんて言う段階では無かった。

今から数分後、僕達は自ら命を絶つ。

そんな相手に、心配なんてかける必要は無い。


降り切ってしまった後、これ以上無いような太くて位置も良い

木の枝があった。


「ここにしようか。」


僕が言うと、彼女はカバンから縄を取り出した。

僕もおそるおそるそれを出す。

そして互いに、ゆっくりとそれを木の枝に結ぶ。


絶対に、ほどけて中途半端に苦しんだ後に落ちてしまわぬよう。

ここが一番大切な最後の作業だ。

僕は丁寧に、何度も何度も確認した。

木の枝のサイズは十分だ。彼女のものも、一緒に確認した。

これはもう、絶対に大丈夫だと、核心した。


「・・・・・・。」


お互いに、無言で目を合わせる。

彼女の眼は、決心は定まっているものの、最後の最後になり、

少しだけ目に涙を浮かべていた。

僕は無意識に彼女の片手を自身の片手で握った。


「一緒だから、大丈夫だよ、逝こう。」


彼女は頷きもしなかったが、握った手がギュッと握り返された。


そして二人、持って来た折り畳みの小椅子の上に立ち、首に縄を掛ける。


彼女は、泣いていた。

そこにどんな感情があったのかは、うかがい知れないし、知りたくも無い。

もうここまで来れば、無心だけなのだ。

だが、それなのに。もう、あと一歩だと言うのに、この涙は何だろう。


思いとどまらせる。決心を鈍らせる。

これほどまでに、人の心は、脆い。

もう、今更何をどうしても遅い、遅すぎるのだ。

このまま中止だ、取りやめだと言ったとして何になる。

もう、退路は断たれたのだ。

懐中電灯の灯りが消えた。

これが合図だ。


「さぁ、逝こう。」


言って、僕は椅子を蹴り飛ばした。


隣で、同じ音が聞こえた。


グッと強く首に抗いがたい圧力と痛みがかかる。

すぐに喉元を圧迫して、目が飛び出しそうになる。

体が制御が効かない。痙攣している。

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ




やがて僕の意識は途絶








コレが、私があの日一緒に居た男性の意識を最後まで追った、

その意識ジャックの一部始終です。


私はあの日、本当に死ぬつもりでした。

そして確かに椅子を蹴った。

そして縄が首に強く締まり込んだ。


しかし、それがスルリと抜けてしまったのです。

これは運命を呪うしかありませんでした。


隣には藻掻く彼。

しかしもう、どうする事も出来ません。

今更私も、他の死に方を出来るほどに何か力が残っているわけでも無い。

するとそこに、遠くから呼ぶ声とライトが照らされました。


「お~い、車番〇〇ー〇〇の人達、どこに居ますか~?」

それは、乗り捨てた車を発見した人達が山に入って来たのでした。

私は助けてすら言う力が無く、ただ一言力の限り、


「あ”--------!!!!!」


と叫びました。

するとライトがこちらの方を照らし、私達が見つけられました。

そこからは、意識を失ってしまい、気付けば病院のベッドでした。


私はあの壮絶な経験の後に、

他人の意識をジャックする能力を得たようなのです。


そしてそれがわかったのが皮肉にも、まず最初に流れ込んで来たのが、

あの日の彼の最後の1時間の意識だったのです。


別に見たくもありませんでしたし、それでも私がこの力を得た意味は

一体何だったのか。今でも何度も自問します。


私は今ではあの日の事を反省し、少しでも前向きに生きるよう、

カウンセリングを受けて徐々に精神が安定して来ています。


だけど、それでもあの日の私達の判断は決して

間違ってはいなかったと思います。


人には生まれる自由は無い。

それならばせめて、意識が生まれた後は自分の命を終わらせる自由は

あるべきなのでは無いか、それはあの日の私と、そして彼の

根本的な人間という存在の、人間であるための一種のプライドのような

言葉にはし切れませんが、割り切れない何かの思いなのです。


私は、これを誰かに理解して欲しいとも思いません。

今では生きようと思っていますが、またいつか、あの日のように

ふと、終わらせたくなる日が来るかも知れません。


一体、人間とは何なのでしょうか。

よく、精神世界、いわゆるスピリチュアルだったり、宗教とかでも

「自死はいけない」と言われます。

それは何となくはわかるし、説明されると「なるほど」と、

一旦納得したりもします。

だけど魂の学びだとか、言われてもそれでも人間の自由は変えられません。


生きるという意味と同じくらい、死ぬ事の意味についても、

考えるべきだと思いませんか?


そしてそこには、未来を考える為みたいなポジティブも、

はたまた絶望のようなネガティブも必要ありません。


何故なら人間はただ、生きているだけだからです。

主観を取り払った時、そこにただある事実は、

生きているという事です。


皆さんは、どのようにお考えでしょうか。

道徳や宗教、倫理観、あらゆる外側を取り払って、

自分の本質で考えて、それぞれの答えを見つけて下さい。

それでは。

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