スパダリ的QTE
(クソ“どっち”だ……!?)
三十を超えるゾンビアタックは先に進むという本命以外にも副次的な恩恵を齎していた。
幾度も幾度もリバイバル上映された走馬灯に起因する思考の加速だ。
セルフ走馬灯状態に入ったルイは必死に頭を回転させる。
今示されている二択のどちらが正しいのか。
間違えてもやり直せるとはいえスムーズに行くならそれに越したことはないのだから。
(……誓文……ならばッッ!!)
導き出した答えと共に指輪を握り締め刀に変化させると、
「おぉっと」
モモに斬りかかった。
当然、刃は届かない。扇子で受け止められ鍔迫り合いが発生する。
「え……え、ちょ、神央くん!? な――むぐ!?」
「これはこれは何のつもりかな少年」
ワンテンポ遅れて状況を把握したハジメが何か言おうとするが鎖で口を塞がれてしまう。
一方斬りかかられたモモは心底楽しそうにしていた。
「それはこっちの台詞だよ。“何のつもり”だ?」
「これでも私は君にとっては命の恩人に当たると思うんだが」
「そうだね。職務であろうと救われたのは事実だ。ありがとう」
でも、とルイはモモを睨みつけハッキリと告げる。
「僕にとっては九十九さんの方がよっぽど大切だ」
「……!」
「僕の馬鹿な目標を笑わず肯定してくれた大事な友達だし」
何より命の恩人というのであればそれはハジメもそう。
更にモモもハジメに借りがあるとルイは指摘する。
「あんたが介入するまで僕が生きていたのは何故だ?」
「……九十九ちゃんのお陰だねえ」
「そう。それはつまりあんたにとっても恩人であるということだろう?」
「ほう?」
「無辜の人間を護るのが役目だと言ったのはあんただ」
ハジメが可能性を繋がねば自分たちは死んでいた。
モモが守護せねばならない無辜の人間が二人も、だ。
「なるほどぉ。職務を全う出来たのはお嬢さんのお陰と言いたいわけだ」
恩人という言葉には一定の理がある。
そう認めた上でモモは更に問いを重ねた。
「しかしいきなり斬りかかるのはどうかと思うがね?」
「素人だからと僕を侮るなよ」
「う~ん?」
「確かに僕は争いとは無縁の人間だ。ああ、喧嘩の経験も覚えている限りではない」
だが今回、望まぬ形ではあったが命懸けの戦いを経験した。
極限状態で無機質な殺意に晒され続けるという経験はルイに一つの感覚を身に着けさせた。
「殺意が滲んでたぞ」
「!?」
殺意という言葉にハジメが怯えを露わにする。
視線はモモに注がれたままだがルイは敏感にそれを察知し大丈夫と穏やかに語り掛けた。
スパダリの面目躍如と言った展開に興奮が収まりません。
「ハッハァ! 素人だからと気を抜いていた私のミスというわけ、だ」
モモはあっさりと殺意を忍ばせていたことを認めた。
「ああ、ああ、その通り。面倒だし始末してしまうのが手っ取り早いかとは思ったよ」
「……」
「だが殺すつもりなら拘束などせず即座に首を刎ねてしまえば良い」
それこそ君が反応する間もなく。
つまり拘束した以上は今ここでハジメを始末する気はないということ。
「少しばかり短慮だったね。まあ“良い人”が殺されかけたともなれば取り乱すのは無理もないが」
むしろ素人としてはよく状況を見ている方だと褒めるモモをルイは鼻で笑い飛ばした。
「鈍いなプロフェッショナル」
「ほう?」
「それを踏まえた上で、だ」
「……なるほど。意思表示というわけだ」
微かな隙を見逃さない。
ただの素人と侮れば痛い目を見る。
「――――お嬢さんに手を出すなら何が何でも私を殺してやる、と」
更にその笑みが深くなる。
百点満点どころか百二十点の対応を取れたらしい。
まあルイ的にはモモの点数よりハジメの採点の方が大事なのだが。
「訳を話してもらう」
モモに向けていた刃は引き、さりとて臨戦態勢は崩さぬまま続きを促す。
当然、ハジメを庇うような位置取りは忘れない。
「勿論。まあ何だ。そちらのお嬢さんが持つ力はどうやらこの上なく厄介な代物のようでねえ」
「わ、私の力……? い、一体何を言って」
拘束を解除されたハジメが怯えを滲ませながら問う。
「“不完全な付喪神”を生み出す力さあ」
「「!?」」
付喪神は原則自然発生するもの。
しかし極まった一部の付喪神は同種に限り付喪神を生み出すことが出来る。
それと同じようなことが出来るのだ。
「厄ネタだろう?」
「……つまり、これは。いやでも」
「言いたいことは分かる。だって君のそれ、元は指輪だものなあ」
「ああ」
「でも鍔の形に指輪の意匠が見られるだろう?」
「それはまあ、そうだけど」
閉じた扇子を口元に当てながらモモは続ける。
「頭が硬いね。君と戦ったぬいぐるみたちを思い出すと良い」
戦いの中で形を大きく変化させたものは居なかったか? 確かに居た。
頭が突然大きくなったり爪が突然肥大化するようなもの。
別のぬいぐるみと合体してキメラのようになったものまで居た。
付喪神の正式な定義上、形はそこまで重要ではないのだという。
「さっきも言ったが超常の力と意思を備えた器物。それが付喪神の定義だ」
それを踏まえた上でお嬢さんの力について語ろう。
モモはそう言ってルイが握る大小二振りに視線をやる。
「今そこに欠けているのは“意思”だけだ」
「……不完全というのはそういうことか」
「呪具や魔具。超常の力を備えた器物を作る手段は幾らでもある」
だがそれらとハジメの力は決定的に異なっている。
通常の呪具などは決して付喪神には成り得ない。
特殊な器物として製造された時点で付喪神に成るための余白が消え去るからだ。
だがハジメの力によって変化した器物は違う。
付喪神から意思だけを抜き取ったような不自然な形をしているのだという。
「その空白に意思という欠片を嵌め込めば即座にその指輪は付喪神と化すだろう」
不完全な付喪神になっているのは力に目覚めたばかりで未熟だからなのか。
或いは不完全な付喪神を作り出すという能力なのか。
今は分からないが問題はそこじゃない。
「どちらであっても厄介だろう?」
前者は言わずもがな。
後者も意思という欠片を嵌め込む手段があれば付喪神を量産出来るということなのだから。
この物質社会においてハジメの力は脅威以外の何でもない。
本人にその気がなくても悪意ある人間や付喪神にハジメの力を利用されたら同じこと。
「だからまあ手っ取り早い考えが脳裏をよぎってねえ」
嘆息するモモだがルイはもうそれどころではない。
何でって?
(やっぱりお前じゃねえか!!!!)
ルイ、キレた。
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