反省文の効果
四十五周目。
前は何だったの? というぐらいあっさり撃墜スコアを稼ぎイベント発生。
「やあや少年。見事な暴れっぷりだったね」
力では押し切れないと判断したのだろう。
恐竜のぬいぐるみが一旦腕を引き攻め手を変える。
しかし女はその場から一歩も動かず視線も向けぬまま扇子一本で捌き続けていく。
絶技と呼んで差し支えないがルイにとってはそんなことはどうでも良くて……。
(――――コイツはいずれ必ず殺す)
殺意を漲らせていた。
OK。理由を説明しよう。ルイは気付いてしまったのだ。
この女が幾度も幾度も自分を見殺しにしたクソ女であるということに。
残念ながらルイの十八番である言いがかりではない。確たる事実だ。
『見事な暴れっぷりだったね』
この発言が何よりもの証拠である。
どの地点からかは分からないがある程度、見続けていなければこんな言葉は出て来ない。
ルイがこれまで死に続けて来たことを考えれば見殺しにしたクソ女と言われるのは当然。
女もまさか繰り返しというあり得ない視点から看破されているとは夢にも思わないだろう。
(殺すのは決定だが問題はそのタイミングだね)
新たな道が拓けたからこそ出会えた人間だ。
何かしら重要な役割を担っている可能性がある。
ゆえに殺すなら用済みになってから。
(じれったくはあるが……まあ良い。僕の手を汚さずどう始末するかをゆっくり考えようじゃないか)
完全に悪もんの思考である。
「おっと失礼。年長者でありながら礼を欠く振る舞いだったね」
ふわりと撫でるように扇子を振るうと恐竜がたたらを踏み尻もちをついてしまった。
完全に相手を小馬鹿にした振る舞いだ。
恐竜は怒りも露わに咆哮を上げるが不思議と女の声の方がよく聞こえた。
「私は一ノ瀬 百。親しみを込めてモモちゃん、と呼んでくれたまえよ」
「……」
「フッフ、警戒させてしまったかな? まあ無理もない、か」
反応がなくとも気分を害した様子はなくむしろどこか愉快そうだ。
貼り付けた笑顔の裏で何を考えているかが分からない。
何もかもを霧で覆い隠しているような得体の知れなさがモモにはあった。
(フン、人が死んだ程度で動揺する輩が大物ぶるとか滑稽だな)
いやその理屈はおかしい。
というかモモが動揺したのは人死にそのものではないだろう。
理解の範疇を超える行動にこそ狼狽したのだ。
だってあの局面でルイが自殺する理由がマジでどこにもないのだから。
「……いや少し不機嫌になっただけさ」
「ほう?」
薄笑いが消える。
「さて感謝されこそすれ君の気分を害するようなことをしたつもりはないのだがねえ」
「これで僕も男の子でね。いきなり獲物を掻っ攫われて良い気分はしないさ」
何せ、と未だ翻弄され続ける恐竜を見つめ告げる。
「記念すべき百人斬り達成でお預けを喰らったものだからね」
「アッハッハ! なるほど成る程ォ。それは確かに私が、悪い。弁解のしようもない」
モモは心底楽し気だ。
(フン、安い女だ)
目論見通りだとルイは嗤う。そう、このやり取りは意図したものだった。
普段のルイは基本的に大体の人間から九十点ぐらいを取れる対応を心がけている。
だがモモ相手ではそれは意味を成さないだろうと。
暫定重要人物が相手なのだからとりあえず好感度を稼いでおこう。
そういう狙いで言葉を選び取り見事、成功したというわけだ。
「失敬失敬。だがまあ、ここは譲っておくれ。これでも公務員でね」
何も仕事をしなければ給料泥棒の謗りを免れないとモモは笑う。
当然のことながら彼女はルイが恐竜に敵わないということは分かっている。
だからこそ介入したのだ。ここまでやれる男をここで死なせるには惜しいと。
それでもルイの言葉に乗ったのはその強がりを好ましいと思ったからだ。
「……そうか。ならここは花を持たせるよ。ああそうそう、僕は神央累だ。好きに呼んでくれ」
「ならルイくんと。フフ、では終わらせようか」
ひゅっ! と扇子を横薙ぎに一閃。恐竜はバラバラになった。
「さて。色々と事情を聞きたいところだが」
片膝を突きそっとルイの頬に手を添える。
この何気ない行動がルイの怒りを買った。
(僕のご尊顔に気安く触れやがって……!!)
自分の顔をご尊顔なんて言わねえよ。日本語不自由か?
「その前にまずは治療だね。かなりの霊力だが流石に放置すればよろしくなかろう」
「いや僕は平気だ。それよりクローゼットの中に連れが居るんだ」
負傷はない。それでも不思議な力を使った影響でかなりの消耗が見られた。
そちらを何とかしてやってくれという懇願にモモは大丈夫と微笑む。
「二人ぐらいなら死にかけであろうとも問題はないよ」
言うや触れた手から光が溢れルイの傷は完全に塞がった。
千切れかけていた手足も完全に元通りだ。
「傷は治せたが体力が戻るわけじゃない。あまり無理はしないように」
そう告げてモモはクローゼットに向かった。
「神央くん、終わっ……え、誰?」
喧噪が消えクローゼットが開かれたからルイが勝ったと思ったのだろう。
壁に背を預け休んでいたハジメが安堵の表情を浮かべるが直ぐにそれは驚きに変わった。
「やあや、私は一ノ瀬百。モモちゃんと呼んでくれたまえ」
「あ、あの……」
「大丈夫。ほら、君の連れも無事さ」
モモは軽く体をずらし外の様子が見えるようにしてやった。
ひらひらと手を振るルイを見て身を乗り出していたハジメは安堵の息を漏らす。
「良かった……あ、あれ……?」
「おっと」
その場に崩れ落ちそうになったハジメを抱き留めモモが言う。
「君は外傷こそないが中身が随分と消耗しているようだ。少し休むと良い」
「ぁ」
とん、と軽く額を指で弾き意識を刈り取る。
モモは気絶したハジメを片手で担ぎ上げクローゼットを出た。
「一ノ瀬さん」
「モモで良いと言っただろ? ま、安心したまえ。君も彼女も無碍には扱わないとも」
「……ありがとう」
限界なのはハジメだけでなくこっちもだ。
うつらうつらと舟を漕ぎ出しているルイも抱きかかえるべく手を伸ばそうとして、
「どうかしたかね?」
自分を見つめる怪訝そうな目に動きを止める。
「……あの、あなたと僕はどこかで出会ったことがないだろうか?」
「――……口説かれているのかな? うん、悪い気分はしないね」
冗談ではなくて、と言い募ろうとしたルイを遮り意識を飛ばす。
倒れてきた体をフリーの手で抱き留めるとモモは小さく笑った。
「フフ、中々どうして」
凄い。反省文書くだけで展開がこんなにもスムーズに。
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