スパダリ五箇条の御誓文
その日も僕は百点満点の僕だった。
美貌に翳りはなく喉の調子も良いし心臓だって元気に動いている。完璧だ。
路傍の小石にも似たその他大勢とは違いただ生きているだけで偉いのが僕だからな。
しかし僕が完璧でも“世界の方”はそうじゃなかった。
「きゃぁああああああああああああああああああ!!?!?」
スマホ、ノートパソコン、携帯ゲーム機。
それら電子機器から黒い影が飛び出し人々を襲い始めたのだ。
聖夜を控える白昼の賑やかな繁華街は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図に早変わりした。
僕は自らのスマホを捨て影の怪物たちから逃げて逃げてひたすら逃げ続けた。
そうして体力も限界というところでとある場所に飛び込みしばらく隠れ潜んでいたのだが……。
「ッッ……!!」
総毛立つほどの悪寒が駆け巡った。
酷く恐ろしいのに何故だか無性に惹き付けられる。
ふらふらと誘われるように窓辺に向かい、僕はそれを目にした。
「は?」
黒い空が堕ちて来た。
そう認識した瞬間に僕の意識はぷつりと途絶える。
そしてどれほど経ったのか。目を覚ますと僕は何もない真っ白な空間に佇んでいた。
「こ、ここは」
ふと背後に気配を感じた。振り向けばそこには一台のテレビが鎮座している。
何時だったか祖父母の家の蔵で見たやたら分厚い昔のテレビだ。ブラウン管だったか?
僕が困惑していると黒い画面にノイズが走った。
【はじめまして神央 累さん】
「何で、僕の名前を」
【唐突に感じるかもしれませんが世界は滅びました。あなたのせいで】
「は?」
【端的に理由を教えてあげましょう】
世界が滅んだというのも意味不明だし、ましてや僕のせいだと?
何を言って……いや何を表示しているんだこのガラクタは。
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「何言ってんのお前」
【でもそんなお前にやり直す機会と助言をあげます。これを遵守すれば必ず道は拓けるでしょう】
画面が切り替わり以下の文章が表示される。
【スパダリ五箇条の御誓文】
一、見目麗しく在る努力を怠らないこと
一、文武両道を心がけること
一、多芸多才を心がけること
一、最低でも上の下ほどの経済力を有すること
一、分け隔てなく優しく在ること(※但しヒロインには“特別”な対応を心がけること)
「何様だクソがッ! というかヒロイン“誰”だよ!?」
【では今度こそよろしくお願いしますね】
「僕の話を聞――――」
またしても意識が途絶える。
目を覚ますとそこは僕の住むアパートの自室だった。
デジタル時計を見れば高校入学前日の日付になっていた。
「ゆ、夢……?」
僕には高校三年の冬までの記憶がある。
だが幾ら何でも色々と非現実が過ぎるだろう。
「……高校入学と一人暮らしでナーバスになり心のバランスが崩れていたのかもしれない」
そう結論付けて諸々の非常識を夢で片付けることにした。
そして僕にとっては体感二度めの高校生活が始まった。
絶え間なく既視感に襲われていたが幾ら何でもあれはない。
そう思い時は流れ、
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
僕はまたあの白い空間に佇んでいた。
【でもそんなお前にやり直す機会と道を示してあげます】
意識が途切れ目を覚ますとそこは(以下省略)。
「いやないな」
諸々の非常識を夢で片付けることにした。
そして僕にとっては体感三度めの高校生活が始まったが、
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
またここだ。
そうして四回、五回、六回と数を重ねていくと、
【いい加減にしろ! 現実から目を背けるな!!】
都合十三回目でテレビがキレた。
事ここに至っては僕も認めざるを得ない。
(世界は滅びたし、時間も巻き戻った)
諸々の非常識の幾つが夢ではなく現実であると。
ただ怪しい点もある。何故僕か、とは思ったが僕はまあ百点満点の男だからな。
世界を救ってしまえるだけの器があるのだろう。
だがそれはそれとして、
【さっさとスパダリ修行始めろ! 無駄に時を過ごすな! じゃあいってらっしゃい!!】
スパダリって何だよふざけてんのか!?
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