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上司がSNSでバズってる件  作者: KABU.


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8/50

第8話:課長、好きです

朝。

いつもの通勤電車。

けれど今日の真由は、心臓の音がいつもよりずっと速かった。


(……今日こそ言う)

(もう、隠したままじゃいられない)


昨日の投稿が何度も頭をよぎる。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“理想の上司”なんていらない。

 君が笑う、それが俺の答えだ。」


彼の“答え”。

その言葉に背中を押された。



会社。

朝礼前の静かなフロア。

柊課長のデスクに、まだ彼はいない。


真由は書類を整理しながら、

自分の指が微かに震えているのを感じていた。


「……緊張しすぎ」


つぶやいた瞬間、後ろから声。


「何がだ?」


「っ!」

振り向くと、いつの間にか柊が立っていた。


「か、課長……!」

「おはよう。顔が赤いな。熱か?」

「ち、違います! その……あのっ……!」


言葉が喉で詰まる。

言いたいことがありすぎて、

何から出していいかわからない。


彼はいつもの無表情で、

机の上にコーヒーを置いた。


「今日も一日、頼むぞ」

「……はいっ」


一瞬の会話。

それだけで胸が苦しくなる。


(今日こそ、言わなきゃ……!)



昼。

社食。

成田が隣の席にどかっと座る。


「真由〜。また“理想の上司”バズってるぞ!」

「え、また!?」

「“俺は理想なんかじゃない。人を好きになるただの男だ”だって!」


「……っ!」

箸が止まる。


(……それ、もう完全に)


「なぁ、これってもしかして……恋愛宣言?」

「さ、さぁ!? 知らないです!」

「藤原、お前、顔真っ赤だぞ」

「う、うるさい!」


そこへ、廊下から柊が通りかかった。

すれ違いざま、目が合う。


彼の視線が一瞬だけ止まった。

そのまま、何も言わずに去っていった。


(……絶対、わかってる)



午後。

プレゼン資料の修正を頼まれ、会議室で二人きりになった。

沈黙。

マウスのクリック音だけが響く。


「藤原」

「……はい」

「昨日のリツイートの件、皆に何か言われたか?」

「少し、からかわれました」

「気にするな」

「でも……課長の方こそ、大丈夫なんですか?」


「俺は、構わない」

「“人を好きになるただの男だ”って……投稿、見ました」


彼の指が止まる。

ゆっくり顔を上げる。


「……そうか」

「課長……あれ、本当ですか?」


沈黙。

長い、深い息。

彼は、目を逸らさずに言った。


「本当だ」


「っ……!」


「けど、立場上……」

「関係ありません!」


真由の声が少し震える。

「誰を好きになっても自由です。

 私は――」


一歩近づく。

机の上の資料が微かに揺れた。


「私、課長のことが好きです」


空気が止まる。

心臓の音が、二人の間に響く。


柊は驚いたように目を見開き、

それから小さく息を吐いた。


「……やっぱり、君は真っ直ぐだな」


「……すみません、職場でこんなこと」

「謝るな。……俺の方こそ、隠していた」


(“隠していた”……やっぱり)


彼はゆっくりと視線を落とす。


「君の投稿、最初に見たとき。

 “頑張ってるのに報われない人”って言葉に、

 心を掴まれた。

 いつの間にか、目で追うようになってた」


「課長……」

「でも、俺は上司だ。君を守る立場だ」

「私だって、もうただの部下じゃいられません」


その瞬間、彼の表情が崩れた。

微かに笑って、でも寂しそうで。


「君は危なっかしい」

「よく言われます」

「……そのままでいい」


(今、確かに届いた)



夜。

ビルを出る。

街のネオン。

風が少し冷たい。


スマホが震える。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“好き”って言葉は、職場よりも風の方が早く届くらしい。」


ふっと笑って、指で“いいね”を押す。


(もう、隠さなくていいや)


画面を閉じて、空を見上げた。

その空の向こうにも、きっと彼がいる。

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