表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上司がSNSでバズってる件  作者: KABU.


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話:一週間前の“約束”と二人だけの作戦会議

翌日。


異動発表から一夜明けたはずなのに――

オフィスの空気は、昨日の延長線みたいにざわついていた。


「柊さん、今日から統括室の会議もう3本入ってるらしいよ」

「え、まだ正式異動前なのに?」

「引き継ぎが“異常レベルで丁寧”らしい。さすが柊さん」


(……“丁寧”っていうか……

 責任感が重いだけ……なんだよね……)


私はデスクでパソコンを開きながら、ポッと胸が熱くなる。

昨日の誠さんの言葉が、まだ耳に残っていた。


『来週からはもっと忙しくなる。

 それでも君が寂しくならないように、

 会いに行く努力はやめない。』


(……反則なんだよなぁ……

 ほんとにあの人、言葉のタイミングが……ずるい……)


成田がコーヒー片手に近づいてきた。


「お、昨日なにかあったな? 顔が“幸せの青い鳥”みたいになってるぞ」


「鳥に見えるほど顔変わってません!」


「まあまあ、よかったじゃん。柊さん、異動でもう会えないんじゃとか言ってたのに」


「……べ、別にそんなこと言ってません」


美咲が書類を抱えながら通り過ぎる。


「でも、ちゃんと顔色治ってきたわね。昨日の夕方は“失恋した子猫”みたいだったのに」


「例えがひどすぎる!!」



午前10時。


新ブランドの合同会議が広報ブリッジで行われる日。

今日だけは“誠さんが広報フロアに来る”――

それを知ってるだけで、胸の動悸がうるさい。


コンコン。


ドアが開く。


「失礼する」


(っ……!)


統括室の資料を持って、誠さんが入ってきた。

スーツ姿はいつもどおりなのに、空気だけが微妙に違う。

責任者としての緊張と、でも私を見るとほんの少し優しくなる眼差し。


(……変わってるけど……変わってない……

 そんな感じ……)


会議が始まって30分。


プロジェクト責任者の営業部長が言った。


「広報BRIDGE側の“強み”と“弱み”を整理したい。

 藤原さん、説明できるか?」


急に名指しされたけど、私はすぐ立ち上がる。


「はい。現在のBRIDGEは、SNSと動画媒体での反応が強く、

 特に“信頼関係”や“ストーリー性”のある写真が伸びます。

 一方、リアルイベントやアナログ媒体には弱い傾向があり――」


誠さんが軽く頷く。


(認めてくれてる……)


「以上です」


部長「完璧だ。……柊、どう思う?」


誠さんは資料をめくって、落ち着いた声で言った。


「藤原の分析に異論はない。

 むしろ――BRIDGEが“強み”をさらに引き出せるのは、

 彼女のように現場の空気を丁寧に拾える人間がいるからだ」


(……!)


部長「へぇ……そう言える人間は少ないな」


誠さん「事実を言っているだけです」


(うわぁ……また平然と褒めてくる……

 会議中にこういうこと言うのやめてほしい……!

 いや、嫌じゃないけど……!)


周りの広報メンバーも軽くざわついている。


「さすが柊さん」

「藤原ちゃんの分析力、すごいって話だしね」


なんだか、胸が少し誇らしくなる。



会議後。


会議室から出た瞬間、誠さんが自然な声で言った。


「藤原。あとで資料の最終チェック、一緒にしたい」


「……はい!」


――その“はい”が、思わず明るくなりすぎた。

すぐ横で、成田が肘でつついてくる。


(うるさい……!)



午後3時。


資料最終チェックのため、会議室で二人きりになる。


誠さんは静かに資料をめくりながら言った。


「……午前中、よく頑張ったな」


「えっ……あ、ありがとうございます」


「藤原があそこまで落ち着いて説明できるとは、

 正直……少し驚いた」


「え、驚いたんですか」


「いや、褒めている」


「褒められ慣れてないんで、わかりにくいです!」


静かに笑う。


その笑顔が、仕事モードの鋭さを少し柔らげた。


「藤原」


「はい」


「昨日の……不安の件だが」


(っ……! まだ気にしてる……)


「俺は今日、確信した」


「確信……?」


「距離が離れても……

 こうして“繋がる時間”を作れば大丈夫だ」


胸が熱くなる。


(ほんとに……ほんとにこの人……)


誠さんは少し迷って、視線を伏せたあと――


「……俺は、“君の成長を見るのが”嬉しい」


「っ……」


(急にそんな……!

 どうしてそんな大事なことを……平然と言えるの……)


「離れても、見ている。

 だから……不安に思う必要はない」


(不安になるなって言われても……

 そんな言葉もらったら、逆に……

 好きが増えるだけなんだけど……)


「……誠さん」


少しだけ近づく。


「私も……誠さんの“成長”見たいですよ」


「俺の?」


「はい。異動先で大変でも……

 “あ、この人、またかっこよくなってる”って思いたいです」


誠さんが一瞬固まる。


「……それは……」


「え?」


「……それは危険な発言だぞ」


「なんでですか?」


誠さんは目をそらし、少し照れたように言った。


「褒められると……調子に乗る」


「乗っていいですよ。

 私はちゃんと、ついていくんで」


沈黙。


会議室の静けさの中、

誠さんの喉がひくりと動いた。


そして――


「……藤原」


低い声。


「今、すごいことを言った自覚はあるか?」


「え、えぇぇ!?」


誠さんは席を立ち、


「……“ついていく”なんて言われたら――

 俺は、もっと君を離したくなくなる」


「っ……!!」


(だめ……心臓がもたない……!)


「距離ができる前に、そんな爆弾を投げるな」


「それ言うなら、誠さんだって昨日から爆弾投げてます!」


「俺は自然体だ」


「便利な言葉に逃げないでください!」


二人で声を押し殺して笑う。


(……距離は離れる。

 でも、気持ちは離れない。

 むしろ近づいてる……)


そんな実感が、今日一日でゆっくり強くなっていった。



夜。


残業を終え、外に出ると少し冷たい風。


スマホが震える。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“離れる”ことより、

 “また会える理由”を増やす方が大事だ。」


返す。


《@mayu_worklife》

「じゃあ、今日のは一つ増えました。

 “あなたの成長、見たいって言った理由です。”」


すぐに通知。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「……反則だ。」


(言わせたのお互い様です。)


夜空を見上げると、少しだけ未来が近く見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ