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上司がSNSでバズってる件  作者: KABU.


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32/50

第32話:動き出す二つのチーム、離れる距離と埋まる距離

異動発表の翌週。

オフィスは、春を待つようなそわそわした空気に包まれていた。


真由のデスクには、メールが次々と届く。


【件名:藤原さん、次の広報会議の資料について】

【件名:理想の上司PJ・現場窓口の件で相談】

【件名:来月以降の進行確認をお願いしたい】


(……ほんとに、“現場の顔”って感じになってきた……)


キーボードを叩きながら、思わず息をつく。


すると背後から声がした。


「藤原、進捗はどうだ」


「あっ、課……誠さん。来たんですか」


「顔を見に来ても不自然ではないだろう。この部署に在籍している間は」


「それ、自然な理由に聞こえません」


「自然だ」


「便利ワード!」


彼は隣の椅子に腰を下ろすと、モニターをのぞきこんだ。


「メールの量、増えたな」


「……はい。なんか、毎日“3倍”くらい増えてます」


「いいことだ」


「よくないです! 私のキャパ超えてます!」


「だが、お前ならできる」


真由は顔を上げる。


「……根拠、あるんですか」


「ある。俺が見ていた」


「……課長って、ほんとずるい言い方しますよね」


「誠だ」


「結局それ!」


(……でも、嬉しい)


そこへ成田が勢いよく駆け込んだ。


「ふじわらぁぁぁぁっ! 緊急だ!」


「うわっ、びっくりした! どうしたんですか!」


「外部メディアから、“続編取材”の依頼来たぞ!」


「続編……?」


「“理想の上司プロジェクト”の特集・第二弾だってさ。“柊課長の異動と、チームの新体制”を追うとかなんとか」


「え、そんな……!」


成田はニヤリと笑う。


「で、取材対象は――」


視線が真由に刺さる。


「……私?」


「そう。お前は“チームの顔”だからな」


(……ほんとに来た、“顔”仕事……!)


柊が口を開く。


「受けよう」


「課長!?」


「このタイミングで逃げるのは逆効果だ。“信頼”は見せなければ伝わらない」


「またそういう言い方……!」


成田が肘で真由をつついた。


「おい藤原、覚悟キメとけよ。“理想の上司の後継者”扱いされるぞ」


「後継者は無理ですから!」


「誠を超えればいい」


「絶対無理ですから!」


柊は何事もないようにPCを開きながら、


「不可能と決めるな。お前の声は、すでに組織を動かしている」


「……そんな言われ方……ずるいです」


また言ってしまった。


(ほんと……この人、言葉の選び方が反則すぎる)


午後。

取材を受けるため、真由は会議室へ呼び出された。


カメラマン、記者、広報チーム。

そこにいつも通りのスーツ姿で座る柊。


記者が言う。


「では今日は、“チームの現場を率いる藤原さん”についてお伺いしたいんですが……」


「り、率いる!?」


「はい。“理想の上司プロジェクト”の窓口といえば、藤原さんですから」


(そ、そんな大層な……!)


柊は黙って見ていたが、記者が質問を重ねる。


「柊さん。藤原さんは、どんな“後任”として見ていますか?」


「後任ではない」


即答。


「……では?」


「“相棒”だ」


会議室の空気が止まる。


記者もスタッフも、美咲さえペンを止めた。


真由は、心臓が一瞬にして跳ね上がる。


「か、課長……!」


「事実だ。俺が離れても、このプロジェクトを前に進めるのは彼女だ」


「そ、それは……!」


「君の強みは、“人の想いを拾える”ことだ。それは俺にはできない」


「ちょっと待ってください、そんな……!」


「だから、相棒だ」


周囲のスタッフが一斉に目を輝かせる。


「これは記事の見出し決まりですね」

「“理想の上司、後継者に相棒指名”!」

「強すぎる……!」


真由「やめてくださいってぇぇぇぇぇ!」


取材後、会議室を出る。


「……課長」


「誠だ」


「……誠さん。なんであんな“相棒”なんて言ったんですか」


「適切な言葉だからだ」


「そんな簡単に……!」


「あれは簡単ではない」


「え……?」


「“相棒”と言うのは、責任の半分を任せるということだ」


真由は口を閉じる。


(……半分)


自分が背負っているものが、小さくないと気づかされる。


柊は続ける。


「怖いか?」


「……はい。正直、めちゃくちゃ怖いです」


「逃げるか?」


「逃げません」


即答だった。


自分で驚くほど、迷わなかった。


柊の目が細くなる。


「……その返事を聞ければ十分だ」


「誠さんこそ、ちょっと寂しいんじゃないですか」


「寂しくないといえば嘘になる」


「素直……!」


「異動は事実だ。ただ――」


柊は歩き出し、真由を振り返る。


「距離は、離れても埋められる」


「……!」


「そのための“相棒”だろう?」


(またずるい……でも嬉しい……!)


仕事を終え、ビルを出た夜。

駅まで歩く道は、いつもよりゆっくりだった。


「……誠さん」


「ん」


「異動まで、あと三週間ですよね」


「ああ」


「その……私、ちゃんと強くなれますかね」


柊は立ち止まり、真由の肩にそっと手を置く。


「もう強い」


「……っ」


「足りないなら、俺が埋める」


「……じゃあ、私も誠さんの足りないところ、埋められますか?」


「当然だ」


少しだけ間があって。


「もう、埋めてもらっている」


言葉が、冬の夜気の中でゆっくり溶けていく。


真由は小さく笑った。


「……異動しても、私たち、チームですよね」


「チームだ」


「じゃあ……一つだけ約束してください」


「なんだ」


「“離れたら終わり”なんて絶対に言わないこと」


柊は迷わず答える。


「言わない」


「……ほんとに?」


「保証する」


真由は深呼吸して、一歩だけ彼に近づいた。


「じゃあ、私も約束します」


「?」


「離れても、ちゃんと追いつきます。

 ――誠さんの隣に、また立てるように」


柊の表情が、ほんのわずかに揺れた。


そして静かに言う。


「期待している」


真由の胸が、暖かく満たされていく。


離れていく距離が怖くなくなるほどに。


その夜。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「距離は“壁”じゃない。“進む方向”だ。」


《@mayu_worklife》

「なら私も、同じ方向へ進みます。」


通知の光が消える頃、

二人の距離は、前よりずっと近くなっていた。

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