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上司がSNSでバズってる件  作者: KABU.


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28/50

第28話:“好き”の代償と、沈黙の夜

火曜日。

出社してすぐ、空気が重かった。


「……聞いた?」

「クライアントからクレームだって」

「“社内恋愛を宣伝する企業とは取引できない”って」

「やばくない? あの動画が原因らしいよ」


(……そんな……)


机に着くと同時に、柊からの社内メッセージが届いた。


【至急:会議室C】


(課長……?)



会議室C。

扉を開けると、柊が窓際で腕を組んでいた。

表情がいつもより硬い。


「真由。座ってくれ」

「……はい」


一呼吸置いて、彼は静かに言った。


「クライアントの一社が契約延期を通告してきた」

「……やっぱり、あの写真のせいですか」

「ああ。“理想の上司シリーズ”が、恋愛目的の宣伝に見える、と」

「そんな……!」


柊が机の上の資料を差し出す。

SNSの分析レポート。

“理想の上司カップル”のタグがトレンド一位。

“社内恋愛ブランド”のイメージが急上昇。


「バズるって、必ずしもいいことじゃない」

「……課長」

「誠、だ」

「誠さん……どうするんですか?」

「ひとまず、俺が広報責任として前に立つ」

「そんな、私も関係者です」

「いや。お前は守る」

「またそれ……!」


真由が立ち上がる。


「“守る”って言葉、優しいけど、ずるいです!」

「……」

「一緒に始めたことなのに、いつも“私を守る”って理由で

 課長ばっかり前に出て!」

「前に出るのが、上司の仕事だ」

「私は“部下”じゃなくて、“恋人”です!」


沈黙。

会議室に響く心臓の音。


柊の指が、机の上で軽く震えていた。


「……すまない」

「謝らないでください。

 私、もう“隣に立てない恋”なんて、嫌です」


(言っちゃった……)



その夜。

真由は定時で退社した。

けれど、柊はまだ会議室にいた。


「……藤原は?」

成田が声をかける。

「もう帰りました」

「そっか。……あの二人、どうなるんだろうな」

美咲「彼、今“責任の取り方”を考えてる顔ね」

「まさか辞めるとかじゃないだろうな」

「……あの人、本気ならやりかねないわよ」



夜のオフィス。

照明が半分落とされた空間で、

柊はひとり、PCの前に座っていた。


画面には――退職願のテンプレート。


「……“責任を取る”って、こういうことじゃないだろ」

小さく呟いて、画面を閉じた。


代わりに開いたのは、X(旧Twitter)。

指が、迷いながらも打ち始める。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“恋”も“仕事”も、責任を取るって決めた。

 だから、どちらも手放さない。」



翌朝。

真由はその投稿を見つけた。


(……やっぱり、この人……)


会社に着くと、周囲の視線が変わっていた。

ざわめきの中、柊が現れる。

スーツ姿、いつもより少し疲れて見える。


「課長……いえ、誠さん」

「うん」

「昨日の投稿……見ました」

「後悔はしてない」

「私も、です」


彼がゆっくりと笑う。


「もう、隠すのはやめよう」

「……いいんですか?」

「“責任”は取る。

 でも、“恋”をやめる理由にはならない」


(……あぁ、やっぱりこの人、真っ直ぐだ)


真由は少しだけ微笑んだ。


「じゃあ、私も誠さんの隣で、ちゃんと責任取ります」

「……“共犯”の再契約だな」

「そういう言い方しないでください!」



昼休み。

社内チャットに新しいスレッドが立っていた。


【公式発表】

“理想の上司”プロジェクト継続決定。

テーマ:「信頼と恋の両立は、可能か?」


美咲「ほらね、話題は利用しちゃう方が早いのよ」

成田「さすが広報! 炎上を燃料に変えた!」

真由「もう……この会社、タフすぎる……」

柊「だが、俺たちもだろ」

「……そうですね」



夜。

二人で帰る。

ビルの外に出ると、冷たい風。


「……誠さん」

「ん?」

「昨日の言葉、もう一回聞いていいですか」

「どれだ?」

「“恋も仕事も手放さない”ってやつ」

「もちろん」

「……」

「俺は君が好きだ。

 だから、仕事でも恋でも、一緒に生きたい」


(また、反則)


真由は静かに手を伸ばす。

指先が彼の手に触れた。


「じゃあ、その責任……二人で、ちゃんと背負いましょうね」

「ああ」


ビルの灯りが二人を包む。

その沈黙は、決して重くなかった。

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