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上司がSNSでバズってる件  作者: KABU.


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20/50

第20話:撮影開始、距離ゼロセンチ

午前10時。

都内スタジオ。

白い背景、ライト、マイク。

空気が少し張り詰めていた。


「じゃあ、“理想の上司×働く仲間”動画、撮影入ります!」


ディレクターの声が響く。

柊と真由、並んで立つ。

カメラが二人を見つめていた。


(……距離、近っ)

(この位置、ゼロセンチじゃん……!)


真由は心の中で悲鳴を上げていた。

隣の柊は平然とした顔。


「どうした、藤原」

「い、いえっ! なんでもないです!」

「顔、赤いぞ」

「照明のせいですっ!」


美咲「ふふっ、いいねぇ〜、“初々しい空気”が出てる」

成田「カメラ回ってんのにリアル恋愛ドラマみたいになってる!」


(お願い、やめて……心臓もたない!)



撮影内容は、対話形式。

テーマは“人を動かす言葉”。


「柊さんにとって、“信頼”ってなんですか?」

スタッフが質問する。


「……難しい質問ですね」

彼は少し考えてから言った。


「“信頼”とは、沈黙が怖くない関係だと思います」


静かな声。

それを聞いて、真由の呼吸が止まった。


(……それ、私とのこと言ってる)


「沈黙の間も、相手を責めない。

 何も言わなくても、“大丈夫”だと思える関係。

 それが一番、強い信頼です」


スタジオが一瞬、静まり返る。

モニターの前でスタッフが小声で呟く。

「……名言出たな」


(ずるい。こんな言葉、また反則だよ)



次のシーン。

“日常のワンカット”を撮るため、

カメラは二人のオフィス風セットへ。


「では、真由さんが“お疲れさまです”って渡す感じで」

「はい!」


台本には、“書類を渡しながら微笑む”と書かれている。


「お疲れさまです、課――誠さん」

一瞬の言い間違い。

柊がくすっと笑う。


「どっちでもいい。君の“お疲れさま”は特別だから」

「……台本にないですよ、そのセリフ!」

「アドリブだ」

「やめてください、ナチュラルに照れるので!」


成田(小声)「うわ、ガチ照れだ……」

美咲「このカット、絶対使おう」


(もう……全国に放送されたらどうしよう……!)



昼休み。

スタジオのベンチ。

二人並んでコンビニサンドを食べる。


「……さっきの、マジでアドリブですか?」

「ああ」

「なんでそんなこと……」

「“お疲れさま”って言葉、君から聞くたびに嬉しくなるから」


「……」

「頑張った証みたいで、好きなんだ」


「……」

「黙るとき、わかりやすいな」

「い、今のは……“沈黙が怖くない関係”ってことで!」

「ふっ、便利な言葉だ」


二人の笑い声が、昼下がりのスタジオに溶けた。



午後。

最後の撮影カット。

“お互いに一言メッセージを送る”という設定。

カメラが回る。


「藤原さんへ――」

柊が静かに口を開く。


「君がいたから、“発信する言葉”を取り戻せた。

 これからも隣で、一緒に歩いてほしい」


(……それ、完全にプロポーズの言い方……!)


カメラマンが「はいカット!」と言った瞬間、

真由の顔が真っ赤になる。


「柊さん!? 今の……台本にないです!!」

「アドリブだ」

「また!?」

「もう恒例だろ?」

「恒例化しないでくださいっ!」


美咲(小声)「……あれ、リアル告白入ってたよね」

成田「完全に“距離ゼロセンチ”だわ」



夕方。

撮影終了。

スタッフが片付ける中、真由は壁際で息を整える。


(……ほんとに、ゼロセンチだった)

(もう、心臓に悪い……)


すると、柊がゆっくり近づいてきた。


「お疲れさま」

「……お疲れさまです」

「“本音”、少し言いすぎたかもな」

「すこし、どころじゃないです!」

「でも、後悔はしてない」


「……」

「君が隣にいる現実を、

 言葉で隠したくなかったから」


沈黙。

でも、怖くなかった。


「……誠さん」

「ん?」

「私も、“隣で働く未来”を信じてます」


彼の目が少しやわらかくなる。


「ありがとう」

「それ、反則です」

「また言われたな」



夜。

スマホの通知。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“距離ゼロ”は、恋の始まりじゃない。

 本音を言える場所のことだ。」


《@mayu_worklife》

「じゃあ、私はもうそこにいます。」


コメント欄に並ぶのは、

“距離ゼロが羨ましい”の文字。


(……距離ゼロ。

 でも、心はちゃんと並んでる)

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