9話 精霊
『そこに隠れてるのはわかってるぜ?お前は誰だ?』
「……気づかれていたか」
空間が歪むようにして現れたのは、羽を持った小さな男、精霊族だった。
「我らの主の仇、巨大芋虫を討伐してくれたこと、感謝する」
『で、なんの用だ?喧嘩を売りに来たなら相手するが』
「我らは戦闘が苦手なのだ。私の目的はひとつ。貴方の配下になることだ」
『……え?』
はーい、ちょっと待って。考えさせて……分からない!
『何で俺を主にしたいんだ?』
「先ほど言わなかったか?巨大芋虫が我らの主の仇だと」
『それは聞いたが、何でそんなに俺を主にしたいんだ?』
「……知らないのか?我らは主がいないと進化できないのだ」
ほう、つまり進化するためだけに主になってほしいの?
『いいのか?俺なんかが主で』
「ああ、巨大芋虫を討伐してくれたからな」
ああ、なるほど。
『お前らは何ができるんだ?』
「何でも」
何でも、か。
『分かった、俺が今日からお前の主だ!』
「「「ははっ!有り難き幸せ!」」」
増えた!?こいつの後ろに隠れてたのか!軽く百人はいるけど……
こうして俺は、新たに精霊族を配下に加えることになったのだ。
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さて、何をさせようかな……いざとなると命令が全く思い浮かばない。そうだな……とりあえず家を立ててもらうか。
『おい……呼びづらいな。お前の名前はなんだ?』
「我らには名前はない」
『……ない?じゃあつけてもいい?』
「え!」
『……嫌なら止めとくけど……』
「いえ、お願いします!我らに名前を与えてください!」
ん?我ら?顔をあげると精霊族たちが嬉しそうに俺の顔を見ていた。
……誰がつけると思ってんだよ……こうして精霊族たちへの名付けが始まった。
最初に出てきたやつは「ヒイラギ」にした。そして「カラタチ」「ヤナギ」「カエデ」「アンズ」と、木の名前で名付けていった。
...
..
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30分後。喜ぶ精霊族たちを尻目に、俺はため息をついた。
――思っていたより知ってる木の種類が少なかった……。にしてもいつまで喜んでんだ?そろそろ落ち着け――その時、ヒイラギが黒く光るのが見えた。
何だ――?すると、次々と精霊族が黒い光に包まれる。何だこれ?
《検索結果:種族の進化の際に発生する光》
進化してんの!?俺の場合、スキルの獲得と進化だけだったのに……種族の差とか条件があるのか?すると、ヒイラギの光が収まり始める。光が消えてそこにいたのは――美しい顔をした男だった。こいつが、ヒイラギなのか?
《検索結果:大聖霊。聖霊人または聖霊族が進化した種族。》
気づくと、他のやつも進化を終えていた。全員人並みに大きくなり、美しくなっている。
《検索結果:聖霊人。女性の精霊族が進化した種族。聖霊族。男性の精霊族が進化した種族。》
ヒイラギだけ、種族一個飛ばしてない?リーダー的な存在ってことか?じゃあさっそく。
『ヒイラギ。命令だ。俺たちが住む家を建てろ』
「それは、我らの集落を作るということですかな?」
『そうだ。そして、もう一つ。お前をスピリット・ロードに任命する!』
「ははっ!我が聖霊を束ね、主の期待に応えられるよう努力いたします!」
『ああ、頼む!では、さっそく取りかかってくれ』
その途端、ヒイラギが姿をフッと消した。聖霊達に命令しに行ったのか?
ジロリ。
……さっきからリナに睨まれてる。出番無くて拗ねてんのか?