41話 襲撃~祝福~
少し短めです。
「タクナ様!やつらが街へ攻めてきました!」
ついに、来たか……。
「リナ、ヒイラギ。まずはお前達が出てくれ。相手の様子を見て、可能であれば抑えてくれ」
「了解しました」
「承知」
二人は即座に立ち上がり、部屋を出ていった。
その背中を見送りながら、俺は深く息をついた。
あの二人は、Aランク上位ほどの力を持っている。大丈夫だ。
だが、どうにも胸騒ぎが消えない。
もし、まだ何か見落としていたら?
もし、生者への祝福を使われたら?
いや、落ち着け。あの魔術具は確かに壊した。生者への祝福は展開できないはずだ。
非戦闘員とはいえ、不死族は魔物だ。生者への祝福さえなければ、やつらから逃げたり避難したりすることはできる。
今考えるべきは、リナとヒイラギの安否だ。
あの二人なら、大丈夫だ。
だが、報告にあった数名のAランク……。
「……俺も行く」
そう呟き、立ち上がる。
会議室の窓を開け放ち、外へ飛び出す。
そして、『反重力』を発動し、浮かんで、リナ達のところへ向かった――。
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二人のところへと急ぐ。
途中、逃げ惑う不死族達の姿が目に入る。
彼らの表情には、恐怖と混乱が入り混じっていた。
リナとヒイラギが戦っているはずの場所へ、一直線に向かった。
地面に降り立ち、そこで見たのは――。
「クッソ、ふざけるな!何でこんなに強い魔物が二体もいんだよ!」
「黙れ。この腕が無くなってもいいのか?」
「何で人間が魔物の味方をしてんだよ!それより、生者への祝福はまだかよ!」
地に倒れ伏すフェアドキア王国の兵士達。
戦意を喪失し、呆然と立ち尽くす者。
リナとヒイラギは、敵兵の中で毅然と立ち、数人を拘束していた。
二人とも、傷一つない。
俺の命令通り、誰一人殺さず、無傷で制圧してくれていた。
あっハイ。
まあ、そうだよね。
その時、二人の死角から一人の男が剣を抜き、リナに向かって突進した。
だが、その剣が二人を斬ることはない。振り下ろされた剣は、俺の刀に受け止めたからだ。
「「タクナ様!」」
「おい、二人とも無事か?」
「はい。多少の応戦はありましたが、タクナ様の言った通り誰も殺さず、制圧しました」
「ご苦労様」
俺は頷き、剣を振るった男を睨みつける。
そのまま無言で気絶させ、地面に横たえた。
周囲の兵士達が一斉に俺に視線を向ける。
その中に、ひときわ強い威圧感を放つ男がいた。
「お前が隊長か?」
俺が問いかけると、男はゆっくりと顔を上げ、こちらを睨み返してきた。
「もしや、お前がこの街を治めている闇狼か?」
「ああ、そうだ」
「……なるほど。やはり只者じゃないな。だが、俺には関係ない。お前がどれだけ強かろうと、ここで俺達を止めたところで、流れは変わらん」
「何が言いたい?」
「お前達、何か勘違いしていないか?俺達がここに来たのは、ただの様子見だ。本命は別にある。俺達は、あんたらが思っているほど単純なじゃないぞ」
「……随分と余裕だな。仲間が捕まってるのに、そんな口が利けるとは」
「捕まったところで、任務が果たせればそれでいい。俺達の役目は、様子見と、ここで時間を稼ぐこと。お前も、もう気づいているんじゃないか?何かがおかしいって」
男の言葉に、俺の胸騒ぎがさらに強くなった。
こいつの言う通り、何かがおかしい――何が?
生者への祝福は展開できないはず。襲ってきても、対処できる。問題はない
なのに、何でこんなに胸騒ぎがするんだ――?
「ハッタリなら止めたほうがいいぞ。言っておくが、魔術具は俺が壊した」
「……壊した?それは、あそこにいた人間を全て殺したのか?」
「いや、そんなことはしていない。魔術具を壊しただけだ」
「……は?まさか、それで生者への祝福を封じたと思っているのか?」
その言葉に、リナとヒイラギが驚きの表情を浮かべる。
「何だ、どういうことだ?」
「お前、勘は良いようだが頭は悪いようだな。魔術具を壊されたらダメになる作戦を、国が採用すると思ったのか?」
まさか……。
魔術具なしでも生者への祝福は展開できるのか?
俺の背筋に冷たいものが走る。
「じゃあ、あの魔術具は何だ?」
「それは、お前らに包囲に気付かれたときなどに、すぐにでも生者への祝福を展開できるようにするために用意されたもの」
「じゃあ、まさか――魔術具なしでも生者への祝福は展開できるのか?」
「ああ、そうだ。ただ、人間が一から生者への祝福を発動するとなると、かなり時間がかかり、無防備になる。魔術具はその時間をゼロにするために作られた物だ」
――俺のミスだ。
この可能性を、考えなかった俺の。
魔術具を壊しただけで油断した俺の。
「おそらく、今頃魔術具が壊れたことに気づいて、あいつらが生者への祝福の術式を構築しているところだろう」
――嘘だ。信じたくない。
遠くから聞こえてくる不死族の苦しそうな声も。
少し軽くなった自分の体も。
視界の端に、何か薄い膜のようなものが広がっていくのが見える。
目の前の男が、勝ち誇ったように言う。
「ほらな、時間はかかったが生者への祝福が展開されたぞ?」
見なくても分かる。
この街を覆う、薄い膜のような半球状の結界――
――生者への祝福。