35話 ダナフ王国~対面~
ついに、ダナフ王国の入口である門が見えてきた。
だが、前にダナフ王国に来た時閉まっていた大きな門が、今日は開いていた。普段は厳重に閉ざされているはずのその門が、今は堂々と開かれているのだ。
もしかして今日は貴族とか、そういう人がダナフ王国に来るのかな?
そんなことを考えていると、俺達が乗っている馬車が、その大きな門へと進み始めた。
えええ!?俺達ってそんな重要人物扱いなの?
まさか、自分たちがそんな特別な存在として扱われているなんて、思ってもいなかった。
小さい方の門に並んでいる人が、こちらを見ながら何か喋っている。
「また誰かお偉いさんが来たのか?」
「あの俺達の生活の苦しさも知らない貴族共め、まるで見せつけるかのようにしやがって!」
「しっ!聞こえたらどうすんだよ!首飛ぶぞ!」
……もう、聞こえてるんですけど。ついでに言えば、『透視』でそいつらの顔も把握済み。
っていうか、首飛ぶぞって……貴族のこと、血に飢えた殺人鬼とか思ってんの?
まあ前の世界でも、そういう人の金とか使って遊び回ったりするような奴いたからな。
そういう心情も分からないこともない。
……首飛ぶのは流石に分からないが。
そうして、妬みの視線を浴びながら、馬車は門をくぐった。
門の先は上下左右が壁だった。
多分、貴族とかが襲われるのを防ぐためのトンネルのようなものだろう。
それを少し進むと、トンネルらしき物から出た。
すると、馬車が止まって扉が開いた。
「ここからは歩きです。足元にご注意ください」
……さっき、ロアが躓いたように見えたのは俺だけかな?
そう思いながら、馬車を降りる。
ここは、何かの建物の中か?
かなり豪華な飾りや、家具などが置かれている。
そして、こちらを見るこれまた豪華な服を着た人々。
おそらく、貴族達だろう。
こちらを見て俺達のことをじっくりと眺め、その目には見下したり蔑んだりするような感じがこもっていた。
俺達の服が原因か?
他の貴族達に比べると、俺達の服は普段着みたいな感じ。
もしかしたら、熊を連れていることも原因かもしれない。
そんな貴族達への反応に困っていたら、ロアがアドバイスをくれた。
「大丈夫です。ニコニコしながら、たまに会釈をすればいいんです。それさえすれば、大抵なんとかなりますよ」
……それでいいの?
言われた通りにしてみると、少しだけ貴族達の態度が柔らかくなった。
っていうか、国王代理がなんでそんな事知ってるの?
もしかして、いつもそんなことしてるんじゃあ……?
いやいや、流石に疑いすぎか。
それから数分歩き、とある部屋に案内された。
「それでは、こちらの部屋でしばらくお過ごしください。十六時頃になったら、お迎えに参ります」
そう言って、ロアが部屋を出ていった。
それより、お迎えって何の?
夕食にしては早すぎるし……。
何だろうと疑問に思いつつ、ロアの気配が遠ざかっていったことを確認して、部屋を見渡す。
フム……キッチンや風呂はない、と。
床は固めたコンクリートに、何かを塗ってある物。
トイレはあるが、おまるみたいな感じだった。
これって貴族用の部屋なのか?
俺の街の最低レベルの家の方が上だぞ?
改めて、俺の街の良さを実感した。
特にやることもなかったので、『吸収』してあったポテトチップス――この前、努力の末に完成した――を『解放』し、それを食べて時間が過ぎるのを待った。
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あれから数時間。
そろそろ『吸収』しておいたポテトチップスが無くなりそうになってきた時。
部屋の扉がノックされ、開いてロアが入ってきた。
「十六時でございます。それでは、今からご案内させていただきます」
いつも通り、礼儀正しくロアがいう。
その目は机の上のポテトチップスに釘付けだったが。
あとで一袋ほど渡してやろう。
「案内って、どこにだ?」
「国王のところです」
「……え?」
国王ッ!?もう!?早速!?
「ちょっと待ってまだ準備が……」
「あ、もしかしてまだ伝えてませんでしたか?」
「そうだよ!」
「すみませんでした。ですが、もう時間がないのです」
「せめて着替えだけでもさせて!」
そう言いながら、今着ている服を『吸収』し、違う服を『解放』する。
この服、少し動きづらいからあまり着たくなかったんだけどな……
俺が持ってる服の中で、国王と会うときにちょうどいい服がこれしかなかったので、我慢する。
その着替えを興味深そうに見るロア。
今の、普通の人間じゃ認識できないほどの早さで着替えたんだけどな……ロアは見えているようだ。
そして、部屋の中にある、俺が持ち込んだ椅子やポテトチップスなどを全て『吸収』し、リナとヤグマを呼んでロアに付いていく。歩くこと数分。
俺達は、一枚の扉の前で立ち止まった。
ロアが、その扉にノックをする。すると、
「入れ」
と、中から低い声がした。
その言葉に、扉を引いて開けるロア。
そこはテラスに似た造りになっており、部屋の二方の壁がない。
そして、その部屋の中央に置いてある、机と椅子。
その机の奥の方にある椅子に座る男が一人と、その後ろに立っている騎士二人。
黒髪に黒髭、青い目。そして端正な顔立ち。
――強い。この男の後ろの騎士二人も強いと感じるが、この男とは比べ物にならない。
なるほど、恐らくコイツが。この男が――
「はじめまして、だな。我はこのダナフ王国を治めている、ダドラ・ロイドである」
――国王、ダドラ・ロイド。
ロアは面倒くさがりです。
タクナの着替えを興味深そうに見ていたのも、いちいち着替えるのが面倒だったから参考にしよう、という考えからです。
あと、しばらく投稿遅れそうです。政治絡みの話は苦手なので……。