32話 発展
今話は平和。だと思います。
いつか言おうと思って忘れてたんですけど、タクナは基本人化してます。
時の流れとは、早いものだな。
気付けば、俺がこっちに転生してから一年半が経とうとしている。
あの後、色々あった。
まず、生活水準がめちゃめちゃ上がった。
トイレ、キッチンは勿論、風呂まである。
この世界のトイレは、酷いものだった。まず、紙がない。水がない。排出物は流せず、溜まってく。
当然、前の世界のトイレを知っている俺には我慢できるわけもなく、ブロア達に研究してもらった。
それから一ヶ月後、トイレが完成した。
それを聞き、胸を踊らせながら見に行った。
大きめのおまるだった。
その時は、ついつい我を忘れてトイレについて熱弁してしまった。
恐らく、トイレにあれだけ熱くなったのは世界中探しても俺だけだろう。
ブロア達も引いていたしな。
まず、トイレの材質――陶器の生産――はクリア。
だが、排泄物がトイレの中に溜まっていくのは、どうしても許せない。
俺の場合、清潔化を使えば消せるが、街の住民達はそうもいかない。
なので、必死にトイレの記憶を呼び起こした。
まず、足りないものとして下水道。
都合のいいことに、ここはまだ更地。
家が建てられた後ならともかく、前ならば下水道の設置など容易にできる。
俺の『分解吸収』で土を掘り、既にこの世界にあったコンクリートで下水道を作った。
地震が起きたらどうすんだ?と思ったが、この世界のコンクリートは、魔力が大量に含まれており、地震なんかでは壊れないそう。
それに、多少傷がついたり、劣化したりしても自動で治るらしい。
この世界、何でもアリだな。
で、下水道を通った後の排出物についてだが……とりあえず、畑の肥料にすることにした。
いずれ、浄化施設を造ることにしよう。
そして、必死に思い出したトイレの断面図をブロア達に『思考共有』で見せ、作らせた。
それから一週間後。ついに理想のトイレが完成。
レバーを捻ると水が流れ、下水道へと送られる。
トイレ掃除に関しては、トイレ自体に汚れを除去する機能があるらしくて、する必要がない。
良かった、トイレ掃除ってめちゃくちゃ面倒だからな……。
ものぐさな俺には嬉しい機能だった。
次にキッチンだが、これは簡単だった。
弱火、中火、強火の三段階で調節できるコンロにグリル。
これも頼んだら片手間で作ってくれた。
シンクの水に関しては、『液体操作』の『水生成』を組み込むことで何とかなった。
電子レンジも欲しかったが、電気を使えるようになるのはまだまだ無理そうだったので、断念。
いつか魔力を代用する電子レンジを作ってみようと思う。
さて、水の無限化が出来るようになったら、やっぱりアレだろう。
そう、風呂だ。
この世界には風呂の概念がまずない。
せいぜい温水で濡れた布で体を拭いたり、冷水を被ったりする程度。
もちろん、それで綺麗になるわけもなく、臭う。
普通に我慢ならないので、いつも通りブロア達につくって作って貰うことにした。
これも、片手間で作ってくれた。
ブロア達って、凄いな……。仲間になってくれて本当によかった。
さて、完成した風呂だが、前世の風呂と違うのは蛇口がないことだろう。
まず水温をボタンで選び、『湯はり』ボタンを押す。
すると、浴槽の中に温水が生成され、好きなタイミングでもう一度『湯はり』ボタンを押す。
そうすれば、温水の生成が止まる仕組みだ。
シャワーも簡単に作れた。
一番難しかったのはシャワーヘッドだろう。
流石にそんな細かい穴などを一つ一つ開けてくのは現実的ではない。
なので、通常能力『雨生成』を通常能力『加熱』で熱する仕組みにした。
理由としては、こっちの方が簡単で、『液体操作』よりも組み込むのが楽だったことだろう。
そして、風呂が完成。その時は、本当に感激した。
一応、シャンプーやボディーソープも作ってみたが、まだまだ量産できるような物ではないので、皆には悪いと思いつつも、俺だけがこっそり使ってる。
そして、風呂があるんだから温泉も……とか思ったが、無理だろうな。
そう諦めてながら、散歩をしていたら。
「……ん?」
常時オンにしていた『熱源感知』が、地下に何かがあるのを捉えた。
気になったので、『透視』で地面を透かしてみたら。
温泉があった。
まだ完成してないが、聖霊族達に頼んで、温泉を作ってもらっている。
完成が楽しみだ。
そして、風呂の完成と同時に、不死族が住む家が、すべて完成した。
もちろん、トイレ、キッチン、風呂は付いている。
不死族達は大・感・激!という感じだった。
家の並びは、碁盤の目。
綺麗に並んでいて、上から見ても美しい。
まあ、一部の方向音痴のやつが、よく迷子になってるが。
さて、不死族達も、家を建てるなどいい仕事をしてくれいるが、月霞狗達もそうだ。
まず、不死族達を一人一万~二万人担当させ、見回りなどを任せた。
今のところ、上手くいっている。
何しろ、騒動が起きても月霞狗が顔を出した途端に一瞬で収まるからだ。
流石はAランク上位、そう思った。
魔物の被害も今のところは無い。
街に近づこうもんなら、見回りに出てる聖霊族に一撃で消し飛ばされるのだ。
不死族達も魔物の心配をせず暮らすことができ、そのおかげか治安もいい。
まあ、月霞狗に殴られたくない、とかもあるだろうが。
そんな感じで発展していく街だが、いろんな客がやって来た。
人魚族や鳥人族などだ。
人魚族は、服従の意を示してきた。
どうやら、天狗の集落のすぐそこにあった湖に住んでいたやつららしい。
大死霊が天狗の集落を襲ったときに巻き込まれ、その大死霊を俺が倒したことを知り、俺に従うと決めたらしい。
特にやって欲しいことはないのだが、いずれ寿司なども欲しいので、とりあえず湖での釣りの許可をもらった。
鳥人族は、庇護を求めてきた。腐嘴鳥というAランク下位の魔物が出て、被害を受けているらしい。
腐嘴鳥は、あらゆる物を腐食させる吐息を放つ、かなり厄介な魔物らしい。。
どれくらい強いのか知らないので、とりあえずヒイラギを向かわせた。
半日で帰ってきた。
てっきり逃げ帰ったのかと思ったが、既に倒したとのこと。
早くない?
で、その戦いを見た物によると、ヒイラギが腐嘴鳥を一発殴っただけで、腐嘴鳥が爆散したらしい。
知らない間に、皆どれだけ強くなってんだよ……。
そして、ヒイラギと腐嘴鳥の戦い(?)を見た鳥人族は、俺に従うと言ってきた。
何だか、脅したようで悪いな……。
で、鳥人族の集落にはたくさんの種類の作物があり、その種をもらった。
これで、更に食の質が上がりそうだ。
だが、いい客ばかりではない。
たまに妖精巨人などの、Aランク下位ほどの魔物が街を襲ってくることがあるが、そのいずれも月霞狗にぶん殴られ、街の外へポイッと捨てられる。
大抵のやつはそこで帰ってくが、もう一度入ろうとする奴もたまにいる。
まあ、そいつらは街に入る前に月霞狗に殴られるんだけど。
以前その場面を見たのだが、追い出すというより痛め付けていた。
「あ、タクナ様!こいつら、どうします?殺してもいいですか?」
怖ッ!?
殺すのはダメだと言ったら、
「分かりました!殺さないように痛め付けますね!」
と、更にひどくなった。
それから三十分ほど、街には妖精巨人の悲鳴が響き渡ったという……。
おっそろしい、怒らせないようにしよう……。
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とまあ、こんな感じで街は発展している。
住民も十万人を越えたと報告があった。
十万人、か。
十万人の、大切な仲間。守ると決めた仲間。
俺は街を眺めながら、街の周りを散歩する。
この平和が、続けばいいのにな……。
そう思いながら、街へ戻った。