23話 進軍
俺は天狗達に向かって歩き出す。普通の早さで、まるで散歩をするかのように。
その隙だらけの姿を見た男が、素早い動きで距離を詰め、剣を振るう。
何かを斬り飛ばした手応えに男が笑うが――その剣が斬ったのは、俺の横にあった木。
俺がいるのは、もう一人の男の前。
そいつが俺に驚き俺を殴ろうとするが、それよりも早く男の胸に正拳突きを打ち込む。
軽く放ったそれは男を吹き飛ばし、木に激突して失神させた。
ドゴッ!
今吹き飛ばした男の横にいた女が、棍棒を俺に振り下ろしてきた。だが、動きが大きすぎる。
無駄な動きだらけで振り下ろされた棍棒を避け、地面にめり込んだ棍棒を足場にし、女の後ろへ飛ぶ。
そして軽く女の首に手刀を当て、女を気絶させる。
「『七重魔力弾』!」
もう一人の女が俺から距離を取り、七つの魔力弾を放つ。
だが、そんなもの『吸収』してしまえば関係ない。
魔力弾を『吸収』し、『還元』して失った分の魔力を回復させる。
驚きに固まる女に水縄を放ち、拘束する。
これで四人の無力化に成功した。
さて、あとは天狗の中で一番強いと思われるこの男だけだ。
「化け物め……。俺には到底お前を倒せそうにないが、せめて一子報いてやる!」
さっきの戦いを見たら諦めてくれるかな、と思っていたが……意味はなかったようだな。
とりあえず、少し話してみるか。
「おい、お前らを襲わせたり、骨人族を操っているのは俺じゃない!大死霊だ!そいつの討伐に協力して欲しいのだが――」
「そのような嘘に騙されると思うなよ!骨人族や大死霊など、お前一人で殺せるだろうが!やはり、俺達を始末するために来たんだろう!」
全く聞く耳を持たない。無理矢理従わせることはできるが、そのようなことはしたくないしな……。
『おい、ここは諦めて帰るぞ』
『え、宜しいのですか?』
『ああ、説得はもう無理そうだし……』
『しかし……』
『ヤグマ。タクナ様がそう言っているのだ。タクナ様の言うことに従え』
『……はい』
『思考共有』にて話し合いを終え、ヒイラギに合図をする。
「『遮盲霧』!」
ヒイラギが生み出した霧が、辺りを覆い尽くし視界を遮る。
そして水縄を解き、ついでに全員に『超回復』をかけた。
「!??」
「これは、なぜ!?」
天狗達は俺が五人に『超回復』をかけたことに困惑しているようだ。
その間に、ヒイラギとヤグマを促して天狗の集落を出る。
天狗を仲間に出来なかったのは辛いが、あのままじゃ更に俺達への印象が悪くなるだけだった。あれで正解だったんだ。
そう思いながら、町へと戻った――。
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湖を過ぎ、しばらく経った時。それは俺に告げた。
『タクナ様!大死霊共が私達の町へ進んできています!』
大死霊の動きを見張らさせていた闇熊熊が、俺に『思考共有』で話してきた。
それは、一番恐れていた事態だった。
『数は?』
『約、十一万体……!恐らく、大死霊が従えている全てだと思われます!』
『……は?全部?』
『はい、間違いありません。恐らく、この森にはもう私達しか残っていないのだと思われます』
「……タクナ様?どういたしましたか?」
立ち止まった俺に戸惑いながらヤグマが俺に聞く。
「大死霊が俺達の町を目指している」
「「!!!」」
俺の言葉に、いつも冷静なヒイラギまでもが目を見開いて驚いている。
『あとどれぐらいで町に着きそうだ?』
『やつらの動きは遅いため、あと五日ほどと……』
『五日……』
五日。五日後、あの町へ骨人族や死人族が攻めてくる。聖霊族達が、皆殺しにされる。
聖霊族達が、骨人族に殺される映像が目に浮かぶ。
殴られ、矢で射抜かれ、棍棒で頭を割られ……。最悪の未来を思い浮かべ、ゾッとする。
『今すぐ町へ戻る!その間に聖霊族達の避難の準備をしろ!』
『はい!』
「おい、町へ急ぐぞ!早く戻って、大死霊共を返り討ちにする準備をする!」
「分かりました!」
「承知いたしました!」
させない。骨人族にあいつらを殺させない。
骨人族や死人族は、元は人間だったらしいが……そうも言ってられない。
聖霊族達を守る。その為なら、元人間だろうが関係なしに叩き潰す!
そう決意しながら、俺は町へと急いだ……。
一万体増えてるのは、21話のあと更に町を襲って死人族が増えたからです。