16話 ダナフ王国~邪犬~
「グオオオォォォッ!!」
やっべ、もう水獄から抜け出された。
双頭犬の顔は怒りで染まり、俺へと向かって走り出す。
ズバッ!
右腕に攻撃を食らってしまった。
速い!が、見えないほどじゃねぇ。
それより、双頭犬の爪の毒は大丈夫か?俺には『毒耐性』があるが……。
再び双頭犬が攻撃を仕掛けてくる。
「『分身』!」
分身を合わせて計三人の俺が双頭犬を囲む。
時間稼ぎにしかなんねぇだろうが……。
キンッ!
突然、双頭犬を囲むように大量の氷柱が現れ、発射された。
コイツ、俺の『分身』に対して全方位攻撃で対抗したか!
俺は『火炎操作』で、氷柱を一つ一つ炎で包み、無効化する。
だが、無効化が間に合わず、『分身』に氷柱が当たってしまい消えてしまった。
「グオオオォォォッ!」
双頭犬が俺へと迫ってくる。
回避しようとするが――体が、重い。
避け損ねてまた攻撃を食らう。
なんで今、避けられなかったんだ?
ふと最初に攻撃を食らった場所を見る。
『超回復』で傷は消えているが――紫色に大きく腫れていた。
この毒、『超回復』や『毒耐性』でも防げないのかよ!
かなり厄介だな……。このままじゃ攻撃を食らい続けて、負けてしまう。
あの速さに対抗できる速さで動くか、毒を無効化しねえと……。
《双頭犬の毒を解析中……。》
《耐性能力『毒耐性』が『毒無効』へと進化しました。》
ナイス!誰か知んないけどありがとう!
そして再び迫ってくる双頭犬の爪を避け、体勢を崩したところを殴り飛ばした。だが。
「グオオオォォォォッ!!」
双頭犬は怯む様子もなく、俺へと攻撃を仕掛けてくる。
もう毒は効かないが、この速さが厄介だ。ただでさえ強い攻撃を、速さでさらに強くする。
また、大抵の攻撃はさっきのように不意を突くとかしないと、避けられてしまう。
……いや、あの攻撃なら避けれないんじゃないか?
まだ使ったことはないが、試してみるか。
俺は人と同じくらいのサイズの『結界』を張った。
『結界』の効果は「縮小する」だ。
張られた『結界』は少しずつ小さくなっていき、中の空気を圧縮する。
そしてバスケットボールくらいの大きさになった瞬間、『結界』の一部を崩す。
圧縮された空気は、崩れた『結界』の部分から噴出され、目に見えぬ刃となり双頭犬へと向かう。
「グアアアァァァァァ!!」
当たった風が、双頭犬の右の頭を切り落とした。
双頭犬には、この攻撃が見えなかったらしい。
もっとも、俺にも見えなかったが。
恐らく今の攻撃――リナの『鎌鼬』を真似した――の速度は、音速を軽く越えている。
『鎌鼬』の仕組みは知らないので、さっきのような方法を使ったのだが――結果、リナの『鎌鼬』の倍以上の威力が生まれたのだ。
恐ろしいのは、今の攻撃には大した魔力を消費しないことだ。
恐らく百発今の攻撃を放ったとしても、魔力は無くならない。
とんでもない攻撃を作り出してしまった。
「グウオオオォォォッ!」
双頭犬が無くなった頭を治そうとするが、傷口が塞がるだけで生えてこなかった。
双頭犬は頭の再生を諦め、地面に落ちた右の頭に向かい――その頭にかぶり付いた。
グチャッゴキッベチャッグチャッ
うぇ……。喰ってやがる……。
「グウオオオォォォッ!」
頭を食べ終わった双頭犬は、血塗れになった口で吠え、口から紫の霧を出した。
霧はあっという間に広がり、周囲に満ちる。何だ、これは?
《検索結果:|種族固有能力『邪犬の霧』
権能:毒霧、強制解除
毒霧:猛毒を含む霧を出す。その毒を吸うと、一時間以内に死に至る。
強制解除:同格、または格下のスキルを解除する。
俺に毒は効かないことを知ってるため、毒霧はないだろう。
となると、強制解除か。待てよ?
同格かそれ以下のスキルの解除って、俺今『万能変化』で人化してるよね?
それで強制解除を食らってしまったら……。
そして、俺の体が変形していくのを感じた。