第一話〜運命の日①〜
「俺は影。この世の悪を影ながら断罪する者——」
黄昏時、陽が沈む刻から俺は動く。本日の舞台はペトステラ帝国の第六都市・ディアマンテ。その郊外に広がるダンジョンだ。ディアマンテは、貴重な魔力を秘めた鉱石が採掘される鉱山都市。その街で、ある事件が起きていた。
「子供の誘拐……本当にこのディアマンテは狂ってしまったな」
ここ数ヶ月、少年少女が行方不明になる事件が相次いでいる。ついにギルドも看過できなくなったらしく、調査依頼を出すほどに。ギルドの依頼を受けたわけじゃないが見過ごせるはずがなかった。
「奴らは密かに現場へ出入りしているらしい……どこかで聞いた話だな」
俺は魔銃を構え、呟く。
「ヴァレットセット。ショットシェル——バースト」
サプレッサーを通じて放たれた弾丸は、銃口を抜けた瞬間に変化する。魔弾は瞬く間に竜の姿へと変貌した。これこそが俺の唯一の魔法——召喚魔法。
この弾を使い、魔力の壁がある場所を探る。情報によれば、冒険者たちが使う入口とは別に、密輸用の隠し通路が存在し、誘拐された子供たちはそこから運び込まれているらしい。知り合いのシーフからの情報だ。面倒ごとを押し付けられた形だが、仕方ない。次に会ったら何か仕返ししてやる。
——そして、俺が探している”標的”もいるそうだ。
——ズドン!
「……ハズレか。地道にやるしかないな」
俺の使い魔、ショットシェルドラゴン。その特性は広範囲にダメージを与えるが、射程が限られている魔弾竜だ。
俺はシェルドラゴンの弾を壁に向けて撃ち続ける。もし魔力の壁があれば、そのまま弾は擦り抜ける。普通の壁なら、ただの風穴が開くだけだ。この魔銃にはサイレンサーがついている為、音で気づかれる心配もほぼない。
「——主様っ!お待たせ!」
ふわりと無音の気配が近づいてくる。
白銀の鎧を纏った白い羽根に二本の角、むっちりとした白い尻尾の付け根には銀色の水晶が映えている少女が現れる。天真爛漫な少女——俺の相棒、ビアンカだ。
「ビアンカ、遅かったな。何をしていた?」
「仕方ないじゃん!気づかれずに外の敵を無力化するなんて、私には難しいんだもん」
「……だが、やったんだろう?」
「うっ……。主様の意地悪」
「ここじゃないみたいだ。次のポイントに行くぞ」
「ねえ褒めてよ!私頑張ったんだよ?だから褒めて!」
ビアンカの声を聞き流しながら森の中を進むこと数分。やがて、地面に馬車の轍を発見する。
「これは……新しい跡だな」
「主様、まだこの跡新しいよ」
「目標が近いな、シェルバースト」
再び付近の山肌に弾丸を撃ち込む。魔弾が破裂し、空間を抉る。岩壁に当たった弾は粉砕されたが、一部の弾は当たることなく消えていった。
「やった!主様!」
「——隠し扉、発見だ」
俺は立ち上がり、拳を握る。
「行くぞ」
「ねえ、もう少しだけ褒めて?なでなでして?」
「無視」
「も〜っ、そういう空気じゃないこと知ってますよーだ!」