伯爵令嬢はざまあします。
ある伯爵家。他の領地と接しており、小麦と綿花の畑が広いのが特徴の領地。
その伯爵家に公爵家の騎士団が入ってきた。そして、ドレイク伯爵とその妻ルーザ、娘のリムルを、捕縛している。
「わ、私は伯爵だぞ。いくら公爵家の騎士団だとしても、こんな仕打ちは不当だ」
ドレイクは、大声でわめく。
「そうよ、私は彼の妻よ。悪いことは何もしてないわ」
多少は容色は衰えているものの、美人の妻ルーザもわめく。
「痛いわ、こんな事されるなんて、意味わかんない」
ピンクブロンドの、可愛い感じの娘リムルは意外と成長した体を痛々しげにみせている。
そこに長女シーラが現れた。シルバーブロンドのすらりとして、それでいて出るところは出ている薄幸そうな美少女。彼女は言った。
「お父様、申し訳ありませんが、当主の座は元々私のものです。返していただきます」
伯爵のドレイクは、少し戸惑いながらもシーラに言う。
「何を言っている。まだまだお前に当主はわたせん」
「私に仕事を押し付けて、それでいて自分はこの領地を、担保に莫大な借金を、している。そしてそのお金は未だに返していない。すぐに返せる当てもない」
「だ、だから、今は無理でも軌道に乗れば返せる。第一お前に当主は出来ん」
「いえ、私の判断では今ならすぐに返せます。多少は借金が残りますが。だから当主になります。それに、私は誕生日を迎えて成人しました。当主の座は返してもらいます。父上は入り婿。それに当主代行の権限しかありませんから」
「う……しかし、」
ここで、ドレイクは、何とか言おうとするも、入ってきた若い男か口を出した。
「あなたのことは調べさせてもらいました」
「こ、公爵の……」
彼は公爵の次男ショウ。伯爵長女の婚約者である。
「男爵家の三男で、学園では有能とされていたので伯爵家から乞われて婿になった。しかし、妻が病死してからは妾とその娘を伯爵家に引き込んでやりたいほうたいじゃないか」
「何を言っているのですか? 悪い事はしていない」
ここで、ショウは怒りを顕にする。
「彼女に自分の仕事は押し付ける。それにその女と小娘も彼女を虐めていたそうだな」
「何を言っているのですか。私はちゃんとした教育をしてましたよ」
と、ルーザは喚いた。
「ほう、私が送ったドレスや贈り物はそこの娘に渡して、質素なドレスやアクセサリーを与えたと言うじゃないか。しかも数も少ない。それにメイドの仕事もさせていたそうだな。さらに教育も厳しいとか。さらに食べるものも質素だったと聞く。お前らは豪華な食事だったそうではないか」
「シーラには多すぎるからです。私たちは、その、働いていたので」
「ほう、親子であちこちの茶会やパーティーに足しげく通うのがか? しかもシーラはあまり参加させなかったと聞くが」
「それは、お姉樣はきれいだから、あまり多くの殿方に見せたくなかったのよ!」
と、リムルが叫んだ。
「そういえば、お前もひどいな。パーティーで取り巻きを作って彼女を孤立させ、また不特定多数の男と付き合っているとか。更にその女と一緒に彼女を、虐めていたろう。第一、私にまで色目を使うとはどういうことだ」
「え、義理とはいえお兄さんになるのよ。どういう人が知りたいのは普通じゃない? 第一虐めてなんかいないわ」
「それに、だ、お前らは大罪を犯している」
三人の声がピタッと止まる。
「伯爵代行は横領していたな。隠し金を作っていた。既にそれは押さえている。あと、そこの女と娘は魅了魔法を使っているな。既に何人かの証言や魔法使いによってその証拠は押さえた。どれも大罪だ」
「……」
三人は絶句した。しかし、心当たりはあるようで、焦っている。
ここでシーラは悲しそうに三人の前に立つ。
「これまでの仕打ちは、ある程度は耐えることが出来ました。でも、領地の事とか考えると、もう限界です。あなたたちには罪を償って下さいとかしか言えません」
「まて、誤解だ」
「誤解よ」
「誤解です、お姉様」
ここで、ショウは宣言する。
「三人は横領の罪、禁忌魔法の使用罪で有罪。男爵は鉱山で強制労働。女二人は魔力を封じて隣接の宿屋で強制労働だ。期間は三人とも規定の罰金を支払い終わるまでだ。彼女の温情に感謝しろよ」
「おい、ふざけるな。私は伯爵だぞ」
「何でわたしがそんなことになるのよ」
「お姉樣、許して」
三人は許しを請う。しかし、公爵家の騎士たちは彼らを連行していった。
シーラはショウの胸に飛び込む。
「大変だったろうこれまで」
「はい、でも、曲がりなりにも家族ですから」
「君を虐待していたのだよ。あんな連中、家族ではない」
「それでも、いえ、そうですね。なるべく早く罪を償ってくれれば良いのですか」
「ああ、そうなれば良いのだがな」
だが、彼は知っていた。罰金はかなりの額。それに鉱山では一番危険な所に配属されるし、宿屋とはいえ、実際は娼館。かなり厳しい事になるのはてしかだ。それこそ一生かかっても返せない位に。
「まあ、彼らの選択だ。君はこれからの幸せをつかめばいい」
「はい」
そういいながら、二人はいつまでも抱き締めあうのだった。