7 親友の相談
翌日の昼前、勇太は無事に退院した。休暇を取って迎えに来てくれた父親の車で自宅に帰る。
車中でスマホを見ると、エマからメッセージが届いていた。本当は今日も逢いたかったが、警備体制の再検討中なので、外出できなかったとのことだった。
エマが「逢いたかった」とメッセージを送ってくれたのが嬉しかった。
自宅で昼食を取った後、勇太は自室に入った。塾の夏期講習には夕方の単元から出席することにして、それまでは昨日勉強する予定だった問題集を解くことにした。
母親は、事故の直後だし、一日くらい休んだらと言っていたが、むしろ体調は事故前より良いような気がした。帝国の高度な医療技術のお陰だろうか。
自室の机で問題を解いていると、ふと昨日のエマの呟きを思い出した。
『……勇太君ならいいのにな』
ドキドキしてきた。勇太は頭を振って、次の問題に取りかかった。
エマが異星人だという事実を聞いても、エマへの気持ちに変わりはなかった。
それよりも、エマに許婚がいるということの方がショックだった。残念だが、自分の恋は叶わない。むしろエマに迷惑をかけてしまう。この恋は諦めるべきだ。
頭では分かっている。でも……
勇太は天井を見上げた。胸が苦しい。
勇太は、自分に言い聞かせる。叶わぬ恋だけど、またエマと一緒に遊ぶ約束をしたじゃないか。友達として会えるだけでもヨシとしなくちゃ……
勇太は、無理矢理自分を納得させると、一心不乱に問題を解き始めた。
† † †
「お疲れ! なあ勇太、この後いつもの喫茶店で飯でも食わない? ちょっと相談したいことがあってさ」
「うん、いいよ」
夜、塾の夏期講習が終わり、筆記用具を片付けていた勇太に、俊介が声を掛けてきた。
今日はどのみち夕飯を食べて帰る予定だったので、勇太は快諾し、2人は喫茶店へ向かった。
喫茶店に入ると、俊介はカレーライスを注文した。勇太はオムライスにした。
「はぁ……」
俊介がため息をついた。いつも明るい俊介にしては珍しい。
「何かあったの?」
勇太が聞くと、俊介が話し始めた。
「実はさ、親父が突然俺に会わせたい人がいるとか言い出してさ」
「もしかして、新しいお母さんとか?」
勇太が驚いて聞いた。俊介の母親は、俊介が小学生の時に病気で亡くなっている。
俊介が頭を横に振りながら答える。
「いや、俺も最初そうかなと思ったんだけど、どうやら親父が俺に交際させたいっていう女子らしいんだ」
「え、それって、お見合いってやつ?」
勇太は驚いて聞く。俊介が苦笑しながら答える。
「うん。まあ、そういうやつだな」
エマの許婚の話といい、世の中には意外とこういう話があるのだろうか。まあ、エマの件は「世の中」というレベルではないかもしれないが。
俊介がため息混じりに話を続ける。
「はぁ……タイプじゃなかったらどうするんだよな。まあ、今は彼女いないから別にいいんだけどさ」
そう言うと、俊介はコップの水をゴクゴクと飲んだ。
俊介はとにかくモテるが、残念ながら彼女と長続きしない。本人曰く「向こうから勝手に来て、勝手にいなくなる」そうだ。
コップを置いた俊介が、頭を掻きながら勇太に言う。
「それでさ、明後日に親父が主催するイベントで会う予定なんだけどさ、そのイベントに先方が友達を1人連れて来るんで、こっちも1人連れて来いって親父が言うんだよ……」
そこまで言うと、俊介が頭を下げて両手を合わせた。
「勇太、ゴメン! 一緒に■■■パーティーに出てくれない?」
ちょうどその時、店員が来て「カレーライスをお持ちしました」と言ったので、俊介の声が一部聞こえなかった。
店員は、頭を下げて拝み続ける俊介に驚きながら、テーブルに皿を置く。勇太は店員に会釈した後、俊介に言った。
「ぼ、僕で良ければ出席するよ。ただ、パーティーとか出たことないけど大丈夫かな」
俊介が頭を上げて喜んだ。
「やった、ありがとう! 大丈夫。衣装とかは全部こっちで用意するから、勇太は当日は手ぶらでOK。勇太って踊れたっけ?」
「え、踊る?」
「あれ、今言わなかったけ。ダンスパーティーなんだよ。別に踊らずに観るだけでも大丈夫だから」
そう言うと、俊介がカレーを食べ始めた。店員のせいで、肝心なところを聞き逃してしまったようだ。
まあ、踊らなくてもいいみたいだし大丈夫か。勇太は、店員が持ってきたオムライスを受け取り、食べ始めた。