26 謁見
地震は、九州から関東までの太平洋側一帯に及ぶ巨大なものだった。
太平洋側沿岸を大津波が襲ったが、沿岸一帯にオーロラのようなものが現れ、津波を完全にブロックした。
その後、地震による被害が大きかった地域の上空に、謎の大型飛行物体が数多く現れ、瓦礫の除去や消火活動を行った。
また、その飛行物体から謎の部隊が地上に降下し、現地の消防、警察、自衛隊、医療機関等と翻訳機を使いながら連携して救命活動を行った。
これら謎の存在のお陰で、地震による人的・物的被害は劇的に抑えられた。
これらについて、日本政府はノーコメントを貫いていたが、発災から1週間後、ついに「帝国」と呼ばれる星間国家による救助活動であったことを公式に認めた。
それと同時刻に、国連の安全保障理事会常任理事国等が共同で、「帝国」との接触の事実と、修好条約の締結、相互の人的・物的交流の開始、そして皇帝の地球訪問を公式に発表した。
なお、常任理事国等の戦略核兵器をはじめとした軍事関連システムは、半年前から帝国によって完全に掌握されていたことも明らかにされた。
† † †
「それじゃ、行ってくるね」
8月最後の土曜日。玄関で勇太が両親と妹に言った。いつものTシャツにジーンズ姿だ。
「ねえ、勇太……ほんとに行くの?」
「うん。お母さん。僕の気持ちは変わらないよ」
心配そうな母親に、勇太は笑顔で言った。父親が真面目な顔で勇太に声を掛ける。
「結果はどうであれ、自分の気持ちをしっかり伝えておいで」
「ありがとう、お父さん」
妹がニヤニヤしながら言う。
「お兄ちゃん、ダメだったら私の友達を紹介してあげる」
「そうならないよう、頑張ってくるよ」
勇太は笑って玄関を開けた。玄関前には、パトカーと銀色に輝く帝国の宇宙往還機が停まっていた。
家族が見守る中、勇太の乗った宇宙往還機は静かに離陸した。
御召艦には、すでに俊介が到着していた。
2人は控室でダンスパーティーのときに着た燕尾服に着替える。
「肩の調子はどう?」
勇太がTシャツを脱いだ俊介の左肩を見ながら言った。俊介が笑いながら答える。
「帝国の高度な医療技術とやらのお陰でこのとおりさ。何なら前よりも調子いいぜ」
俊介が左腕をグルグル回した。傷跡はまったく残っていなかった。
俊介が白シャツを着ながら言う。
「ダンスパーティーで燕尾服に着替えてたときは、まさかこんなことになるなんて考えもしなかったな」
「ははは、ホントそうだよね」
俊介と勇太が笑い合った。2人は今日、エマの父親である皇帝に謁見し、2人の気持ちを直接伝えるのだ。
2人が着替え終わって少しすると、控室のドアがノックされた。
勇太と俊介がドアの方を向くと、イブニングドレス姿の高山が入ってきた。
「2人とも、いよいよね。こっちが緊張してきたわ」
「心配をおかけしてすみません」
勇太が頭を下げた。高山が笑いながら答える。
「いいのよ。念願のイブニングドレスが着られたし。それに、うちのウスラトンカチ参事官が迷惑かけちゃったしね」
帝国の情報提供により、エマの命を狙っていた地球のグループはあっさり捕まった。
その際、高山の上司である参事官がこのグループに情報を流していたことが判明し、参事官は更迭されたのだ。
ちなみに、側衛隊長等の帝国のグループも全員逮捕された。
側衛隊長ともう一人の男は、大怪我をしたものの命に別状はなく、トラクタービームで勾引された後、治療を受けたそうだ。後日、帝国で裁判にかけられる予定らしい。
「それじゃあ、謁見の間に行きましょう」
勇太と俊介は、高山に連れられて謁見の間に向かった。
† † †
謁見の間は、この前訪れた浮遊エリアのある公園の一角だった。
四方を壁のように木々が生い茂り、芝生の上には絨毯が敷かれ、椅子が並べられている。
高山に先導され、勇太と俊介が絨毯の上を進む。正面の豪華な椅子には、軍服のようなものを着た長身の威厳ある男性が座っていた。
おそらくあれがエマの父親、皇帝だろう。
皇帝と思われる男性に向かい合う形で、すでにエマが座っていた。エマも同じく軍服のようなものを着ている。
エマの左手側には、ミーナが侍立していた。ミーナは儀仗兵のような服を着ている。
エマの右手側には、椅子が2つ並べられていた。エマの隣に俊介が、その隣に勇太が座り、高山は勇太の右手側に立った。
皇帝の謁見が始まった。




