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23 花火

 食事を終えた4人は、花火セットとバケツ、着火用のライターを持ってコテージの前に出た。


 夜空には半月から少し丸くなった月が浮かんでいる。さざ波の音に、そよ風が心地よい。


 俊介が花火セットを開けて、棒状の花火を3人に配った。


 ミーナが花火を手に持って(つぶや)く。


「思ったより軽いわね。遠くへ投げられるかしら」


 勇太が慌てて訂正する。


「投げちゃだめだよ。こうやって手に持ったままだよ」


「よし、じゃあ俺がお手本を見せよう。皆、ちょっと離れてな」


 そう言うと、俊介は皆から少し離れて、花火に着火ライターで火をつけた。


「わあ、綺麗!」


「こういうものなのね。スゴイわ」


 エマとミーナが花火を見つめる。勇太が俊介に近づいて、俊介の花火から自分の花火に火をつけた。


「こうやってどんどん火を移していくといいよ」


 エマがおそるおそる勇太に近づき、勇太の花火から火をつけた。


「わあ! いろんな色があるのね」


 エマが嬉しそうに自分の花火を眺めながら言った。


 ミーナが心配そうに花火を眺める。


「私の花火、パチパチはじけてるんだけど、爆発しない?」


「ああ、そういうタイプのだから大丈夫だよ」


 俊介がミーナを安心させるように言った。


 その後、エマが連発花火に慌てたり、ヘビ玉を不思議そうに眺めたり、俊介とミーナが線香花火の長持ち勝負をしたりと、4人は花火を楽しんだ。



† † †



「さあ、これで最後だ」


 コテージの庭に、俊介が噴き出し花火を置き、着火した。


 コテージの縁側には、ミーナ、エマ、勇太が並んで座っている。


 勇太の隣に俊介が座ると、噴き出し花火が辺りを明るく彩った。


「わぁ!」


「派手でいいわね」


 エマとミーナが喜ぶ。少しすると、噴き出し花火の火が小さくなって消えた。


「もう消えちゃった……」


 エマが残念そうに言った。噴き出し花火を水の入ったバケツに片付けて戻ってきた俊介が、笑いながら答える。


「この儚さがいいんだよ」


 4人は縁側に座って夜空を眺めた。辺りには、さざ波だけが聞こえる。


 しばらくして、勇太の右手側に座った俊介が呟いた。


「この空のずっと向こうに、エマとミーナの故郷があるのか……」


 勇太の左手側に座ったエマが、勇太越しに俊介に声をかける。


「ねえ、日向(ひゅうが)君、私と一緒に帝都に来てって言ったら、日向君はどうする?」


「そうだなあ……それがエマのためなら行くって言うかな」


 少し考えて、俊介が言った。エマが真剣な顔になって聞く。


「日向君は? 日向君の気持ちはどうなの?」


 俊介も真剣な顔になって聞き返す。


「逆にエマの気持ちはどうなんだ? 本当に俺でいいのか?」


「私は……」


 俊介が立ち上がり、エマの前に立った。俊介はエマの顔をしばらく見つめると、エマに優しく話しかける。


「表情で分かったよ、エマ。他に好きな人がいるんだろ?」


「日向君……」


「そんな悲しそうな顔するなよ、エマ」


 俊介が優しく微笑んだ。


「俺はエマが好きな人と一緒になれるよう応援する。俺には別に好きな人がいるしな」


 俊介がエマの左手側に座るミーナを見た。


「ミーナ、俺はミーナのことが好きだ」


 ミーナが驚いて縁側から立ち上がり、俊介を見る。


「だ、ダメ! あなたはエマ様の許婚(いいなずけ)よ!」


 俊介はミーナを抱きしめた。


「俺の気持ちは変わらない。許婚なんか関係ない。俺は、ミーナのことが大好きだ」


「あ……」


 ミーナの目から涙がこぼれた。


「エマ様……」


 ミーナが涙を流しながらエマを見た。エマはニッコリ微笑んだ。


「ミーナ、本当の気持ちを教えて。私も教えるから」


「エマ様、私、私は……」


 ミーナが俊介の体を強く抱きしめた。


「俊介君のことが好き!」


 ミーナが泣きながら話す。


「俊介君はエマ様の許婚。エマ様が安心して俊介君と愛を育むことが出来るようにするのが私の仕事……」


「……でも、でも、俊介君への想いは日に日に増す一方だった。好きで好きでたまらなかった。苦しかった!」


「エマ様、申し訳ありません……私、やっぱり俊介君のことが大好きです!」


 ミーナは泣きじゃくった。俊介が優しく抱きしめ続ける。


「それじゃ、次は私の番ね」


 エマがミーナに優しく微笑むと、エマの右手側に座る勇太の方を向いた。勇太が驚く。


「え、エマさん……」


「私、あの時……勇太君が告白してくれたとき、言いたくても言えなかったことがあるの」


 エマが勇太に抱きついた。


「私も勇太君のことが好き! 大好き!」


 エマの頬を涙が伝う。


「初めて学校で会ってからずっと気になってた。勇太君を見ると、胸がドキドキして苦しかった。こんなこと初めてだった」


「勇太君から告白してくれたとき、本当に嬉しかった。私も好きって言いたかった」


「でも、私は帝国の皇女。お父様の決めた相手と結婚するのが運命。勇太君と一度デート出来れば諦めがつくと思ってた」


 エマが頭を振った。


「でも違った! 勇太君への想いはどんどん強くなる。勇太君に逢いたい、勇太君と一緒にいたい……気持ちが抑えられなかった」


「ごめんなさい、勇太君。私の本当の気持ちをずっと言えなくて……私、勇太君のことが大好き!」


 勇太はエマを優しく抱きしめた。


「ありがとう、エマさん。いや、エマって呼んでいいかな?」


 勇太が聞くと、エマはコクコクと(うなず)いた。勇太が優しくエマに語りかける。


「僕の気持ちはずっと変わらないよ。エマのことを愛してる」


「ああ……勇太」


 エマが大声で泣きはじめた。その時、コテージの庭から男性の声がした。勇太や俊介には分からない帝国語で話す。


『誠に美しく、そして危険な純愛ですな』


 誰もいなかったはずの場所に、黒服にサングラスをかけた男の姿が現れた。


 男は、拳銃のようなものをこちらに向けていた。

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