20 海水浴①
「外房って初めて来たけど、海がホント綺麗なんだね」
「そうか、勇太は初めてなんだな。今日泊まるホテルのコテージの前はもっと綺麗だぞ?」
勇太と俊介が、車の後部座席から海を見ながら楽しそうに話した。
土曜日、勇太は俊介の父親の車に乗せてもらい、千葉の外房にある海沿いのホテルへ向かった。
1泊旅行について、勇太は両親が反対するのではないかと心配していたが、幸い模試の成績が良かったこともあり、OKしてくれた。
両親には俊介と一緒に俊介の父親のホテルに泊まると説明している。エマとミーナも来ることは流石に伏せておいた。
車は、昼前に目的地のホテルに到着した。ちょうど同じ時間に、エマとミーナが例のスポーツカーのような乗り物でホテルに到着し、勇太達に合流した。
4人は俊介の父親に案内されて、ホテルの離れのコテージへ向かった。
「わあ、凄い!」
「これが伝統的な日本家屋なのね。初めて実物を見たわ」
エマとミーナが驚きの声を上げた。コテージは、勇太のイメージと違い、和風の平屋だった。
平屋の両側と裏は木々が生い茂り、正面は開けていて、そのまま海岸の砂浜に繋がっている。ホテルの敷地の一角とは思えない。
「昔はこのホテルの経営者が住んでたらしいんだけど、今は古民家風のコテージとして使ってるんだ。なかなか風情があっていいだろ?」
俊介が自慢げに言った。俊介の父親が笑う。
「ははは、俊介は小さい頃からここがお気に入りだからな。それじゃ私は仕事に行くから、皆で仲良く楽しんでくれ」
そう言うと、俊介の父親はホテルの本館へ戻って行った。
父親を見送ると、俊介が3人に言った。
「この先の浜は、コテージの宿泊者専用になってるから、気兼ねなく遊べるんだ。それじゃあ、昼飯食べたら海へ遊びに行こうぜ」
4人は、ホテルの本館で軽食を取った後、海へ行くことにした。
† † †
水着に着替えた勇太と俊介は、コテージの玄関を出たところでエマとミーナを待つことにした。
勇太は地味な黒色のサーフパンツ。俊介は椰子の木の絵の入ったカラフルなサーフパンツで、ビーチボールを持っている。
しばらくすると、エマとミーナが玄関から出てきた。
エマは、ピンク色でスカートの付いたワンピースタイプの水着に、つば広の白い帽子。手には大きな浮き輪を持っている。
細身の体に清楚で可愛らしい水着が映え、エマの透明感のある美しさがより一段と際立っている。
ミーナは、黒色に白い縦のラインが入った競泳選手のような水着に、ホルスター付きの黒いベルトを腰に巻いていて、手にはエマと同じく大きな浮き輪を持っている。
ミーナの無表情だが可愛い顔立ちにボディーラインがくっきり出た機能的な水着というギャップに、思わずドキッとしてしまう。
エマが、少し照れながら勇太と俊介に声を掛ける。
「ごめんなさい、待たせちゃって。帝都で海水浴をするときの水着を持って来たんだけど、変じゃないかな」
「全然変じゃないよ。とても似合ってる」
勇太が即答する。チラリと俊介を見ると、俊介が勇太を見てニヤニヤ笑っていた。
「私は、ちょっと恥ずかしい水着しか持ってなかったんで、軍の官給品にしたわ。変かしら?」
「いや、カッコいいぜ! ちょっと恥ずかしい水着も見たかったけどな」
俊介思わず本音っぽいことを言った。俊介がチラリと勇太の方を見たので、勇太はニヤニヤ笑い返した。
「よ、よし、じゃあ海へ行こうぜ」
一同は砂浜へ向かって歩き始めた。
「そういえば、その腰につけているのは何? 水鉄砲?」
砂浜へ歩きながら、俊介がミーナの腰のホルスターを指差して言った。
「ああ、これ? これはレー……うん、そう。水鉄砲みたいなものよ。多分使わないけどね」
ミーナが一瞬言い淀んで答えた。あんな無骨な水鉄砲はないだろうし、おそらくレーザーガンかレールガン的な何かだろう。
一同は波打ち際に着いた。透明度の高い海は穏やかで、時折足にかかる波が心地よい。
コテージの宿泊者専用のビーチということで、4人以外に誰もいない。
「帝都ほどじゃないけど、地球の海も綺麗ね」
エマが海を眺めながら言った。
「帝都の海かあ、どんなところなんだろう」
「エメラルドグリーンでキラキラしていて、ほんと綺麗よ。勇太君にも見せてあげたいな」
エマが笑顔で言った。
「ただ、帝都の海には凶暴な生き物が多いから、この浮き輪がないと遊べないんだけどね」
エマが手に持つ浮き輪を見ながら付け加えた。ということは、この浮き輪には何らかの防御機構があるのだろうか。
「おーい、エマに勇太、もっとこっち来いよ。冷たくて気持ちいいぜ」
腰の辺りまで海に入った俊介が、エマと勇太に声を掛けた。ミーナは、俊介の近くで浮き輪を両手に持ってバタ足で泳いでいる。
「エマさん、あっちへ行ってみようか」
「うん!」
勇太とエマは、海に入っていった。




