18 2人の悩み①
高山に車で送ってもらった翌日。今日から8月だ。
今日、エマと俊介は、2人だけの初デートだ。俊介によると、行きつけのレストランでのランチの後、美術館へ行くらしい。
羨ましい気持ちと、親友を応援したい気持ちで複雑な心境だ。
ミーナに個別メッセージで聞いたところ、今回ミーナは留守番で、2人の警護は他の者で対応しているということだった。
ミーナは2人の安全を気にしつつ「私の空中ダンスの動画を見せて、俊介君にぎゃふんと言わせたかったのに」などと俊介と同じようなことを言っていた。
夕方、少し遅れて塾に来た俊介は、何だか浮かない顔をしていた。何かあったのだろうか。
夏期講習が終わってから、勇太は俊介に声を掛けることにした。
† † †
「おつかれ、俊介。どうしたの? 何だか元気がないけど」
心配そうな勇太の顔を見て、俊介が苦笑混じりに答える。
「ああ、ちょっとな。なあ、勇太、この後いつもの喫茶店で飯でもどう?」
2人は喫茶店に向かった。勇太はナポリタンとレモネードを、俊介はホットサンドとアイスコーヒーをそれぞれ注文する。
いつも食欲旺盛な俊介が軽食を頼むなんて珍しい。ほどなくして飲み物が届いた。
「今日の初デートで何かあったの?」
レモネードを飲みながら、勇太が俊介に聞いた。俊介はアイスコーヒーを一口飲むと、腕組みをして答える。
「うーん。特に問題なくて、それなりに楽しかったんだけど……」
俊介がそう言うと、首を傾げながら勇太に聞く。
「なあ、エマって美人だし性格もいいし、彼女になったら最高だよな?」
「うん、最高だよ!」
俊介の問いに、勇太は即答した。思わず声に力が入る。
「そうだよな……でもさ、俺、どうしてもエマのことを友達としてしか見られないんだよ」
「友達?」
「そう、友達。今日のデートで、気持ちが変わるかなと思ったんだけど、なんつーか、ドキドキみたいなのがなくてさ」
「そうなんだ……」
「俺さ……」
そう言うと、俊介が下を向いた。しばらくそのままで動かない。
勇太が心配しながら見守っていると、俊介が悩ましげな表情で顔を上げ、小声で言う。
「……俺、ミーナのことが好きなのかも」
「ええっ?!」
勇太は思わず声を上げてしまった。
† † †
今の話を政府関係者に聞かれたらヤバイ!
勇太は、慌てて辺りを見回した。私服警察官が誰かは分からなかったが、幸い俊介の小声が聞こえる位置に人はいなかった。
勇太が小声で聞く。
「どうしてそう思うの?」
俊介が考えながら答える。
「初めて会ったときはさ、変わった子だなあっていう程度だったんだけど、何故か段々と気になっちゃってさ」
「この前遊んだときの振袖姿や、時々見せる笑顔に何だかドキドキして……」
「それに、空中ダンスの技を競い合ったとき、ミーナとのやりとりが本当に楽しくて。忘れられなくて……」
「次はいつ逢えるんだろうって毎日考えてしまう……くそっ、こんな気持ちになったの生まれて初めてだ」
俊介が苦しそうに言った。
「その気持ち、よく分かるよ……」
思わず勇太は呟いた。勇太の心の込もった言葉に、俊介の表情が和らぐ。
「ありがとう。頭では許されざる恋って分かってるんだけどな……」
「……こんなこと、誰にも言えないと思ってたんだけど、勇太には俺の本音を知っておいて欲しくて。すまねえ」
そう言って、俊介は頭を下げた。
俊介は、僕を信じて苦しい思いを打ち明けてくれた。僕も打ち明けるときだ。
勇太は、少し考えてから、小声で話し始める。
「ねえ、俊介」
「ん?」
俊介が頭を上げた。勇太が話を続ける。
「この前、告白してダメだったけど、一緒に遊びに行くことになったんで、どこへ行けばいいかとか色々と相談したでしょ」
「ああ、あったな。あの後、進展はあったのか?」
「1度映画を観に行ったけど、その後は進展なしだよ。実は、あれ……エマさんなんだ」
「ええっ?!」
俊介がさっきの勇太とまったく同じように声を上げた。




