17 ドライブ
近くて遠いエマの自宅へ遊びに行った夜、勇太は早速4人のグループにメッセージを送った。
『今日はありがとう!』
すぐに既読になり、エマからメッセージが届いた。
『こちらこそ、今日は来てくれてありがとう!』
俊介やミーナも含めたグループ全員に向けたメッセージだったが、何となくエマと直接やりとりが出来たようで嬉しかった。
「よし、頑張るぞ!」
そう言って気合いを入れると、勇太は受験勉強を始めた。今晩は苦手な生物だ。
しばらく問題を解いていると、ふと参考書のコラムが目に入った。交雑についてのものだ。
交雑とは、異なる遺伝的背景を持つ個体間の交配だそうだ。
在来種と外来種が交雑して雑種が生まれると、在来種の遺伝的な独自性が失われる「遺伝子汚染」という問題が生じるらしい。
一方で、雑種は両親の種族よりも優れた性質を持つことがある。これは「ヘテロシス」「雑種強勢」と呼ばれる現象だそうだ。
また、一度他の種に分かれたもの同士が交雑を繰り返し、網目状に進化が進む「網状進化」という現象もあるらしい。
「交雑による進化か……」
勇太は背伸びしながら呟いた。
そういえば、帝国の皇帝は、人類との交配により皇帝の種族の更なる繁栄・進化を目指している、といった話を高山が以前話していたのを思い出した。
交雑、種族間の交配、エマとの……
「……」
色々と想像が膨らんでしまい、勇太は少し顔を赤らめると、頭を振って再び受験勉強に取り掛かった。
† † †
翌週月曜日の夕方、勇太は塾帰りに俊介と喫茶店に寄って雑談した。
「俺、トランポリン買ったんだ」
唐突に俊介が言った。勇太が不思議そうに聞く。
「トランポリン?」
「うん。これで空中浮遊の感覚を鍛えて、ミーナをぎゃふんと言わせてやるんだ」
「あ、ぎゃふんと言うよりニャンと言わせる方がいいかな」
「ははは。俊介も意地悪だなあ」
しばらく雑談した後、勇太が俊介と別れて駅に向かっていると、駅の改札前に何故か高山が立っていた。
「星野君、お疲れ様。ちょっとドライブしない? 家まで送るわ」
「あ、ありがとうございます」
勇太は、高山に連れられて、駅前の駐車場に向かった。特に特徴のない黒のセダンの助手席に乗り込んだ。
「これは高山さんの車なんですか?」
「まさか。こんなダサい車なんて買わないわよ。これは官用車よ。シートベルトしてね」
勇太の問いに、高山が笑いながら答えた。勇太がシートベルトをしたのを確認すると、高山が車を発進させた。
高山が車を運転しながら勇太に話しかける。
「実は、ちょっと気になることがあってね」
「気になることですか?」
勇太が不思議そうに聞いた。高山が頷く。
「昨晩、星野君を撥ねたワゴン車を運転していた犯人が捕まったの」
「えっ?」
勇太が驚いた。高山が話を続ける。
「犯人はエマさんの写真データを持っていた。多額の報酬と引き換えに、エマさんを殺害するよう依頼されたそうよ」
「その依頼者が誰かは、まだ分かっていないんだけど……故意にエマさんの命を奪おうとする者が日本にいるのは間違いない」
エマに危害を加えようとする者がいるなんて……許せない。勇太は拳を握りしめた。
高山が話を変える。
「そういえば、昨日、日向君が帝国の宇宙船内で事故に遭いかけたのよね」
「え、ええ。転落というか墜落しかけまして……」
勇太がそう答えると、高山が真面目な顔で言う。
「昨日、帝国の警察当局から外交ルートを通じて連絡があったの」
「日向君が墜落しかけた浮遊エリアの緩衝帯の穴は、どうやら人為的なものだったらしいのよ」
「人為的?」
「そう。故意に日向君の命を奪おうとする者が帝国内にいる。つまり……」
少し躊躇ってから、高山が口を開けた。
「つまりエマさんと日向君は、2人の交際、すなわち皇帝の種族と人類の接触に反対するグループから命を狙われている」
「そして、そのグループは、地球にも帝国にもいる……」
勇太は息をのんだ。高山が話を続ける。
「このことは、エマさんや日向君には伝えていないの。2人の関係に影響を与えかねないからね……あ、ミーナさんは知ってるわ。彼女はエマさんの護衛も担当してるしね」
「政府としても、エマさんや日向君の安全確保には全力を上げるつもりだけど、何か気になることがあったら、いつでも相談してね」
「わ、分かりました」
勇太は真剣な顔で答えた。自分の好きな人と親友が命を狙われるなんて……何とかして2人の安全を守らなければ。
「ちなみに、さっきの喫茶店に私服警察官が複数名いたの分かった?」
「え?」
勇太は必死に思い出したが、気になることは何もなかった。これでは2人の安全を守るどころではない。
深刻そうな顔をした勇太に、高山が笑いながら話しかける。
「分からなくて大丈夫よ。相手はプロなんだから。逆に星野君に気づかれたらプロ失格よ」
「星野君は、そういった状況であるということを意識してくれればOKよ」
「分かりました。あ、あの、今後、エマさんや俊介と遊びに行くのは大丈夫なのでしょうか?」
勇太が心配になって聞いた。高山が笑顔で答える。
「全然問題ないわ。むしろ2人の仲をさらに深くするためにも、どんどん遊びに行ってね。護衛のことはこっちで適宜対応するから」
そこまで話したとき、車は勇太の家の近くの公園前に停まった。
「それじゃあ、よろしくね」
「分かりました。車で送ってくれてありがとうございます」
勇太は高山にお礼を言って車を降りた。
家に帰ってしばらくした後、勇太がスマホを見ると、ミーナから個別のメッセージが届いていた。内容は、先ほど高山に聞いた内容とほぼ一緒だった。
『エマ様や俊介君の安全に気を付けながら、お出かけを楽もうね♪(ニャは封印)』
ミーナの最後のメッセージを見た勇太が、冗談半分で返信する。
『うん、了解ニャ!』
すると、即座にミーナから返信があった。
『それ禁止!』
ミーナの返信に笑いながら、勇太は、あえて軽いメッセージを送って勇太の気持ちを和らげてくれたミーナに心の中で感謝した。
続きは明日投稿予定です。




