10 舞踏会①
ミーナと勇太は、会場中央で踊る輪の近くまで来た。
突然、ミーナが勇太の手を取って踊り始めた。
「わ、わわ」
「皆が踊ってる姿を見て。体が勝手に動くわ」
勇太は、急いでエマと俊介が踊る姿を見た。すると、不思議なことに、勇太の体が勝手に動き始めた。ミーナの手を取り、優雅に踊り始める。
「か、体が勝手に?!」
「ね、習うより慣れろでしょ?」
ミーナが可愛い笑顔でウインクすると、すぐに無表情に戻り、勇太に尋ねる。
「こういうときは、今の仕草でいいのよね」
「え、ええ、いいですが……これは一体?」
ごく自然に踊りながら、勇太がミーナに聞いた。
「軍の訓練サポート装置を首に貼ったのよ。目で見た動作をそのまま真似できるのよ」
「す、すごい……」
「今のうちに動きを身体に馴染ませてね。しばらくしたら体か覚えるわ」
「は、はい」
勇太とミーナは、練習時間が終わるギリギリまで踊り続けた。
† † †
勇太とミーナは、会場壁際の丸テーブルの席に並んで座った。エマと俊介は、ダンスが一区切りしてから合流する予定だ。
会場内は、日本人だけでなく、様々な人種の人達が、燕尾服やイブニングドレスを着て席に着いていた。
「星野君、こんばんは」
声を掛けられた勇太が後ろに振り向くと、高山が立っていた。ドレスではなく、いつものスーツ姿だ。
「あ、高山さん! 高山さんもいらっしゃってたんですね」
「ええ、今日は政府高官や各国大使の他、帝国の高官も出席してるから、調整業務で来てるのよ」
「本当は私もドレスを着て出席する予定だったのに、参事官の反対で、いつものスーツ姿で裏方に回る羽目に……」
「ああ、また腹が立ってきたわ! あのウスラトンカチ参事官をパワハラとセクハラで人事に訴えてやろうかしら」
高山が、自身も何らかのハラスメントになりそうなことを言って怒った。勇太が高山を慰める。
「あの、何と言うか……心中お察しいたします」
「ありがとう、星野君は優しいのね……そう言えば、許婚が誰かは聞いた?」
高山が真面目な顔になって勇太に聞いた。勇太が苦笑しながら答える。
「直接は聞いていませんが、さっき分かりました。まさか自分の親友だったとは……」
「今日まで言えなくてゴメンね。でも、星野君が日向君の親友で良かったわ。彼はこれから色々と大変だと思うから、支えてあげてちょうだいね」
高山が、勇太の想いを知ってか知らずか、笑顔で言った。勇太は複雑な心境になったが、笑顔で「はい」とだけ答えた。
† † †
舞踏会が始まった。
勇太とミーナが座ったテーブルに続々と料理と飲み物が運ばれてくる。
オーケストラが演奏を始めると、会場正面に並んだ数組のペアが会場中央に歩いて出てきた。先頭は俊介とエマだ。
スマートな燕尾服の美男子に、すらりとした純白のドレスの美女。2人の煌びやかな姿に、テーブル席から感嘆の声が漏れる。
俊介とエマが踊り始めた。他のペアも後に続き、輪を描いて踊る。
俊介とエマは、息がぴったり。緊張しながらも楽しそうだ。優雅に踊る。
「綺麗だ……」
食事をするのも忘れて2人の踊りに見入っていた勇太が呟いた。
自分の好きな人に許婚がいて、その許婚が自分の親友だった。しかも2人はお似合いのカップル……神様は何て残酷なんだろう。
勇太が暗澹たる気持ちでふと横に座るミーナを見ると、ミーナは、ナイフとフォークをお箸のように片手で持って料理を食べようと悪戦苦闘していた。
ミーナが勇太の視線に気づき、少し困った顔で勇太に尋ねる。
「これ、軍のテキストだと片手に持って食べ物を挟んで口に運ぶって書いてたんだけど、本当にそんなことができるの? 地球人ってすごいのね」
「あ、多分それはお箸のことです。これはフォークとナイフなので、両手に持って使うんですよ」
勇太はミーナにフォークとナイフの使い方を教えた。何だか可笑しくて、少し気分が晴れたような気がした。




