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Day1-1 目覚めのキスは、唐突に?

「――きて! ねぇ起きて!」


 ……うん?

 なんか遠くで、女の子の声がする。

 

 寝覚めの悪い俺に、毎朝声をかけてくれる優しい彼女なんて、いなかった気がするんだけど。

 ああ、そうか。夢の中で起こされてるんだな、きっと。

 まさか、自分がこんなにも欲求不満だとは。今度から目覚まし時計をアニメキャラの萌え声にでもしておこうか。


 微睡まどろむ意識の中、そんなことを考える。

 ところが――


「ねぇ起きてよ! このままこんなところで寝てたら、死んじゃうよ!」


 氷のように鋭い声は、まだ耳に届いている。

 なんだ? 寝てたら死ぬなんて、雪山でもあるまいし。

 だけど――なんか、心なしか寒い気がする。

 でも気のせいだよね。だってここ、仮想現実ヴァーチャル空間のはずだし。

 

 そんなことを考えていると。


「こういうときって確か、ああいうことしたら起きるんだよね」


 何やら、意識の壁越しにそんな言葉が聞こえてきて。

 不意に、柔らかい何かが唇に頬に触れた。


 え、何この感覚。

 女の子が俺のすぐ側にいて、頬に触れている……?

 ま、まさか!?


 闇の中を低迷していた意識が、ドクンと一つ胸が高鳴るのに呼応して、一気に浮上する。

 カッと見開いた目に映ったのは――横たわる俺に覆い被さるようにして、身体を重ねている少女の横顔だった。

 その少女はそっと目を閉じ、俺の頬に口元を当てていて――


「う、うわぁあああああっ!」


 とんでもない事実に気付いた瞬間、俺はバネみたいな速度で起き上がる。


「きゃあっ!」


 その拍子に少女の軽い身体は後ろに飛び、鏡のような氷が張った床に尻餅しりもちをついてしまった。


「あ、ご、ごめん」


 女の子を突き飛ばすという、サイテーなことをしてしまった。

 罪悪感から、咄嗟に謝罪する。

 しかし――


「……あ」


 少女は、俺を見て硬直したまま微動だにしない。

 そればかりか、大きな藤色の瞳から、ガラス玉のような涙が滑り堕ちた。


 やばい! な、泣かせてしまった。

 サイテーだ、俺。これじゃあまるで、DV夫じゃないか!


「あの……今のは、悪気があってやったわけじゃなくて! その、いきなりあんなことされて驚いたって言うか……!」


 必死に弁明するが、少女はまばたき一つせず、人形のように俺を見ているだけだ。

 ひょっとして、凄く怒ってる……?


 そんな不安が脳裏を過ぎったとき、少女は大きく目をつむって、それから小声で呟いた。


「……かった」

「え? 何?」

「よかった~~~~ッ!」


 大声でそう叫ぶと、不意に少女は俺の方に向かって飛び込んできた。


「え、ちょっ!?」


 困惑する俺に体当たりする形で胸元に飛び込んでくる少女。

 その勢いのまま、俺は地面に張り倒された。


「ぐはぁっ!」


 背中から地面にたたき付けられた衝撃で、肺の空気が押し出され、一瞬呼吸困難におちいる。

 だが、当の押し倒した本人は気にも留めずに、しきりに頬を胸元にこすりつけて泣きじゃくっていた。


「うわぁ~ん! 返事がないから、死んだと思ったよぉ……! ばかばかばかぁ!」


 泣きながら怒り、ぽかぽかと俺を殴ってくる。

 

「ちょ、痛い……」


 何コレ。俺、悪いの? それとも別に悪くないの?

 さっぱり事態がのみ込めぬまま、感情をたたき付けてくる少女を、為すがままにさせるのだった。


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