5見張りをかいくぐる
穴にあったノートに書き込んだ数日後、アンナはまた図書館に逃げてきた。
(まったく、他にやることないのかな、暇人どもが)
アンナは心の中で毒づいた。
(そういえば、この間見つけたノート、どうなったかな?)
そう思って穴のあった辺りの柱を蹴るとパカリ、と穴が開いた。
「あ、あった」
前と同じようにノートはそこに存在していた。
開いてみると、アンナの書き込みの下に、返事が来ていた。
【罪を犯すとはどういう意味ですか?】
きょろきょろと辺りを見回したが、誰かに騙されたりしているのではないか?と思ったのだ。
だが、そのような人影は見当たらない。
どういうことだろう・・・。
騙されてるなら、とことん乗ってやろうじゃないか!
アンナはそう謎のやる気を出した。
【あなたはエリザベート=クラストですか?】
【本物だったら、自分の家が犯した罪と、学院での振る舞いを直してください】
ちょっと偉そうかな?と思ったが、どうせ誰かの考えた茶番だろうし、日々のいじめに疲れていたこともあり、悪ノリしてみたくなったのだ。
**
「あら、また返事が書いてあるわ」
【あなたはエリザベート=クラストですか?】
【本物だったら、自分の家が犯した罪と、学院での振る舞いを直してください】
「また罪って書いてあるわね、一体罪ってなんのことかしら。
自分の家が犯した罪?どういうこと?お父様たちが何か悪いことをしているってこと?」
疑問ばかりが湧いてくる。
(お父様に確認をしたいけれど、家にも学校にも見張りがいるわ。どうしたら・・・)
「そうだわ」
エリザベートはノートに書き込んだ。
【私はエリザベート=クラストです。
書き込みをしてくださっている貴女のお名前を教えてください】
【自分の家が犯した罪、というのは私の父が何か犯罪を犯している、という意味でしょうか。
父に確認をしたいのですが、私は現在家でも学院でも王家から見張られております。
どうしたら父と話せるか、一緒に考えてもらえませんか?】
*******
「はあ?見張られてるってなんでよ」
ノートを見たアンナは驚いた。
「どういうこと?もうすでに悪女だから見張られてるってことかな?」
しかし、ノートの内容を読む限り、どうでもいい事ばかり書いてあるし、どちらかというと呑気な感じがするのだ。
「なかなか凝った事するのねぇ、まあいいや、見張りをどうにかする方法ねぇ、う~ん」
アンナはいろいろ考えてみた。
「こんな方法なら、何とかなるんじゃない?」
【夜にメイドのふりして部屋から抜け出して、父親の部屋に行けばいいんじゃない?】
「そうそう、これも書いとかなきゃ」
【私はアンナ】
*******
「まあ、クロちゃん、この方は アンナさんと言うんですって」
膝の上のクロを撫でながら、エリザベートは嬉しそうに話しかけた。
~あんな~
「そう、アンナさんよ、すごいわ、夜にメイドのふりをするだなんて、思いもしなかった」
~やってみる~
「そうね、メリルに相談してみるわ」
早速、エリザベートはメリルに相談をした。
とはいえ、見張られているため、細切れでの話になってしまう。
計画ができるまで数日かかってしまった。
まずは、メリルが数回に分けて、衣装棚の中にメイドの服を隠す。
エリザベートは夜になると、眠れないから、とメリルに温かい飲み物を頼むようにした。
決行の日、いつものようにメリルが飲み物を持って部屋に入ると、すでに着替えていたエリザベートがいた。
「お嬢様、あまり時間はございませんよ、お気をつけてください。
もしも、無理そうなら、また次の機会を狙いましょう」
「わかってるわ」
そう言ってエリザベートはなるべくメリルのような声で、
「お嬢様、飲み終わりました頃にまた伺います」
いつものセリフを言い、部屋から外に出た。
厨房に行き、コックの用意してくれたお茶のワゴンを持って行く。
メリルからコックに、コックから家令に、家令から父親へと、密やかに今回の計画が伝えられた。
執務室の扉の前に立つと、ノックをした。
「旦那様、お茶をお持ちいたしました」
「入れ」
ゆっくりと、焦らないようにエリザベートは部屋に入り扉を閉めた。
「ベス」
「お父様」
「こんなことをしないと、家族で話もできんとは」
「お父様、あまり時間がありませんので・・・。
お父様、お父様はお仕事で何か後ろ暗い事をされている、ということはありませんか?」
「は?何をいきなり」
「どうなんです?」
「そんな事をするわけがないだろう。もし犯罪まがいの事をしていたら、領民にも迷惑がかかってしまう。ベス、私がそんな事をすると思うかい?」
「いいえ、そんな噂を聞いたものですから・・・」
エリザベートはノートの事は秘密にすることにしたのだ。
そんな事を言っても頭がおかしいと思われてしまうだろう。
「噂か・・・、一度すべての事業を見直してみよう」
「そうですね、見張りに見つからないように」
「ああ、その見張りについても何とかしないとな」
コツコツと、扉から合図の音がした。
「もう行かないと、お父様、久しぶりにちゃんとお話しできてよかったですわ」
「私もだ、いろいろ我慢させてすまない」
エリザベートはワゴンを押して部屋の外に出た。
厨房にワゴンを戻してから、自分の部屋に戻る。
「あら、メリル?またお嬢様のわがまま?」
声をかけてきたのは王家からの侍女だ。
「はい、急ぎますので」
「なんだか様子がいつもと違うわね」
「・・・!!ゴホゴホっ、ちょっと風邪気味で・・・」
「ヤダ、うつさないでよ!」
「失礼します」
何とかごまかして部屋に入ると、無事にメリルと入れ替われた。
今、侍女に声をかけられたことも忘れずに伝えた。
次の日、ノートには
【アンナさん、お父様に確認しました。
何も犯罪は犯していないそうですが、一応すべての事業を検めてみるそうです】
【こんな確認だけで何日も費やしてしまいました。見張りのいない生活をしたいのです】
*******
「だよね~、見張りって・・・どうりで何日も更新されないと思ったわ」
「それにしても、すべての事業を見直すって、本当に犯罪は犯してないみたいに感じちゃうわね」
何となく、面白くなってきたアンナは、当時の歴史書の中で、役に立ちそうな人物を探してみることにした。
「それにしても、王子の婚約者って、見張られないといけないの??」
何となく、気の毒になってきてしまった。