4クッキーとノート
学院の図書館の奥にある歴史書の棚の間にある空間、そこで短時間だが、ゆっくりと愚痴を書いたエリザベートは、さっそくノートの隠し場所を探した。
歴史書の間に挟もうかと思ったが、もしも誰かに見られたら、思うと、どれも安全だとは思えなかった・・・。
どうしようか、あまりメリルを待たせるわけにもいかない、と思った時、目の前の柱が、ガタンと音を立てて、空洞が開いた。
「あら?こんな所に空洞が?」
エリザベートが近寄ってみると、中には何か黒いものがある。
「何かしら?」
そう言って手を伸ばすと、やわらかい毛並みに触れた。
「なんていう生き物なのかしら?」
そう言って両手でその生き物を抱きかかえると、その生き物はこちらをじっと見つめてきた。
「お腹がすいているのかしら?」
そう言って、エリザベートは、メリルからこっそりと渡してもらった、クッキーを見せた。
そのクッキーはメリルがコックにお願いして作ってもらった、日持ちのするものだ。
厳しい教育で、課題に不備があれば食事を無しにしてもやらされるのだ。
そんな時に、移動の馬車などでこっそりと食べられるように、とメリルがいつも持たせてくれている物だった。
不思議な生き物はクッキーに口?を近づけた、と、途端に吸い込まれるようにクッキーが消えた。
「あら、食べるのが早いのね」
そう言って、エリザベートは次々とクッキーを出した。
最後の1枚が吸い込まれた後、生き物の毛が白くなっていることに気が付いた。
「お腹がいっぱいということかしら?ふふっ、不思議な生き物ね」
~元の場所へ~
突然頭に声が響いた。
「誰?」
周囲を見回したが、誰もいない。
「あなたの声かしら?」
~そう、あの穴に戻してくれる?~
「わかったわ」
~あなたの大事な秘密も一緒に隠してあげる~
「まあ、私の秘密のノートの事も知ってるなんて、あなたはいったい・・・」
~へへ、秘密。また、来て~
「時間ができたら来るわ、何かまた持ってこられそうなら持ってくるから」
~うれしい~
エリザベートは生き物をもとの位置に戻すと、ノートをそっとその横に置いた。
「じゃあ、ノートもよろしくね」
そう言って、背中?を撫でてから、その場所を移動した。
そっと振り返ると、穴はなく、元の柱があるだけだった。
2日後、あの生き物ちゃんはいるかしら?と、少しウキウキしながら図書室に行くと、歴史書の棚までやってきた。
「確かこの辺り」
そう言って、柱をコツコツと叩くと、パカリとまた穴が現れた。
不思議な生き物はそこにいて、こちらをじっと見つめてきた。
「うふふ、いたわね、こんにちは」
~こんにち~
「そういえば、あなたのお名前聞いてなかったわね。私はエリザベートよ」
~えりー~
「そう、エリーですわ。あなたは?」
~くろ~
「クロちゃんですね。クロちゃん、今日もちょっとだけ一緒に遊んでくださいな」
そう言ってエリザベートはクロちゃんを抱いて椅子に腰かけると、膝の上に置いた。
今日もクッキーを持ってきている。
クッキーを食べさせて、背中を撫でていると、エリザベートの顔には自然と微笑みがこぼれた。
そんなクロと戯れ、ノートにうっぷんを書き散らかしていると、ある時自分の字ではない書き込みを見つけた。
【そんなつまらんことを書くくらいなら、罪を犯すな、バーカ】と
(どういうこと?誰が書いたの?罪を犯すって何?)
エリザベートはパニックだ。
この秘密のノートが誰かに見られていたら、そう思うと背筋が凍るような気がした。
しかも、丁寧に表紙に自分の名前を書いてしまっている。
「どうしよう、クロちゃん・・・。
クロちゃん、このノート他の誰かに見せた?誰かが読んだりした?」
~誰も来てないし、誰も読んでないよ~
「本当?でもこの書き込みって・・・」
~大丈夫、ちょっとつなげただけ~
「つなげた?何を」
~んふふぅ~
「クロちゃん?」
~とりあえず、返事書いてあげなよ~
「はあ?」
クロちゃんはノートの書きこまれた部分をしっぽ?でパタパタと叩いた。
エリザベートはなんとも言えない気持ちだったが、とりあえず、返事?を書いてみた。
【罪を犯すとはどういう意味ですか?】と