番外編2 王妃の話
王妃の罰についてのお話となります。
「どうしてできないのかしらねえ、台本は覚えてないの?」
「くっ」
「あら?なあに?その顔は、あんなにエリザベートちゃんにやらせといて、自分はできないの?」
「王太后様、もう一度やらせてみましょう」
「そうね、エレナ、仮にも王妃なのだから、自分がやらせていた事は貴女ができるからやらせていたのでしょう?ちゃんとやりなさい。それとも私とギルギット公爵夫人が相手だからと馬鹿にしているのかしら?」
「そんな事はありません」
「では、やりなさい」
そういって始まったのは、お茶会である。
台本は事前に届けられており、それに沿って会話も行動もしなければならない。
これは王妃がエリザベートに課していた事だ。
王妃のエリザベート達に行った所業を罪として問うと、他の貴族達から王族への信頼が失速しかねない。
エリザベートとブライドが良い関係を築こうとしていることもあり、クラスト公爵が公にすることを嫌がったのだが、王妃への罰はどうしたものかと、国王とギルギット公爵、宰相、クラスト公爵とで頭を悩ませた。
そのうえ、当の王妃は、あまり反省しているようには見えず、時間が経てばまたブライドやエリザベートに対してその手を伸ばす可能性もあった。
そんな時、ギルギット公爵の妻であるアンリエッタが王太后と共にある提案をしてきた。
それを聞いた国王たちは安心して二人に王妃を任せることに同意したのだった。
二人が提案したのは、エリザベートやブライドがされたことを、王妃自身に再現させる、というものだった。
特に、エリザベートに対して行った行為は、淑女として名高いアンリエッタと、賢妃として当時の国王を支えた王太后マルガレーテを激怒させたのだ。
その日から王妃の生活は一変した。
朝から台本が届けられ、本日の会話、行動すべてが書かれている通りにしなければならなかった。
始めは台本など無視していつものように過ごそうとしたのだが、周囲の侍女、女官たちがそれを許してくれない。
台本以外の会話は全くしてくれないのだ。
もちろん、王妃の世話についてもすべて台本通り。
本日のドレスから、飲むお茶の種類まで、すべてを管理されるようになったのだ。
そして2日に1度は王太后とギルギット公爵夫人とのお茶会。
その度にお茶会の為の台本が届き、それに沿って会話が行われるのだ。
王太后と公爵夫人は後ろに台本を持った侍女が控えているが、王妃は完璧に暗記しなければならない。
エリザベートがどれだけ大変だったか、それを身を以て体験していたのだ。
お茶会以外でも、手紙を出す際はその内容すべてを検閲される。
私室での独り言も、王との会話も、全て二人に報告され、何故そう言ったのかを追及される。
王妃は段々と食欲をなくし、夜もあまり眠れなくなっていた。
憔悴しきった王妃が反省したと思い、その日二人はお茶会で台本を渡さなかった。
「だいぶエリザベートちゃんの気持ちがわかってきたかしら?」
「・・・」
「今日は台本を用意していないのよ、自由にお話なさい」
王妃はハンカチをくしゃくしゃに握り締めながら話し始めた。
「私は・・・息子の為・・・ただそれだけ・・・ブライドを守ろう、そう思ってしたことです。
あの娘は、エリザベートはブライドを乗馬に誘って、卑しい馬などとあわせようとしたのです。
他にも私の許可もなく、騎士団の稽古を見に行こうと誘ったり。
あんな野蛮な騎士たちと剣の稽古などと・・ブライドが壊れてしまいますわ!
怪我でもしたらどうするんです?あの子は次期国王なのですよ?
そんな息子を守ろうとしただけなのです。
確かに、私があの娘のすべてを掌握しておりました、それは少しやりすぎたと認めますわ。
ですが、すべてブライドの為なのです。
どうして母親が息子を守っただけなのに、私がこのような目に遭うのです?」
段々と興奮して、王妃がまくしたてるように話すのを、二人は呆れて見ていた。
「もういいわ」
王太后がそういうと、王妃は口を閉じた。
だが、その顔はまだ言い足りない、というような不満顔だ。
「私は、貴女が王太子妃になったとき、厳しい事は言いましたが、貴女のような事はしませんでした」
「それは、私が王太子妃として優秀だったから「違うわよ」」
「確かにあなたは優秀な令嬢だったわ、でも、次期国王と王妃として、ジョージと二人で話し合いながら、お互いを支え合ってほしかったから、王太子妃教育以外は口出しをしなかったの」
「そうね、マルガレーテはずっと貴女を見守っていたわ、問題が起これば二人で解決できるように裏から手助けをしたりね」
「うぅ・・・そんな・・・」
「貴女も自分の息子を信じてやればよかったのよ。ただそれだけなのに」
「王妃は離宮にて療養生活を送る。
期間は未定。
我が許可したもの以外の面会はない」
国王の宣言に、王妃は顔色を失ったたまま立ち尽くしていた。
「せめて、せめてブライドに会わせて」
離宮に移される日、王妃は泣きながら国王に縋り付いて頼んだ。
最後の頼みだから、とブライドがやってきた。
「ブライド! 母が、あなたの母が離宮に閉じ込められてしまうの。助けて」
「母上、私は今、エリザベートと共に騎士団で訓練を受けております」
「そんな!野蛮な騎士と一緒だなんて!!またエリザベートのせいなのね!!」
そう言ってわめく王妃を見るブライドはあきらめたような眼をしていた。
「母上、どうか健やかにお過ごしください」
そう言って頭をさげたブライドの横を、ブライドの名を叫び続ける王妃が連れていかれた。
切なそうにその姿を見ているブライドの側に、別室から様子を見ていたエリザベートがそっと近寄り、
その手を握った。
ブライドはつながれた手を見て、エリザベートに微笑みかけた。
「リザ、クロちゃんのようなペットを探そうか」
「いるかしら?猫のような犬のような生き物ですよ?」
「探そう、二人で」
「うふふ、色は黒がいいです」
二人は離宮に背を向けると、振り返ることなく歩いて行った。
何とか改心しないかと思ったのですが、無理でした。
王妃が離宮で安らかに過ごせるようになるまでは数年かかるかもしれません。
この番外編にて、本編を完結に戻します。
これ以降、後日談など思いつけば書こうかな、と思います。




