19 イライザがいない
「うわ~、最近のノートはレンアイ小説みたいになってきたな。
甘い、甘いわ~。朝からお腹いっぱいだわ、あはは」
最近のエリザベートのノートにはブライドの記載が多い。
それが何とも言えず甘酸っぱいものばかりで、恋愛をしたことのないアンナでもわかるくらいのラブラブっぷりなのだ。
「ま、仲良きことはいい事だ」
ノートにはイレーネの話も書いてあった。
王子に不敬を働いたとして、王家からシュルツ子爵家へ呼び出しがあったそうだ。
庶子とは言え、可愛らしい顔をした娘が高位貴族と縁を繋げれば、と考えていたシュルツ子爵も、学院で王子へ犯した不敬や、そもそも貴族としての振る舞いもマナーも身についておらず、学院でもかなりの評判の悪さを初めて知り、顔色をなくした。
イレーネは学院を辞め、修道院で一時預かりとなった。
シュルツ子爵夫人と、嫡男が親族の意見をまとめ上げ、シュルツ子爵は領地へ隠居となったそうだ。
「愛妾イレーネが消えたんだ」
もう、悪女とは呼ばれなくなったが、イレーネがいなくなればより一層、エリザベートは普通に幸せになれる、そう思うとアンナはうれしかった。
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「エリック、ベス、すべての事業の調査が終わったよ」
夕飯の後の家族団らんの席で、父クラスト公爵がそう言った。
「で、どうでした?」
「ああ、きな臭い事業がいくつかあった。調査したところ、すべてがホーンデット伯爵家がらみだった」
「ホーンデット伯爵・・・あまりいい評判は聞かないですね」
「上昇志向が強くてな、しかも押しが強い。王家に取り入ろうとしているそうだが、生憎殿下と同じ年頃の令嬢がいないからな、だから余計に我が家を妬んでいるようだね」
「なんて迷惑な」
「幸い、早期に発見できたのだ、ホーンデット伯爵家がらみの事業からはすべて撤退した。
もちろん陛下にも、ギルギット公爵にも報告済みだ。
これでベスの心配事は解消されたかい?」
「もちろんです」
ホーンデット伯爵はクラスト公爵家を罠にはめ、断罪までもっていくつもりだったようだ。
そのうえ、エリザベートを婚約者の座から追い落とし、イレーネの後ろ盾になろうと画策していたことも明るみに出た。
後日、すべての罪が暴かれ、その責任を取る形でホーンデット伯爵家は没落した。
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「ホーンデット伯爵家が没落って・・・。あれ?ホーンデットってイライザ様の家だよね。
そっか、クラスト公爵家を陥れて手に入れたのが公爵の地位だったんだ、多分。
ということは、今イライザ様は?どうなってるんだ?」
アンナはこっそりと貴族年鑑を確認した。
ホーンデット公爵家はない。
学院の名簿も生徒会室でこっそり確認してみた。
イライザ=ホーンデットはいない。
「どこに行っちゃったんだろう?」
そう思って名簿をめくっていると、イライザ、とあった。
「うお、平民枠に入っている」
何とイライザは平民として学院に通っているようだ。
アンナは歴史の変化に驚いてしまうのだった。




