18 王子がいない?
アンナは馬車に揺られていた。
なんとも言えない気分だ、他の家族は当たり前のように使用人のいる生活に慣れているが、貧乏暮らしの記憶を持つアンナは落ち着かないのだ。
「我ながら貧乏な性分なんだわ」
アンナは独り言を言いながら図書館に向かう。
馬車のおかげで歩くことなく早い時間に学院に通える。
いつもいたレストランもちょっとだけ寄ってみたが、誰一人アンナの事を覚えていなかった。
いきなり貴族の令嬢が来たことに驚かれてしまい、「今度家族で来てみたい素敵な雰囲気なので覗いてみた」とごまかした。
そして、アンナに傘を貸してくれた第3王子は、存在していなかった。
エリザベートが断罪された後、ブライドは王太子から退いている。
次代の王はギルギット公爵家から出された。
「そっか・・・歴史が変わっちゃったから、本来いるはずの人も変わって行っちゃうんだ・・・。
傘返しそこなっちゃったな・・・。
歴史、こわ、てか、私も消える可能性あるじゃん!」
エリザベートの実家は男爵へ降爵されたが、兄が継いでおり、そのまま歴史が変わっても特に変化する可能性はないのであるが、実際に第3王子の存在が消えたことで、アンナが怯えるのも当たり前なのかもしれない。
「そう言えば、エリザベートの実家が起こした悪事の数々はどうなったんだろう?
ちゃんと確認しておかないと、ど貧乏に戻るかもしれない!」
【そう言えば、エリザベートさんのお父様に確認してもらった仕事の中に怪しいものはなかったの?
ちゃんと確認しないとだめだよ】
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「あら、そう言えば、お父様にすべての事業を見直すと聞いてから、どうなったのか聞いてないわ。
帰ってからちゃんと聞きましょう」
アンナからのノートを読んで大事なことを思い出したエリザベートだった。
「エリザベート嬢、何かあった?」
ブライドがクロちゃんを撫でながらご飯をあげている。
ノートの事は秘密にしているので、アンナの事は話すことができない。
「いいえ、ところで、乗馬はどうしますか?」
先日ブライドが馬の鼻を撫でることができてから、馬におびえることが無くなり、そろそろ乗馬をやってみてはどうか、と騎士科の皆から勧められたのだ。
だが、乗馬をするとなると、正体を明かさないといけない。
王族に対してよい感情を持っていない騎士科に、正体を明かすのは非常に勇気がいるだろう。
「うん、せっかくだし、乗馬を教えてもらおうと思う」
「フフ、前向きですねライ」
「多分、クロちゃんとエリザベート嬢がいてくれたから、だと思う」
突然の誉め言葉に、エリザベートは顔が赤くなるのを感じた。
「それで、お願いがあるんだが・・・」
「何でしょう?」
「私の事は今後も、ライ、と呼んでくれないか?」
「いいんですか?」
「ああ、言葉も厩舎の掃除の時のように話してもらいたい」
率直な言葉に、エリザベートは気分がウキウキとなるのを感じた。
「では、ライ、私の事もエリーでも、ベスでも、好きに呼んでくださいませんか?」
「私の好きに?」
「ライの呼びやすい呼び方を選んでください」
そう言われて、ブライドは少し考えた。
自主的に何かを考える初めてかもしれない。
「リザ、リザって呼んでもいいかな?」
「もちろんです。ライだけの呼び方ですね」
そう言われて、ブライドはちょっと笑いながら顔を赤くしてクロちゃんを撫でる手を早くして、動揺を抑えていた。




