14 読書と乗馬
「え?読書クラブがない?」
「はい、そのようなクラブは聞いたことがありませんね。どのようなものを想像していたのですか?」
「読書が趣味の人が集まって、自分の好きな小説を紹介しあったり、かしら?」
(読書クラブなら自然と話ができるんじゃない?ってアンナちゃんに言われたんだけど、クラブが存在しない?アンナちゃんは同じ学院にいないのかしら?)
「その読書クラブ、いい案ですね」
「え?」
「エリザベート様が自分で立ち上げたらどうでしょう?」
生徒会でクラブの話を聞いたエリザベートだったが、アンナとは時代が違うため、アンナの所属する読書クラブがなかったのだ。
だが、思いがけず、エリザベートが読書クラブの創設をすることになった。
図書司書の先生も、クラブの創設に積極的に協力を申し出てくれたこともあり、図書館に通う本好きな生徒たちが定期的に集まることが決まって行った。
第1回の時は緊張したが、回を重ねるごとに、それぞれの口もほぐれていき、エリザベートも楽しんで参加することができるようになっていった。
「レンアイ小説、ですか?」
「ええ、お読みになられたことは?」
「ないですわ、恋愛小説とはどんなものなのかしら?初めて聞くわね」
「はじめは隣国で発売された男女の恋のお話なんですが、評判が良くて」
「まあ!でしたら是非、私のお薦めをお読みになってくださいませ」
「私もお勧めしたい本が」
「エリザベート様のお好きな本を知りたいですわ」
和気あいあいとした雰囲気で、エリザベートも気負わずに話すことができる貴重な機会を得られた。
その代わり、乗馬クラブの方は中々うまくいかない。
兄エリックに付き添われて、学院の馬房に行ったのだが・・・。
「女が何しに来た」「帰れ」「動物臭いとわざわざ馬鹿にしに来たのか!」
騎士科の生徒だろうか、口々に怒鳴りつけてくる。
「お兄様・・・」
「ああ、こうなるだろうとは思っていたんだが・・・」
エリックの入学時、ブライドが同じ学年になる、ということで、王妃が学院の視察に来たそうだ。
食堂のメニューから、教室の椅子と机、学院の先生方に至るまで、一通り文句をつけ、すべてを王家にふさわしいものに変更するように要求したそうだ。
そして、動物嫌いの王妃は、学院のカリキュラムに乗馬があることを知り、学院に圧力をかけ、乗馬用の馬を処分させるように仕向けたのだった。
「そんな!」
「まあ、あまりの横暴さに父上たち高位貴族数人が陛下に申し上げて、何とか乗馬ができるように戻したそうなのだが……」横暴な振る舞いは止まらず、茶会やサロン、夜会といった社交界で、
「まあ、乗馬だなんて下品なことをなさるなんて、私なら恥ずかしくて言えないわぁ」
「あら、なんだか動物臭いわぁ、ああ、騎士の奥様でしたのね」
「馬に直接乗るだなんて、なんてはしたないの」
王妃の暴言は静かに貴族社会に浸透していった。
陛下が気が付いた時には、騎士は乗馬をするから動物臭く、乗馬ははしたない、乗馬をする貴族は恥ずかしい、という雰囲気が出来上がってしまったのだ。
特に騎士団に所属する者は蔑まれ、そんな貴族の態度に腹を立てた騎士が貴族への反感を持つ、という悪循環に陥ってしまっていた。
当然、学院でも騎士科は蔑まれ、騎士を目指す者の心は荒んでいったのだった。
「自分が動物が嫌いだからって、そこまでしますか?」
「まあ、あのお方だからな。だから今の騎士科は貴族が嫌いだし、王族にも良い感情を持っていないんだよ、だから、乗馬はあきらめた方がいい」
エリザベートはエリックにそう言われ、その日は何も言わずに帰った。
【アンナちゃん、今のままでは騎士団の方たちの忠誠はなくなってしまうと思うの。
私にできることは何かないかしら?】
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「うわ、あの王妃、本当に最悪だな、王妃が本当の悪女じゃない?」
そういえば、とアンナは生徒会で聞いた話を思い出していた。
王家と騎士団の間には微妙な距離感がある、何とか解消したいが、昔からの確執があるとか言ってたな。
確執の原因がわからず、王家も長い事悩んでいるらしい、と。
・・・その確執って、エリザベートが書いてきた内容なんじゃない?
多分、あの王妃のせいだな。
本当にろくでもない王妃だ、王も王子もふがいなくない?
「そうだ!」
【エリザベートさん、ブライド様と一緒に馬小屋の掃除から始めたらどうでしょう?
始めはいろいろ言われると思うけど、頑張って続けて行ったら騎士の人たちと仲良くできるんじゃないかな?やるかどうかは本人の頑張り次第だけど】
「母親のしでかしたことを尻ぬぐいしつつ、婚約者?と会話できるようになるんじゃない?」
アンナは自分の考えに満足してノートを穴に隠した。




