12 生徒会とお茶会と
「私を探しておられたんですか?」
「うん、でもいつ行っても教室にはいないし、クラスの子に聞いても居場所がわからないって言われるし、まあ、今日会えてよかったよ」
「はあ・・・」
(この人はなんでそんなに私を探してるんだろう?)
「あ、別に怪しい事じゃないんだ。君を生徒会に誘いたいと思って」
「生徒会ですか?」
「そう、各学年の成績優秀者を勧誘しているんだ。仕事は多いけどやりがいはあるし、卒業後の進路選択の時もちゃんと申告できるくらいの実績を積んできてるんだ。生徒会出身者は結構欲しがる人材なんだ」
(就職に有利、ってことか、それはありがたい、ありがたいんだけど・・・)
「ものすごくありがたいお話なのですが、今はちょっと難しいというか、あまり目立つことをしにくいというか、その・・・」
ハント様はちょっと怪訝な顔をしたが、すぐに納得した顔になった。
「ああ、さっきの子達だね。それと高位貴族の子女が噂している 悪女の子孫 だろ?」
「はい、そんな悪評というか、そんな私が生徒会に入ると、皆様にご迷惑がかかるかと」
「はははっ、いつまでそんな話してるんだろうね、頭の悪い事だ」
「頭が悪い?」
「だってそうだろう?悪女とはいえ、自分たちには何もされていないのに、悪女の子孫だからと貶めるなんて、馬鹿だとしか思えないね」
「この人、見た目穏やかそうで、意外と辛口だな・・・」
「アンナ=クラスト嬢、声に出てる」
(うっ、しまった)
慌てて口を押さえた。
「まあ、そんな馬鹿達の為に君の将来を閉ざすのも悔しくないか?」
「そうですね」
「生徒会に入ればあんな奴らは近づけないよ」
この人の言うとおりだ、何故自分が我慢して耐え続けていたのか、悪女の子孫だから仕方がないとあきらめていたが、今こうやってチャンスが来たのだから、乗ってみよう、アンナはそう判断した。
「よろしくお願いします」
生徒会入りをしたアンナは、エリザベートの事も気になっていたため、朝レストランからの歩く速度をなるべく早くした。
レストランに到着する時間も他の生徒よりは随分早い時間だったので、早足で学院に行けば、図書館に寄る時間は作れたのだ。
*******
「アンナちゃん、会話集を書きだしてくれたのね」
アンナがロッテンマイヤーに借りたマナー本は、いつもの場所にノートと一緒に置いておいたのだが、エリザベートの所には届かなかったのだ。
そのため、会話の参考例をノートに書きだしてあげたのだ。
「う~ん、なかなか難しいわね」
エリザベートは一通り目を通したのだが、ブライドとの会話が成立する気がしなかった。
ブライドからの連絡があり、王宮の庭園で二人で向き合っていた。
二人とも無言のまま、紅茶を飲む。
(どうしよう、殿下が何も話さないなら、私が話をする?よし、アンナちゃんに書いてもらったノートを思い出すのよ)
「あの、本日は良いお天気ですね」
「そんなに良い天気ではないかと・・・」
そう、本日は少し太陽に雲がかかる日だった。
「おほほ、そ、そうですわね」
(しまったわ、王宮に来るときはもっと雲が少なかったのに・・・)
「ええと、本日のお茶は香りがよいですね」
「ああ」
「殿下はこのお茶がお好きですか?」
「そんなには・・・」
なんとも会話が弾まない。
ブライドもエリザベートと向き合うつもりなのだが、彼も女性との会話経験がほとんどなく、今までの会話はエリザベートが台本通りに話していたので、会話をする、ということができなかったのだ。
「殿下は乗馬はお好きですか?」
「そんなに・・・母上が、動物があまりお好きでないから」
王妃は動物が苦手で、息子であるブライドにも動物に関わらせることを嫌がったのだ。
そのせいで、ブライドは乗馬ができないが、そのことは周囲には隠しているのだ、そんな彼に乗馬の話をしても、会話は弾まない・・・。
ぽつぽつと会話がされ、やがて時間になり、エリザベートは席を立った。
「送ろう」
そう言って、ブライドが手を差し出してくれた。
初めての出来事に、エリザベートは固まってしまった。
手を出したまま黙っているブライド、驚いて固まるエリザベート。
動かない二人を見かねて、侍女がエリザベートの手を取ると、そっとブライドの手に乗せた。
カクカクとしたぎこちない動きで歩いていく二人を見ながら、侍女や従者たちが、ため息をこぼした。




