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3話:よし、魔王軍に戻ろう

 魔界を目指し、峠道を馬車で進む勇者マルス一行だったが、途中で車輪が外れてしまい、立ち往生していた。


「どう、ダンガン。修理できそう?」

「……時間掛かる」

「そっか。じゃあ今日はここで野宿だね」

「仕方有りませんね。ガノス様、火を起こしていただけますか? ()()()が襲ってくる可能性はありますが……」


 ユリアの言葉に、ずっと上の空だったガノスが身体をビクつかせた。


「ま、魔王!?」

「……? いえ、火を起こすと魔王軍に見付かるかもしれませんわ、と言っただけです」

「あはは、ガノスはやる気満々だね! 分かるよ、魔王を倒したいというその気持ちも。でも焦ってはいけない。ゆっくりと、でも着実に力を蓄えないと。魔王軍は強い。それを率いる魔王もきっと強いに違いない」

「そうですわね。きっと、山より大きいのでしょう。それに醜悪な面をしているに決まってますわ」


 ユリアが吐き捨てるようにそう言った。


 いや、その本人がすぐ横にいるんですが……と言いたくても言えないガノスだった。


「絶対に最低な野郎に違いないさ。例えどんな奴だろうと……友達にはなれない。絶対に」

「……だよな」

「なんで、君が落ち込むんだ?」


 マルスの無自覚の攻撃に、ガノスがどんどん落ち込んでいった。


 自分が魔王だという確信はなんとなくある。

 だけども記憶は相変わらず曖昧である上に、短い期間かもしれないけどマルスと過ごした日々はもまた真実なのだ。心情的には完全に人間側に傾いていた。


 むしろ、魔王軍何やってるんだよ!? 人と仲良くしろよ!? と叫びたい気持ちでいっぱいだった。


「な、なあマルス」

「どうしたのガノス」

「例えば……あくまで、例えばの話だが……魔王が、いや魔王軍が実はすっごい良い奴等で、これまでの戦いはすれ違いというか勘違いでさ……だから、和解することって……可能だと思――」

「――無理だよ」


 マルスは最後まで聞かずにそう言い切った。その目には悲愴な決意が映っている。


「沢山の人が死んだ。僕の村も燃えた。彼等を許すわけにはいかない。今さら良い奴面したって無駄だ」

「で、ですよねえ」


 ……無理だ。絶対に無理だ。今さら、実は俺が魔王でした~なんて言ったら絶対に斬り殺される。


 ガノスはますます凹むのだった。


 やっぱり……何かのタイミングで皆から離れて、魔王軍に戻るしかない。そう決意したガノスは今夜、マルス達に別れを告げようと決めた。


 その夜。


「っ! 魔王軍よ!」

「けひゃひゃひゃ! 我が名はコルニクス! 貴様ら全員の首を刈ってやる!!」


 ガノス達に空から襲いかかってきたのは、鴉頭の魔神だった。両腕が黒い翼になっており、手には大鎌が握られていた。


 よし、きたあああ! ガノスはナイスタイミングで来襲したコルニクスに感謝した。まあ彼が誰なのかは全く覚えていないが。


「さあ、正々堂々我と戦うが良い! ……って感じで大丈夫です? あ、そうか魔王様に挑んだ方がいいのか? ん?」


 なんて言いながらこっちを見るコルニクスを見て、ガノスは音速で目を逸らした。


 待って待って、なんで!? というか何言っているんだあいつ!?


「どういうことだ? まあいい! なら勇者である僕が相手だ!」

「……勇者は最後だ! まずは魔王……じゃなかった魔術師、お前が我と戦え!」


 今、魔王って呼びやがったこいつ。だが、結果的にナイスだと思ったガノスが、ばさりとローブをはためかせた。


「――マルス、こいつは俺に任せろ」

「……頼んだよガノス」

「はあああああ!!」


 ガノスが適当に気合いを入れながら、地面を蹴って飛翔。峠道の崖を登っていく。


「おー、流石魔王様っすね。その身体でそんな動けるなんて信じられねえっす」


 峠の上――もはやマルス達には見えないし、声も聞こえない位置まで来ると、ガノスがついてきたコルニクスへと振り返った。


「お前な……マルス達の前で俺を見て魔王様って呼ぶ馬鹿がいるか! というかやっぱり俺が魔王なのは確定か……流石に続くと、勘違いとか他人の空似とかはありえんしな……」

「いやあ、すんません、つい。あ、大丈夫っす、ちゃんと()()聞いてますから。いやあしかしエグいっすねえ。勇者の信頼を得て、最後の最後で裏切って絶望させて闇堕ちさせるなんて。俺じゃ思い付かない計画っす。しかもそれだけではなく、あと五個ぐらいメリットがあるとか……」

「へ? 作戦? メリット?」


 なんだその作戦。そんなの俺は知らんぞとガノスは言いたかったが、なんせ記憶がないので、以前の自分がそんなことを企んでいたのかもしれない可能性を否定しきれなかった。だとすればコルニクスは間違っていないかもしれないので強く出られない。


「いやだなあ、とぼけちゃった。じゃあ、適当にやりますか。あ、あんまり痛くしないでくださいね。やられたフリするんで」

「いや、そうじゃなくて俺、魔王軍に戻――」


 ガノスが戻ることを伝えようとした瞬間に、背後からマルスの声が響く。


「ガノス大丈夫か!?」


 どうやら心配して追い掛けてきていたようだ。会話を聞かれていたかもしれないという焦りがガノスの手を動かした。


「し、死ね、コルニクス!!」

「へ? あ、ちょ、それ本気のや――」


 剣の形をした闇の炎がコルニクスを切り裂く。その炎がコルニクスを燃やし尽くし、骨すらも残らなかった。

 

 それを見た、マルスが無言で頷いた。


「……悪い、心配でついてきたんだ。でも余計なお世話だったみたいだ。しかしガノスは本当に強いな! 僕より勇者に向いているかもしれない……ってなんで落ち込んでるの!?」

「なんでもない……!」


 ひざまずいて、泣きながら地面を殴るガノスを見て、マルスが驚く。


 ガノスは、うっかりまた殺してしまったコルニクスに心の中で謝罪しつつ、魔力を使って、デーモンキングと彼は必ず後で復活させてあげようと誓ったのだった。


 そして魔王軍に浸透した、ガノスの〝勇者闇堕ち大作戦〟のせいで、魔王軍にすら戻れない状況になりつつあることにガノスが気付くのは――もう少し先の話である。


魔王の魔力で、部下はいくらでも復活させられますので、デーモンキングもコルニクス君も復活します。良かったねデモ美ちゃん!

というわけで、突発ネタでした。続くかは未定。


★とブクマが大好物なので、続きはよ! という意思があれば是非とも応援をば

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