表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

〜優秀なケースバイケース〜


 部屋に入ると自分に降りかかった火の粉を消し払うようにシャワーを浴びて、これは夢であれ目を覚ませと熱いシャワーに身を任せるが、ただただ熱さに耐えるだけの余興の如く無様な姿が鏡に映る。


 これまでの籠の中の生活に、緩んだ身体が物語る。

 戻さなければならない事も示された。

 思考も心も身体をも必要とする事に、久々に見たヒユサリアの未だ野性味溢れる目や出で立ちに商社時代の姿が頭を過ぎっていた。


 未だに判らない事がある。

 ヒユサリアが信頼を寄せていたと解っても、何故こんなにも野性味を失っている私を選んだのかだ。

 恐らく解いてはならない謎が何なのかに、私なら気付く事が出来ると考えているのではないだろうか。

 そう考えれば納得も出来るが、客観性に欠ける。



 そもそも商社を辞めタクシーの配車担当になり、勝者から敗者だと皆に話を流したのは配車担当に成った時の私自身なのだから。



 パンフロワは主に日本との取り引きをしていた。

 だからこそ、小口契約での失態により担当を外れる際、ビッグヴィクトル等への影響つまり相手の恥とならぬ様にと、責任のとり方をパンフロワから問われ謝罪していた上司から追求されていたが故に出した答えだ。


 敗者になる様な者ではパンフロワ程の大口契約は扱えない。

 そう世間体を守る処か持ち上げる事で体裁を……



 そして、自らが流した噂を自虐的に営業マンが集う様なバルで話歩き定着させた事で今がある。


 仮に、そのままただ辞めていただけなら、パンフロワが情報漏れを防ぐ為に消しに来ていた可能性すらもあったが、ヒユサリアに聞いたその後の兵器の密輸入発覚の折に担当した者達は武器取り引きに関係したとして当局に捕まり今も尚、秘密警察やらの監視の渦中にあるとの事だが、当然の如くに当時私の元にも色んな役人が来た。


 が、あの勝者から敗者の話によってさした質問もされずに私を散々馬鹿にして帰って行った。

 中には私の部屋から金目の物を手にし、背伸びせずに足元をチャント見て頑張れよ! 等と、偉く上から目線で私の肩を叩き脅しとばかりに持ち去る輩も居た。


 しかし、この話自体が無理矢理私が作った話だと気付きもしない輩共に、兵器の密売取り引きの根幹に迫れるとは到底思えなかった。


 皆、自分は天才だと思っている。

 私とてその一面はある。

 しかし、他人のする話に本人確認もせず噂話を信じ話の中の愚者を周りと一緒になって愚弄する様な大馬鹿者が、自身を天才だと思っているのを見るのは実に滑稽だ。


 それが世間一般的な民衆の憂さ晴らしとなっているのも国の破綻が目の前に迫っている事を暗示しているのだろう。



 三権腐れば国滅ぶ。


 誰が言ったか記憶も遠いが正しくその通りだと思えたのは、ある政治家が三権のパワーバランスをなし崩しに利権で繋げる事を良しとする経済政策での協力を求めた時だった。

 そして、それを称賛する民衆の声を街で聞いた時から私はこの国の破綻を覚悟して、いつ国が滅んでも情報と職と生活を守る為コンピュータ原語を学んでいた。

 それが配車に役立つとは思わなかったが。


 商社を辞めタクシーの配車担当になり、勝者から敗者。

 この話を聞いて尚も気付きもしない自称天才の輩共はどうして日本語の意味を知っていたと言うのか。

 それも駄洒落という日本の言葉遊びの慣習を。


 私はパンフロワに対しての詫び入れに、契約交渉を考え日本の様式を調べていた記憶からパンフロワ向けに流した噂だが、そんな事実確認も出来ない輩共がまるで自分は色んな雑学を知っている常識人の様な顔で陰口を叩き嘲笑い大手を振って(うそぶ)き歩いている様は、それこそ滑稽だった。


 七つの大罪の内いくつも当てハマるその欲深き姿にそれぞれの信仰の神は寛大に捉えているのか見て見ぬふりか、大罪とした神は故に何を思うのか、大罪を犯す信仰者が居る宗教は信者の大罪をどう罰するのかと。

 形成される組織の中の犯罪者を罰する事が出来なければ組織は滅ぶ。


 つまり国も宗教も組織なのだから自浄能力を失えば組織という木は腐敗し倒れる。


 そして、私はその腐敗した何らかの組織が犯した問題の処理に第三者機関として突然の任を委ねられた。

 それも腐敗が浸透した中での隠蔽体質そのままに。

 解いてはならぬ謎はこの写真の中に在る。

 ヒユサリアが隠し私に託された写真には、パンフロワの輸入した兵器が写り込んでいると踏んでいた。



 まだ具体的な謎解きの日程も知らされていないが、ヒユサリアの事だ。

 きっと既に決まっているのだろう。

 うかうかしていれば準備もままならないままに拉致され兼ねず、服や薬やと何も持てずに連れ出されては不便極まりない。

 今夜の内にある程度の準備はして置かないとだろう。

 そんな事を考え始めるとシャワーを浴びている時間ですら無駄な時間に思えて急ぎ出る事にした。



 髪を拭きながら部屋に戻ると違和感を感じ緊張を強いられる。


 スグに何の違いかを考えるが、パソコンだと気付く。

 マウスの位置がズレている事に違和感の答えと断定出来たと同時に、金目の物にも金や過去の危険な資料や権利書やの隠し場所にも、食料品類にも、コンセントや隠しカメラやマイクや爆発物やを設置しそうな場所も、全てに目を凝らすがパッと見に異変は無い。


 それはつまりパソコンにのみ用が有って、一直線に向かい確認か仕込みか何かをした後、他には目もくれずに出て行ったという事か。

 状況を理解して尚も緊張を継続している理由は、最後の可能性だ。

 状況から導かれる通りに犯人がプロなのは明らかだが、いつ来たのか……


 それとも、まだ居るのかだ。


 この家で隠れられるのはカーテンの向こうだが、下層階のベランダならある程度の覚悟と身のこなしがあれば、いや人の家に侵入する様な輩なら当然ソコから逃げる。

 だが、生憎とパソコンに興味を示す様な輩なら隣のベッドルームへの扉を選択するだろう。


 それが確信に至る証拠が扉の下に在るのを見て顔を(しか)め溜息が漏れる。

 舌打ちし、急ぎ濡れた身体に服を着ると電話を持ち棚からクッキーの缶を抜くと、蓋を開けクッキーを取り出し下の段から銃を取り出した。


 大きく息を吐き出すと覚悟を決め銃口を扉に向けて脇にズレてノックすると壁伝いに語りかける。



「俺は殺すも殺されるも望まない。大人しく出て来てくれ。話はそれからだ」



 口にすると覚悟なのか諦めなのか恐怖よりも思考が冴える様だ。

 隣の部屋から物音が静まる音がする。

 恐らくどうするか考えて固まったのだろう。

 犯人が何故シャワー中に出て行かなかったのかの疑問にも答えが出ていた。


 確認すると、やはり探した形跡があった。

 探していたのはパソコンの中身では無い様だ。

 良く見ればマウスは動いているが、モニターのリモコンが動いていない。

 敢えてマウスを動かしてパソコンの中身に興味を持った犯人と思わせようとする犯人は、私がシャワーに入ってから入って来た事を示していた。



「お前の欲しい物は私は知らないぞ!」



 観念したとは思えない態度でノックが返ってきた。



「オーケー、俺も殺しは今日の予定に無い。今出るから何もするなよ」


「ああ、お前次第だろ?」



 ゆっくりと扉から出て来た男は手を上げた。

 歳は四十位か耳の周りに被れた痕が残る目の疲れで瞼の重い人相の悪い顔には覚えがある、隣の部屋の住人だ。



「パンフロワか?」



 恐らく当局の人間だと踏んでいた。


 脱ぎ捨てた服のポケットを探った痕跡に、イスラリオの追跡の可能性を考えたが、数年前、そう調度パンフロワの兵器輸入がニュースを騒がせ私の所にも捜査の手が来た頃に引っ越してきた住人だ。


 口封じのパンフロワか、調べる当局かのどちらかだろう。

 ただ、ここまで来て殺しより探索行動に走ったのだから恐らくは……

 しかし、質問に二択はコチラの思考をバラす様なものだ。

 敢えてどちらでもある質問をしてみるが。



「とりあえず銃口を下げてくれ。いつから気付いてたんだ?」



 向こうも思考は読まれまいとしているのは解ったが、探り合いの会話になると面倒だ。

 何も言わず銃口を敢えて向け直すと名乗り始めた。

 この男に殺す気は無い事が解った。



「わかった、お前がさっき会ってた男から他にも何か受け取ってないか?」


「もう無い、見たなら組織に帰れ」



 さっき確認した折に服の中を探してたがバッグを開けた様子は無かった。

 つまり狙いはヒユサリアの抜き出した写真の方だ。

 敢えてそれを無かった事にした。



「そうか、まあ、隠すと怪我する事になるぞ」



 そう言って胸ポケットに手を入れる。

 普通ならフリーズ! といった処か、しかし私は銃口を向けたまま、出して来る物をただ待っていた。

 それがこの場の答えだと思っていたからだ。



「あんた、馬鹿なのか? まあ良い。コレ、何時でも連絡しろ」



 銃口で外に出て行くように促し、ベッドに置かれた番号の書かれた偽の名刺を受け取った。

 やはり役人だ。

 秘密警察ともいえるその男は自分の部屋に戻って行った。




 鍵を掛けた後、一息つき部屋に戻ると全ての隠しカメラを外していく。

 数年前から隠しカメラの存在には気付いていた。

 だが外しても外してもイタチごっこになるのは予想が出来た。

 ならばと敢えて晒して潔白を証明する事にしていた。


 しかし、それも今終わった。

 これだけ必死になって探しに来た写真を急ぎ確認する必要がある。

 気付かぬフリで油断して次のカメラは仕掛けていない筈だ。

 イタチごっこも今日は出来ない。

 カメラを全て外せるチャンスは今日だけだと覚悟を決めた上で外していた。

 隣の部屋ではさぞかし悔しい思いで真っ暗になったモニターを眺めると同時に切り替えたのだろう。

 小さな耳鳴りが始まっていた。



「今日はもう静かにしといてくれ」



 そう言って最後に残した盗聴器をソファーの隙間から引き抜いた。

 マイクロ波追跡装置でコチラを覗いているのは理解していた。


 電波とは可視光線も指す。

 つまり、可視光線と違う電波も映像に変換出来るのはソレを理解している者には当然の話だが、それこそ王室の諜報機関が数年前に公表するまでは陰謀論の類とされていた。


 しかし、今ではその筋の人間には当たり前の様に知られている。


 一部の映画にもドラマにも使われ出しているソレは、このピリピリする感覚で相手にバレる為テロリストにも使えず画質も悪く、画質を上げたければ電圧を上げる故に拷問での使用と国際社会からの批判と訴訟問題にもなり兼ねず東欧の秘密警察ですらも手放し欠陥品として公表され有名になった代物だ。


 警察へのお下がり品か密売組織からの強奪品か、それを使うという事は向こうも敢えてコチラに示しているのだろう。


 監視は止めないと。



 それすらをも不可能にする方法も今ではあるが必要はない。

 写真を見る姿は見られても写真を見せる気は無いからだ。

 写真の周りで強力な電波を出してやれば良い……


 ひとまずシャワールームに戻りドライヤーで半端に乾き出した髪にあてると写真を鏡の前に並べていた。

 敢えて乱暴に脱ぎ捨てた服ではなくシャワールームに置いていた紙袋に写真を入れていた。

 帰宅途中のマーケットで向かい酒を装いビールと共に買い、食べ歩いていたチップスの菓子袋に。



 既に換気口のカメラやマイクは外したが、来れないように接着剤を塗った画鋲を撒き置いてある。

 髭剃りで鏡を確認する様に拡大レンズを使い覗き確認し始めると換気口からうめき声が漏れ聞こえた。

 まだコチラに来るには遠い声に五分程の猶予を確信し、換気口から写真に目を戻す。



 夜のコテージのバルコニーでの写真だが、目を凝らすと薄っすらと湖面が青く光っている様にも見える。

 拡大レンズで追うと湖面に向かい立つ数人の陰影があった。

 恐らくこれは誰かを追って行き隠れて撮影した写真。


 更に、雨の日に撮影したのか背景も良く解らないピントも何もかもがボヤケた写真だが、中央に何か光る窓の様な……

 雨の中、何処かの部屋に何かを見付けたのか。


 ようやく現れた人形館の云われとなる人形の写真だが、イスラリオもヒユサリアも何故この人形の写真を隠す必要が有ったのかが解らないが、人形館の人形は私の想定していた人形のそれとはかけ離れた人形だった。


 そして、残りの写真を見るのも忘れる程にその写真に食い付き驚いていた。



 何でもない写真だが、そこに映っていたのは受付の写真。



 ドライヤーの音に埋もれる程に小さな金属音が上から聞こえると、仕方無く写真を菓子袋に戻しドライヤーを切り部屋に戻った。


 残りの写真は兎も角として、ヒユサリアが何を隠しているのかに重要なヒントを見付ける事が出来た。


 ひと先ずは旅の準備を始める事にして、隣の住人に私の引っ越しを想起させる事にした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ