戦友
「暗殺者を1人拾ったそうだな」
城に呼ばれて、私は皇帝の執務室にきていた。
紅茶を淹れてくれているのが、前に言っていた彼の使い魔なのだろう。猫の使い魔らしい彼は、黒の猫耳と尻尾がある美少年で、その毛並みの綺麗な黒い耳と尻尾が揺れる度、気になって仕方がありません。
是非その耳をもふもふさせてほしい。
昔から、もふもふなものに目がないものですから。
お陰で、そちらに意識がいってしまって集中できません。
「アリス……?」
「あ、すみません、ええ、使えそうな人材でしたから」
じーっと耳と尻尾を見つめている私に気づいた彼に声をかけられて、私は会話に戻った。
私はよい香りの紅茶を飲みながら、笑顔でそう返した。
使える物は使う。というのが、私のポリシーですから。
早速黒曜は、トレゼルトへと向かってくれました。ここからトレゼルトまではかなり距離があるから、帰ってくるのは多分1ヶ月以上先になるでしょう。
まぁ通信用の魔法具を渡してあるから、それで報告を聞くつもりだ。
「そうか、で、お前のところに暗殺者を差し向けた奴らだが、全員捕まえた」
「あら、仕事がはやいのですね」
「まぁな、それで屋敷を調べてみたら、もうでるわ、でるわ、犯罪の証拠が」
とても楽しそうに笑う皇帝。
なんだかその笑顔は新しいおもちゃを貰った子供のよう。
「これを機に帝国の膿みを一掃しようと?」
「まぁな、自分の娘を皇妃になんて考える貴族には、ろくな奴がいない」
何か嫌な事でも思い出しているのか、顔を歪めどこか遠くを見る皇帝。
まぁ皇帝なんて帝国一の優良物件ですから、きっと様々な女性からアプローチされてきたことでしょう。
「まぁ、否定はしません」
皇帝を傀儡にしようなんて、考える馬鹿もいるかもしれませんしね
野心のある貴族ならば、娘を皇族へとおしあげ、帝国の実権を握ろうなんて考えるかもしれません。
「アリス、お前が俺の婚約者として責務を果たしている限り、アリスの自由とその権利は保障しよう」
にやりと笑った皇帝に、私も笑顔で頷いた。私たちの間に愛なんて物は存在しないけれど、多分お互いに信頼はしている。私を貶めた彼らへの復讐を成し遂げるため、彼は私にとって必要な存在だと。
私が皇帝の婚約者になったと知ったら彼らはどんな顔をするのだろうか?
「はい、皇帝陛下」
「ああ、あとその皇帝陛下というのもいらない。ジルベートでいい」
「ですが…………」
流石に皇帝を呼び捨てにするのは、なんだか気が引けるのですが…………
「アリス、お前と俺は戦友だ。違うか? 」
『戦友』という言葉が妙にしっくりときた。
元婚約者にも恋愛感情を抱いたことはなかったし、私と元婚約者の関係ははっきり言って最悪だった。
元婚約者は私の顔を見る度、悪態ばかりついていたし…………
まぁ私もどうでもよかったから、笑顔で受け流していたけれど。
「いいえ、違いませんわ。ジルベート」
「ああ、それでいい」
私の返答にジルベートは満足そうに頷いて、笑った。