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知らぬが仏

「ん~と、この辺かな…………」


 アリスは異空間の中に手を突っ込んでいた。何かあるたびにそこに入れているせいで、中はぐちゃぐちゃになってしまっている。


 調理器具から洋服や小物、魔物の剥製から、秘宝まで、ありとあらゆるものが入っている。


 いっそ骨董品屋でも開けるのではないかというくらいには、変……いや、私にとって面白いものが入っている。


「あ、あった!」


 アリスはその中に埋もれていた剣を引き抜いた。それはまるで透き通る青のガラスのような美しさなのだが、今は埃を被り少々薄汚れている。


 それはトレゼルトでは聖剣と呼ばれる国宝級の代物だった。王宮にもレプリカが飾られているが、本物はこっちである


「あらら、埃まみれだ」


 埃を被った聖剣を拭きながらこれを台座から引き抜いた時のことを思い出した。



***



 あの日は、そう、聖地にキノコ狩りに出かけていたのだ。


 もちろん聖地には誰でも入れるわけではないが、私は現聖女であった為、容易に入ることができた。


 聖地は私にとって庭みたいなものであり、小さな頃から私の遊び場だった。


 夢中になりすぎて、聖地の奥深くに到達する頃には籠の中はキノコでいっぱいになっていた。


 伯爵家の料理人の作るキノコ料理に想いを馳せていると、少し進んだ先に道が開けた場所があった。そこにだけ陽の光が差し込み、なぜだか凄く神秘的だった。


「って、何あれ」


 私が見つけたのは、台座に刺さる美しい剣だった。


 ほんの出来心というか、なんというか、キノコを収穫するくらいの感覚で私はそれを引き抜いた。


「聖剣……」


 王宮で何度かレプリカを見たことがあった私はすぐにそれが本物の聖剣であることはわかった。


「え、いらな……」


 それが私の感想だった。

 剣術も嗜んでいたが、魔法の方が得意だったし、何より聖剣は重い。


「こんなの振り回したら私の腕が筋肉痛になるわ」


 台座に戻そうとしたが、なぜか剣が戻らない。

 一度引き抜いた聖剣は所有者が死ぬまで台座に戻ることはない。という記述を思い出して、私は仕方なくそれを異空間の中に入れた。


 そして何年も聖剣は異空間に放置されていた。


「いや、まさかあの時はこれを使う時が来るなんて思いもしなかった」


 私はしみじみと言った。


 聖剣と聖獣。その2つがあるからトレゼルトは大国に囲まれながらも生き延びてきたのだ。


 いわばこの剣はトレゼルトにとって信仰の対象であり、聖獣と並ぶ貴重なものである。


「そういえば、あの子は元気かな……」


 聖獣とは、よく遊んでいた。

 王妃教育が始まってからは忙しくてなかなか会えなかったけれど……


姿形は違えど大事な友人を思い、私は口元を緩めた。




***


「ふはは! 父上、ついにやりましたね」


「ああ、良くやった。さすがは自慢の息子だ」


「ようやくあの邪魔なアリスを追い出せました。あいつ、図々しく、この王族の僕たちよりも平民から慕われて、本当に目障りでした」


王宮の一室で国王である父上と僕は顔を見合わせて笑った。


それは王家にとって目の上のたんこぶであったアリス・アシュトンを追い出すことが出来たのだ。


あの女は、本当に生意気な女だった。

魔法の天才だとちやほやされて、いつも周りから僕よりも良い評価を得ていた。


王族であり婚約者であるこの僕をたてるのは当然であるのに、あの女にはそれがなっていなかった。


忌々しくも、僕に意見をするなど、言語道断だ。


一伯爵令嬢の分際で偉そうな女だった。


「平民も何故あそこまで怒るのか理解できません! 聖女などいなくとも、この国には聖剣も聖獣もいるというのに」


王宮には聖剣が保管されている。

あれさえあれば、アリスなどいてもいなくても変わらない。


「そうだな、いざとなればあの聖剣を使えばいい。我々王族への支持を掠めとるようなあの女などいらない」


「けれど、どうせ捨てるならば、一度くらい味見をしておけばよかったです」


僕はあの女の顔を想像してニヤリと笑った。容姿だけならば、悪くはない女だった。口の減らない生意気な女だが、口さえ塞いで仕舞えば、どうとでも出来よう。


「あれは顔だけはよかったからな。まぁもう捨ててしまったものはどうにもできまい」


「そうですね」


知らぬが仏とはまさにこのことであろう




知らない方が幸せな事もありますよね〜

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