初めて尽くしの日
合宿一日目。アルスたち剣道部員たちは学校で集合し、顧問の先生を聞きながらバスへ乗り込んだ。バスに乗り込む前、でかい荷物をバスの下にある荷物入れに入れていた。
「あー、重かった……」
辛そうな表情をしながら、弓彦は肩を回しながらこう言った。その様子を見たアルスは、弓彦に近付いた。
「そんなに荷物を持ってきたのか?」
「いや、服と歯磨きとタオルぐらいしか入ってないけど」
「まさか、どさくさに紛れてエロ本でも入れたんじゃないの?」
アルスと弓彦の話を聞いていた御代が、このスケベ野郎と言いたそうな目で、弓彦を睨んだ。その視線に気付いた弓彦は、慌てて訂正した。
「入れてませんよ」
「俺は持ってきたよー」
と、笑いながら雍也がこう言った。この直後、女性陣は雍也を睨みつけた。
しばらくし、アルスたちを乗せたバスは目的地へ向かい、発進した。
「おお! 動いた、動いたぞ!」
初めてバスに乗るアルスは、テンションが上がっていた。
「なぁ、このバスという道具は本当にすごいな」
「あ……ああ。うん。そう思う」
急に話しかけられた三毛は、驚き、返事に困った。アルスの横にいる弓彦が、酔うかもしれないから前を見ろと言った。
数時間後、バスは目的地に無事到着した。
「うーん……やっと着いたか」
「楽しい時間だった……」
バスから降りた弓彦は背伸びをし、アルスはいまだにバスに乗った感動に酔っていた。その後、バスにあるでかい荷物を持ち出し、それぞれのロッジへ向かうことになる。弓彦は自分の荷物を手に取り、アルスと三毛と共に自分が泊まるロッジへ行こうとした。
「くっ……やっぱり重いなこれ……」
「本当に衣類だけ入れたのか?」
「本当だよ。そんなに疑うなら、開けて見せてやるよ」
弓彦は荷物を下ろし、チャックを開けた。そこにいたのは。
「暗いよ怖いよ狭いよ暗いよ怖いよ狭いよ暗いよ怖いよ狭いよ」
恐怖で体が震えている世界だった。弓彦は悲鳴を上げ、尻もちをついた。悲鳴を聞き、顧問の先生が駆け寄った。
「どうした弓彦? 女みたいな悲鳴上げて」
「な……中に……バックの中に……」
「バックの中に何かいたか?」
「中に何もいませんよ」
そう言いながら、顔色が悪い世界が立ち上がった。
「嘘言うな世界。ったく、しゃーねーなー」
その後、弓彦のバックの中にいた世界も、合流することになってしまった。
「お前、どんな手を尽くしても弓彦の跡をついていくつもりか?」
呆れたアルスは、世界にこう言った。
その後、ロッジに着いたアルスたちは、少し休憩した後、特訓を行った。アルスが特訓を行っている間、後ろでは生徒会と弓彦が特訓を見守っていた。ちなみに、世界は疲れてロッジで寝てます。
「うーん、今の所何も問題は起こしてないわね」
御代はつまんなそうにこう呟いた。この言葉を聞いた弓彦は心の中で、あんた何言ってんだと叫んだ。もし言葉にしたら、日枝に攻撃される光景が目に見えているため、言葉にできないのだ。
「私が何かしましょうか?」
と、日枝が花火やら爆竹やらを手にし、こう言った。それを見た弓彦は慌てながら花火を回収した。
「あんた何考えてるんですか?」
「会長がお暇なのよ。何かを起こすのが、私の役目」
「だからって火を付けるのはよくないでしょーが!」
「会長のためなら、火を付けるぐらいお安い御用です!」
「あんた一回会長から離れて生活しろ!」
その時、雍也の悲鳴が聞こえた。弓彦はアルスに近付き、何があったのかを聞いた。
「雍也先輩が何かしたか?」
「稽古の邪魔をした。ナンパとやらをしに声をかけたのだが、失敗して皆から叩かれてる」
弓彦の視線には、セクハラ野郎と罵倒されながら竹刀で攻撃されている雍也の姿があった。
「はぁ、あの女好きが……」
呆れた日枝はそう言って、どこかに行った。数分後、日枝は大きなかかしを持ってきた。倒れている雍也を担ぎ、そのかかしに括り付けた。
「みなさーん。今とっておきのサンドバックを作ったので、竹刀で叩くなり焼くなり斬るなり崖に捨てたりなどしてくださーい」
その後、女生徒達は一斉にかかしに括り付けられた雍也に近付き、竹刀で叩き始めた。
数時間後、特訓を終えて休憩中のアルスは、しおりで今後の予定を調べていた。
「次はハイキングか。山の中を歩くだけか、楽だな」
「何も起きないといいんだけどな……」
弓彦は心配そうに、こう言った。その言葉を聞いたアルスは、笑い始めた。
「大丈夫だ。私がいる」
「だけどお前、魔法が使えないんだろ」
「魔法が使えなくても、私は体が強い」
「そうだったな……いざとなったら頼む」
数分後、ハイキングが始まった。アルスは弓彦と三毛のトリオで組まれている。
「よし、じゃあ行くぞ皆!」
「ノリノリだな」
「何かあったらすぐに御代生徒会長に伝えるから」
そんなこんなで、アルス達のハイキングは始まった。アルスは周りを見ながら、歩いている。弓彦はアルスが何かしないか、ハラハラしながら歩いていた。
「アルス、はしゃぐのもいいけど監視されてるってこと忘れるなよ」
「大丈夫だ。何もしない。何だこの花は? 見たことがないぞ」
アルスは地面に咲いている花や植物を見て、感激していた。その他にも、聞きなれていない鳥の鳴き声を聞いたりして、テンションが上がりまくっていた。
「知らない物を見るのは楽しいな、わくわくするぞ」
アルスは興奮しだし、次第に走るスピードが増していった。
「あ、ちょっと待てオイ!」
「待て!走るな!」
走り出したアルスを追うため、弓彦と三毛は走り出したが、アルスの足が速くて追いつけなかった。
「はぁ……はぁ……アルスの奴、テンションが上がると暴走すんのかよ……」
「何だ、一緒にいるのに知らなかったのか?」
三毛が驚き、こう言った。弓彦はああと返事をし、言葉を続けた。
「一緒にいる……というか住んでるけど、まだアルスが召喚されて1ヶ月も経ってないな」
「1ヶ月も……」
「だけど、悪い奴じゃないよ。それだけは言える」
弓彦はこう言った。しばらくすると、アルスが慌てて戻ってきた。
「すまんすまん。テンションが上がりすぎて先に行ってしまった」
「いいよ、戻ってきてくれただけでありがたい」
弓彦と三毛はアルスと合流し、先に進んだ。
しばらく歩く中、三毛はずっとアルスの方を見ていた。先ほどの弓彦との会話で、少々だがアルスのことを理解した。
本当にそうだろうか?
心の中で、三毛はアルスのことについて疑問に思っていた。その時、急に足場がなくなったのだ。バランスを崩した三毛は、悲鳴を上げる前に、落ちてしまった。
「ん? 何だ今の音?」
石が落ちた音に気付いた弓彦は、後ろを振り向いた。そして、急いでアルスの名を叫んだ。
「アルス! 急いできてくれ!」
「どうした弓彦?」
「三毛が落ちたみたいなんだ!」
「何だと⁉」
アルスは急いで弓彦の元に向かい、三毛が落下したと思われる場所を見た。そこは木々で茂っており、奥まで見えなかった。
「嘘だろ……監視に夢中で足元を見てなかったんだ……」
「慌てるな弓彦。お前は先に戻って、御代生徒会長に伝えろ」
「お前はどうするんだ?」
「三毛を探してくる」
「分かった。無茶するなよ」
「大丈夫だ。すぐに戻ってくる」
アルスはそう言うと、滑り降りて行った。弓彦は急いで御代の所に向かった。
その頃、御代はスマホを使い、三毛と連絡を取ろうとしていた。だが、何度かけても三毛にはつながらなかった。
「うーん……珍しいわね、三毛が電話に出ないなんて」
「監視に夢中になっていると思います。私は会長に夢中ですけど」
「そんなことはどうでもいいわ。三毛に何かあったのかしら?」
御代は立ち上がり、考え始めた。そんな中、かかしに縛り付けられた状態の雍也がこう言った。
「すいません……治療してください……解放してください……」
「あんたはしばらくそのままね、今までの態度を反省しなさい」
御代はこう言って、雍也から離れて行った。
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