勇者は遭難してしまった‼
アルスと弓彦が巨大な波にさらわれた直後、御代は海岸警備隊を呼び、二人の捜索をするように命じた。だが、いくら時間がたっても二人は見つからなかった。
「あぁ……楽しいバカンスがこんなことになるなんて……」
御代は項垂れてこう言っていた。だが、日枝が御代の肩を叩いてこう言った。
「大丈夫ですよ。アルスは魔法を使えますし、いざとなったらどうにかなります」
その言葉の後、ムーンが冷や汗を流してこう言った。
「いや、今お姉さまはあの変態魔王のせいで魔力を封じ込められています。なので、空を飛べませんし、魔力を察知して探しにも行けません……」
ムーンの言葉を聞いた後、日枝は取り乱し始めた。
「あぎゃああああああああああああああ‼どうしたらいいの?こう言う時って警察を呼べばいいんだっけ?あ、でも日本の警察はあまり役に立たないからFBIかその辺を呼んだ方がましじゃね?いや、それでも無理か?どうしたらいいんだ?アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」
「取り乱しすぎよ‼あと、どさくさに紛れて日本の警察をいじらないこと!」
髪を振り回しながら暴れている日枝を抑えながら、御代はこう叫んだ。
その頃、無人島に漂着したアルスと弓彦は、その辺を捜索していた。
「水とかあればいいんだけど……」
「そうだな。水と食料、あと寝る場所の確保だな」
アルスは不安そうな弓彦の顔を見て、笑顔でこう言った。
「大丈夫だ、心配するな。こう見えて私は何度も野宿を経験している。食べられる物の区別や飲み水の判断位できる」
「うーん……」
「それに、魔力は封印されているが、この位3日で治る。あの魔王、封じる時に多少力を入れてなかったようだ」
「3日か……それまで生き残れるかな?」
「大丈夫だ。それに、飲まず食わずでも3日は多分生きれるだろう」
そう言いながら、アルスは島の森の中へ向かって行った。
森の中へ入ると、聞いたことのない動物の鳴き声が辺りに響いていた。
「うわ……俺達、この島の動物に食われるんじゃねーの?」
「襲ってきたら返り討ちにしてやる」
と、アルスが言った直後、アルスの3倍くらいありそうな巨大な猪が襲ってきた。
「アルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
猪の突進を喰らい、アルスはぶっ飛んでしまったが、怪我はなかった。
「おお‼これはでかくて丸々太ったうまそうな猪ではないか‼」
「え、あれ食うつもり?」
「もちろんだ‼料理の仕方は分かるから心配するな‼」
数秒後、アルスは馬鹿力を駆使して猪をやっつけた。
「さて、早速だが飯にしよう。軽く暴れて腹が減った」
アルスはそう言うと、手刀で猪の解剖を始めた。その光景を見て、弓彦は驚いた。
「手でやれるもんなのか?」
「猛スピードで手刀を使えば、包丁以上の切れ味の攻撃ができる。それを応用して解剖する」
しばらくし、アルスの手によって猪は解剖された。
「火を起こすから木と石を持ってきてくれないか?」
アルスにこう言われ、弓彦は木と石を探し始めた。どこかにいい物がないかと思いつつ、探していると、目の前に丁度火をおこすのにいい大きさの木と石を見つけた。
「あったぞー」
と、弓彦がそれに手をかけた瞬間、上から巨大な怪鳥が現れた。
「ぎゃあああああああああああああああああ‼」
「どうした弓彦‼」
アルスは弓彦の悲鳴がした方を振り返り、彼を襲っている怪鳥を目にした。
「おのれ怪鳥め‼これでも喰らえ‼」
アルスは近くにあった岩を見つけ、怪鳥の頭に向かってぶん投げた。岩は見事に怪鳥の頭に命中した。
「た……助かった……食われるかと思った」
「大丈夫か?」
弓彦はアルスの手を借り、何とか立ち上がった。その後、アルスは何とか火をおこし、解剖した猪の肉とさっき倒した怪鳥を焼き始めた。
「さて、いただくとするか」
アルスは丸焼きにした猪の肉を食べ始めた。
「これ……食えるのか?」
「ああ。意外といけるぞ」
アルスは肉を食べながら弓彦にこう言った。弓彦は美味そうに肉を食べるアルスを見て、勇気をもって肉を食べた。
「……意外とうまい」
「だろ」
その後、二人は食事を終えると、飲み水の確保の為に探索を始めた。この時、二人は何度も猪や怪鳥、挙句の果てには凶暴な牛やオークみたいな豚に襲われた。
「おいここ……日本だよな、何で変な動物がこんな島にいるんだよ」
「この作者が無人島で生活したことないからな」
「誰だって無人島で生活したことないだろ……」
そんなことを話していると、アルスは弓彦に静かにするように伝えた。
「どうかしたか?」
「川の流れる音が聞こえる」
「マジか」
「こっちだ」
弓彦はアルスに連れられ、川の流れる場所へ向かって行った。数分後、二人の目の前に大きな川が現れた。
「透き通っていて綺麗な水だな。多少何かは入っていると思うが、簡易的なろ過装置を作ればすぐに飲み水になるだろう」
「あー、小学生の時に聞いたことがある、砂利とかそんなのを使って飲み水にする装置。だけど、この辺の奴で何か作れるか?」
周りを見渡すと、そこは川と砂利があるだけで、他には何もないのだ。
「うーん……魔法があればなんとかできるのだがな……」
「あると言えばさっき食べた猪と怪鳥の骨だけ……」
その時、二人はある事を思いついた。さっき食べた猪と怪鳥の骨を使って、ろ過装置を作ればいいと。
「よし、早速行動に移そう」
それから二人は頑張ってろ過装置を作り始めた。数時間後、悪戦苦闘しながら二人はろ過装置を完成させた。
「では……水を入れてみよう」
アルスはろ過装置に川の水を入れ、下にある骨で作ったコップに水が落ちてくるのを待った。しばらくし、小さな水滴がコップの中に落ちた。
「おお……綺麗な水が流れてきた」
「本当だ……苦労して作った甲斐があった」
その後、コップに溜まった水を二人は飲んだ。
「……うまい」
「いやー、これなら大丈夫だな」
「ああ‼」
会話を終えると、二人は辺りを見回した。日はもう暮れていたのだ。ろ過装置を作る事に熱中していて、二人はもう夜になっていることに気付いていなかった。
「……今日はここで寝るか」
「そうだな」
その後、二人は何とか寝れそうな場所を見つけ、そこにろ過装置を置いて眠りに付こうとした。だが、弓彦はある事に気付いた。
「なぁ、俺達が寝てる間に猛獣がやって来て、気付いたら胃袋の中ってことはならないよな」
「大丈夫だろ。猛獣避けとして、そこに猪の頭と怪鳥の頭をさらしてある。奴らもそれを見れば私の強さを察して襲ってこないだろう」
「お前はいいけどさ、俺は……」
「だったらこうしよう」
アルスはこう言うと、弓彦に抱き着いた。今は水着のまま、アルスの体の感触が直に弓彦の腕に伝わってくる。
「ちょ、おま‼」
「こうしていれば襲われないだろう。さっきを感じたら、すぐにお前を抱いたまま逃げれるし……」
「そうだけどさ……」
「ごちゃごちゃ言うな。安心して寝ろ。それじゃあお休み~」
そう言って、アルスは寝息を立てて眠ってしまった。弓彦は不安の中、一人眠れぬ夜を過ごした。




