ランチタイムという名の戦争
ある朝の事だった。弓彦とアルスがリビングに降りてくると、慌てる母の姿が目に入った。
「おはよう母さん。どしたの?」
「弓彦、アルスちゃん、ごめん‼今起きた所だから、昼ご飯作れないかも‼」
「そうか。なら前に教えてくれた購買というところで買う」
「購買か……」
浮かない顔をする弓彦を見て、アルスは疑問に思った。
「何だ、購買で売ってるパンなんて嫌なのか?」
「嫌じゃないよ。ただ、昼にあそこ行くと大変だからな……」
アルスはそうかと言い、朝食を食べ始めた。
昼。弓彦はアルスを連れて購買部の所に来た。もうすでに人混みが出来ていた。
「うーわ!何だこりゃ!?」
「皆パンとか買いに来た人たちだよ。こうなるからあまりここに近寄りたくないんだ……」
弓彦がこう言った直後、購買部の扉が開いた。
「野郎ども‼飯の時間だ‼」
購買部の声と共に、生徒たちは一斉に購買部へ向かって走って行った。
「どけオラァ‼」
「俺が先に並んでたんだよ‼」
「誰だ俺のケツ触ったの‼」
「今のエルボー……効いたぜ」
「コロッケパンください‼え?そんなの売ってない?」
「サンドイッチください‼卵の奴、卵のね‼」
「俺はもう飯を買ったんだ‼ここから帰らせてくれ‼あ、触んな、俺の買った物に触んな……あ……あ……俺の傍に近寄るなァァァァァァァ‼」
「おい、どっかのマフィアのボスがいるぞ」
「誰でもいいから吸血鬼の息子呼んで来い」
「そんなんいるわけねーだろ」
と、怒号と叫びが入り混じったカオスな状況になってしまった。
「こんな中で買えるわけがないな……」
「どうする?」
「どうするも何も、何が何でも買うぞ。私は腹が減ったんだ」
「だけど、こんな人だかりじゃあ……」
「だったら人を吹き飛ばせばよい‼いでよ、セイントシャイン‼」
アルスは剣を取り出し、振り下ろして衝撃波を放った。それにより、前にいた生徒たちは吹き飛んでしまった。
「ちょっとおい‼これはやりすぎだって‼」
「大丈夫だ‼死なない程度に加減して衝撃波を放ったわ‼」
「そういう問題じゃない‼」
「とにかく、今の私は腹が減って気が立ってるんだ‼どんな方法でもいい、パンを食えばいいだけの話だ‼」
と、アルスは腹の音を鳴らしながら怒鳴った。アルスが購買部へ向かう中、倒れている生徒がアルスの足を掴んだ。
「ぐ……渡すかよ……俺の大好物、照り焼きチキンが入ったパンは渡すもんかよ‼」
「何だ、照り焼きチキンのパンが欲しいのか。持ってきてやる」
「……え?あれ人気高いのに……興味ないの?」
「今は魚が食いたい気分だ。白身魚のフライが入ったサンドイッチがあればいいんだが」
「あー。あれ人気ないから余ってると思うよ」
「そうか。あるならいいや」
「じゃーね。俺また気絶するから」
「うむ」
と言って、その生徒は気絶した。しばらくし、大量にパンを抱えた笑顔のアルスが戻って来た。
「いやー。大量大量」
「大量大量じゃありませんよ、アルスさん」
この様子を見ていた先生が、怒りマークを額に出し、こう言った。
数分後、弓彦は購買部で余ったパンを食べながらアルスが戻ってくるのを待った。
「全く……滅茶苦茶なことをしやがって……」
「あら弓彦君。あのお邪魔虫はいないの?」
笑顔の世界が弓彦に近付いた。
「何の用だ?」
「今朝、お義母さんが寝坊して昼食を作れないって聞いて、お昼ご飯を持ってきたの」
「おい、リビングにも盗聴器を仕掛けてあるのかよ」
「どこにもあるわよ」
「この犯罪者‼」
弓彦のツッコミを流し、世界は机と同じぐらい広い弁当箱を持ってきた。
「さぁ、私の愛情がたっぷり詰まったお弁当よ」
「この前は変な物を入れたって言ってたよな。今回も入れてないよな?」
「サ……サァ?ナンノコトダカー?」
「返す‼俺はもうパンがあるからいい‼」
弁当を世界に返し、弓彦は世界から逃げだした。
「どこなの?弓彦くーん‼」
廊下の隅に隠れ、世界が去るのを待ち、弓彦は廊下から離れた。
「やっと行ったか……」
「おう弓彦」
後ろから先生の説教から解放されたアルスがやって来た。
「アルス、やっと説教が終わったのか?」
「ああ。ようやくパンが食べられる」
と、アルスは片手に持っていたパンの袋を破き、食べ始めた。
「教室で食えよ」
「もう腹が限界なんだ」
「いいから、教室に戻るぞ」
その後、二人は教室に戻って行った。
放課後、部活を終えた弓彦とアルスは帰ろうとした。その時、一人の男子生徒がアルスの前に現れた。
「すみません、あなたが昼休みに購買部で暴れたアルスさんですか?」
「何だお前は?」
「俺は1年の早飯食田です。実はあなたにお願いがあるんです」
「願い?人の願いを聞くのが勇者の務めだ‼どうかしたのか?」
「実は俺達、手段を問わずに購買部のパンを買うぞ同好会に力を貸してほしいんです」
「何だその同好会?」
「名前から察すると、手段を選ばずに購買のパンが欲しいのか」
「はい‼一体どうすればあなたのようにパンを買えるのか、教えてほしいんです‼」
「答えは一つ、修行あるのみ‼」
この言葉を聞き、弓彦と食田は目が点となった。
「……どういうこと?」
「体を鍛え、無理やり買えということだ‼明日の早朝、残りの同好会とやらのメンバーを連れて体育館前に来い‼貴様らの体と根性を鍛えてやる‼」
「え?は……はぁ……分かりました」
「よし!明日から気合入れておけよ‼」
会話後、アルスは弓彦の手をつなぎ、走り出した。
「あ?あああ‼ちょっと‼」
「急げ弓彦‼今日は早く寝るぞ‼」
その光景を、電柱の陰から世界が見ていた。
「今日は早く寝る?寝るってあれ?一緒のベッドで寝るってこと?ベッドインした後あそこにイン?そんな事させっかァァァァァァァ‼」
世界は雄たけびと共に、弓彦とアルスに後を追って走り出した。その後、世界はアルスに襲い掛かろうとしたが、返り討ちに合った。
翌朝。アルスは約束通り、体育館前に立っていた。食田達も集まっていて、その横には心配で来ていた弓彦もいた。
「では始めるぞ‼見たどころ、貴様らは全体的に体力不足と見た‼」
「確かに……俺達はみんな部活は運動部じゃないです」
「なら‼相手のタックルに耐えれるような体、そんでもって素早く走れる足腰が必要だ‼」
「はぁ……」
「下半身の筋肉は重要だ‼歩く走る、動くには足が必要だからだ。まずは足腰を鍛える‼グラウンドを走れッ‼」
「はぁ……」
「はぁじゃない‼走れ‼強くなりたくば走れ‼ひたすら走れ‼」
その後、アルスは食田達手段を問わずに購買部のパンを買うぞ同好会を走らせ始めた。それから、アルスのトレーニングは何日も続いた。その結果、手段を問わずに購買部のパンを買うぞ同好会の連中の足腰には、漫画で描いたようなもりもりの筋肉が付いた。同好会(長文になるんで訳します)はここまで鍛えてくれたアルスに礼を言った。
「アルスさんのおかげで、こんなにたくましくなりました」
「これで、楽にパンを変える事が出来そうです」
「ありがとうございます、アルスさん……いや、勇者アルス‼」
アルスは食田達を見回し、こう言った。
「うむ!今のお前達なら必ずやり遂げる‼今日、お前たちの活躍を見に行くからな‼弓彦と一緒に‼」
「どさくさに紛れて俺を巻き込むな」
「分かりました‼俺たちの活躍、見ていてください‼」
「うむ‼」
会話後、同好会は去って行った。その姿を見て、アルスは腕組をし、誇らしげな顔をしていた。
昼休み。購買部の周りには人だかりができていた。だが、その日は雰囲気が違っていた。他の生徒は、筋肉モリモリになった同好会の姿を見て、引いていたのだ。
「何だあれ?」
「ほら、あれだよ。どんな手段を使ってもパンを買おうとするずるい奴ら」
「何あれ?キモいんですけど」
「あいつら……○○と○の部屋ですんげぇ修行を」
「するわけねーだろ。というかそんなもんこの世界に存在してたまるか」
「つーか下半身の筋肉に比べ、上半身はあまり変わってねーぞ」
と、生徒達の会話の声が聞こえた。そんな中、購買部の販売時間となった。
「今パンの販売を始め」
「おらあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
食田達、同好会のメンバーは物凄いスピードで購買部に向かって走り出した。
「これならすぐにパンを買える!」
「すごいよ、この筋肉すごいよぉ‼」
快調に走る同好会のメンバーだったが、途中、何者かが彼らの邪魔をした。
「な……何ィ‼」
「え……栄夫ォーーーッ‼」
同好会のメンバーの一人、栄夫がタックルを受けて吹き飛んでしまった。
「おい、卑怯な手段を使っても購買部のパンを買うぞ同好会‼俺の目の黒いうちは、テメー等の好きにはさせないぜ‼」
「お前は生徒会メンバーの一人、誰田世一‼」
「名前違うぞ、俺らはどんな手段を使っても購買部のパンを買うぞ同好会だ‼」
「似たようなもんだろうが‼貴様たちのせいで他の生徒達から苦情が来ているんだ‼」
「そんなこと知った事か‼」
「他の生徒だって、自分の欲望の為に悪質なタックルなどを使って、他の生徒をぶっ飛ばしてるではないか‼」
「だが、貴様らの方がやってる酷さは上だ‼」
同好会と誰田のにらみ合いが続いた。それを見ていた弓彦は、呆れながらこう言った。
「これ……一体どういう小説なんだよ……」
「いや、今回の私達は傍観者ということで進めよう」
「アルス、こう言うメタ発言は止めた方がいい。そんな事よりも、あいつらを止めないと大変なことになる」
「ふーむ……私は同好会が成長したところを見ていきたかったんだが……」
アルスのこの言葉の直後だった。同好会と誰田の戦いが始まってしまった。
「パンは俺のだ‼」
「貴様らのような輩にパンはやらん‼」
同好会の足技が誰田に襲い掛かった。
「生徒会が暴力で屈するわけにはいかないんだ‼」
誰田は飛んできた同好会の足を掴み、地面に落とした。
「……今だ行け‼俺が足を止めている間にパンを買うんだ‼」
「分かった‼お前の分のクリームパンは買ってくるからな‼」
残った同好会のメンバーは、更にスピードを上げて走って行った。
「しまった‼生徒会が負ける‼」
誰田が追いかけようとしたが、滑って転倒してしまった。
「生徒会が倒れたぞ‼」
「今がチャンスだ‼」
同好会のメンバーが、一気に加速して購買部へ向かい、パンを買った。この戦いを見ていた生徒たちが我に戻り、こう叫んだ。
「俺達もパンを買いに行くぞ‼」
暴動と化した生徒たちが、一斉に購買部へ向かった。誰田は起き上がり、生徒達を止めようとした。
「来るな‼君達、一旦落ち着け‼」
だが、誰田の静止も無駄に終わった。暴動と化した生徒達に踏まれてしまった。暴動を見て、アルスはこう言った。
「欲というのは恐ろしいな」
「この騒動、お前も原因の一つだと俺は思う」
「……かもしれないな」
と、会話して、先生にばれないように去って行った。
放課後、生徒会室にて。誰田が昼の騒動を話していた。
「以上が……今日起きた購買部での騒動です……」
「分かりました。誰田、ミイラ男になってまで報告をしてくれてありがとう。保健室に戻って休みなさい」
「はい」
誰田は返事をし、生徒会室から出て行った。扉が閉まった後、メガネをかけた女生徒が声を出した。
「しかし、新たに生徒会が新設されてから、騒動が絶えませんね」
その横にいた男子生徒が、欠伸をしてこう言った。
「ま、そのほとんどが一年の桂世界の仕業なんですけどね。可愛いから見逃してるけど」
「ちょっと、それ初めて聞いたんだけど。だからあの人が起こす事件が減らないわけだ‼」
「あ、やっべ‼」
男子生徒は慌てて逃げようとしたが、メガネの女生徒がその後を追い始めた。
「待ちなさい‼その話を詳しく話さないと、生徒会をクビにするわよ‼」
「ひーッ‼それだけは勘弁をー‼」
「落ち着きなさい、二人とも」
椅子に座り、話を聞いていた女生徒が声を出した。
「生徒会長……」
「二人とも、ある噂を耳にしたことがありますか?」
「噂?」
「少し……いや、かなり変わった転校生が入って来たことを」
「いいや。変わった奴と言えば桂川世界しかいないと思ってましたが……」
「女の子ですか?」
「女の子だ。どうやら、異世界からこの世界にやって来たって言ってるわ」
「何すかそれ?いつもの異世界物の物語と逆パターンじゃないですか。というか、本当なんですか?」
「本当らしい。目撃者によると、異常な身体能力、何もない空間から剣らしきものを出したとか」
「うわー、一度目にかかりたいなー」
「私もです。一度見てみたいです。勇者とやらに……」
生徒会長、斑御代は笑顔でこう言った。