賢者の試練~面接編~
ムーンは今、学校にいる。面接試験を受けるために来たのだ。昨日行ったテストはあまりにも楽すぎたため、少し気が抜けている。だが、家を出る前にアルスがこう一言言っていたのだ。
「テストが良くても、面接で落ちたら元も子もないぞ。お前は言われたことを礼儀正しく答えればいいのだ」
そう。面接の為に対策を教えてもらっていたのだ。他にも、弓彦から面接の会場へ入る前の挨拶の仕方や頭を下げる角度、試験を終える時の作法を教えてもらっている。
面接は質問を受け答えするテストではない。身なりもそうだし、態度も行動も評価される。へましたら落ちる可能性もあるため、ムーンは少し緊張していた。
(う~……早く面接の時間になって~)
心の中でこう思っていると、隣の女生徒がかなり緊張しているのか、体が震えていたのだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「ふぇっ!?はひっ、らいじょうぶでしゅ……ああ、噛んじゃったよ~」
自分以上に緊張しているその女生徒を見て、ムーンはほっとけなかった。
「尊敬する先輩から教わったことを教えます。体の力を抜いてリラックス。それが緊張をほぐす一番の行動です」
「そ……そうですよね。リラックスリラックス……」
女生徒は大きく深呼吸をし、気を落ち着かせていた。その時、教室の扉が開き、中にいた担当の先生が声を出した。
「では面接の試験を開始します。番号札で呼びますので、呼ばれたら来てください。最初は072、123、301、501。呼ばれた人から順に教室へ入ってください」
ムーンは番号札を見ると、そこには072と書かれていた。そして、かなり緊張していた女生徒も立ち上がり、ぎこちない動きで挨拶をして教室へ入って行った。
「今頃ムーンはしっかりやってるだろうか……」
アルスが弓彦の部屋で漫画を読みながらこう言った。
「あいつの事だし、心配ないんじゃね?まぁ魔法を使わない限り」
弓彦は机の上でテスト対策のための勉強をしながら返事した。
「お前、漫画なんて見てて大丈夫なのかよ?期末テストがあるんだぞ」
「大丈夫だ。私はノートをしっかりとっている。それに、範囲の所だけを再確認すればそれで問題ない」
「はぁ、ムーンも相当頭いいけど、お前も結構頭いいんだよな。いいなー、そういうの」
「努力すれば誰だって簡単にできる」
「努力ねぇ……」
弓彦がこう呟くと、窓から世界が姿を現した。
「弓彦くーん。スケベなことして遊びましょー」
「一人でやってろ」
アルスは窓を開け、世界を蹴り落としてこう言った。その直後、落とされたにもかかわらず世界は壁をよじ登って来た。
「何であんたが弓彦君の部屋にいるのよ!?」
「暇だから漫画を読んでた。悪いか?」
「悪いわよ!その漫画がエロ漫画だったら、なんか変な気持ちがわいてきて、そしてそのままエロ漫画のエロいシーンを再現……いやああああああああああああああああ‼そんな事耐えられない!」
「大声で変なことを言うな‼それにお前、勉強しなくていいのかよ?」
弓彦は世界にこう怒鳴ると、世界は少しもじもじしながらこう返事した。
「私は……そんな事より、弓彦君といる方がずっと大事なの」
「勉強の方が大事だろ。お前ただでさえ成績が下の方で、学校で奇行ばっかしてるから問題児扱いされてるぞ」
「ゲッ!?問題児!?」
「当たり前だろ。自分で察知しないのか?とにかく、進級したかったら勉強して来い」
「はい!弓彦君と進級するため、私がんばります‼」
と、世界はこう言って自分の部屋へ飛び移った。世界の奇行を見て、アルスはこう呟いた。
「あいつならサーカスかどこかで人気出るんじゃないか?」
その頃、ムーンは面接を受けていた。ムーンの隣の椅子には、あのめっちゃ緊張していた女生徒が座っていた。
「では、これから面接を始めます」
数人の先生が、ムーン達の履歴書を見て、質問を始めていた。しばらく待っていると、ムーンに質問が回ってきた。
「ムーン・ローレリアさん。噂だと、あなたはこの国というか、この世界の人じゃないですよね」
「はい。私はペルセラゴンという異世界からこの世界へ参りました」
「その理由は?」
「私の先輩である勇者、アルス・ロトリーヌさんに会いに来たからです」
「勇者に会いにですか……ほうほう。でもどうして離れ離れになってしまったんですか?」
「アルスさんは単身で魔王に戦いを挑み、転移魔法でこちらの世界へ飛ばされてしまいました。それを知った私は、後を追ってこの世界へ来たのです」
「仲間想いのいい子ですねぇ」
と、先生は冷静にムーンに質問をしているが、他の生徒達は心の中で(ツッコミどころ多すぎだろ‼)と思っていた。
「ムーンさん。あなたは異世界で何をしていましたか?」
「賢者を務めております」
「賢者ですか。何か魔法とか使えるんですか?うちの生徒のアルスさんも、よく魔法を使っています」
「簡単なものでいいので、何か見せてもらえませんか?」
「では火を出してみます。ちょっと失礼します」
ムーンはそう言うと立ち上がり、右の人差し指の上に、小さな火を出した。
「おお。すごい」
「ガス代の節約になりますね」
「素晴らしい」
と、先生達は感動した声を上げていたが、生徒達は驚き、教室の隅へ移動していた。
「すみません。驚かせてしまって」
ムーンは部屋の隅へ移動した生徒達に向かい、頭を下げてこう言った。
数分後、面接は終了した。
「ふぅ、合格できるといいんですが」
「あわわわわわ……大丈夫かな……合格できるかな」
校門のところで、あの女生徒が緊張で体を震わせながらこう言っていた。
「あなたですか。もう面接は終わったじゃありませんか」
「だけど……合格できたかどうか不安です~」
この言葉を聞き、ムーンはその女生徒の肩を叩き、こう言った。
「あなたの受け答えを見てましたが、ちゃんとできてたじゃありませんか。ところどころ噛んでたけど、あなたの返事はちゃんと面接官の人達に伝わったと思いますよ」
「そ……そうかなぁ」
「大丈夫です。自信持ってください。では」
ムーンはそう言うと、アルスが待つ自宅へ戻って行った。
数日後、ムーンはアルスと弓彦と共に校門の前に立っていた。なぜなら今日は、合格発表の日だからだ。
「えーっと……えーっと……確かムーンは072だったな」
「072、072……」
弓彦が数字を探していると、声を上げた。
「おい、あったぞ!しかも優秀合格者って書いてある!」
「本当か!?」
アルスは急いで弓彦の元へ近づき、弓彦が指を指す方向を見た。
「おお‼合格してるぞムーン‼」
アルスはこう言いながら、ムーンに抱き着いた。アルスに抱き着かれたことを感激し、ムーンは涙を流し始めた。
「お姉さま~。苦しいけど嬉しいです~」
「あ‼あの……」
そこへ、誰かが声をかけてきた。それはムーンが出会ったあの女生徒だった。
「合格おめでとうございます」
「ありがとうございます!で、あなたは……どうでしたか?」
「あの……その……合格しました‼」
この返事を聞き、ムーンは笑顔になった。
「あなたの言ったとおりです。本当に良かった」
「えへへ。おめでとう‼もし、同じクラスになったらお願いします‼」
二人の会話を聞いて、アルスと弓彦はこんな会話をしていた。
「あらら。もう友達が出来てら」
「はは。いいじゃないか。ああして友が出来るのが一番だ」
「そうだな」
笑顔で話を始める二人を見て、アルスと弓彦も自然に笑顔になっていた。
「ムーン、始業式が楽しみだな」
アルスがこう言うと、ムーンは笑顔で返事をした。
「はい!早く始業式になってほしいです‼」




