法を守るか、それとも人を守るか
風紀委員の教室で、一波乱が起きそうな空気となった。許可を得ず、バイトをしている怖顔は重々しく、口を開けた。
「だから何だ?そんなもんを取ってる余裕、今はないんだよ」
「……規則を破るとどうなるか、知っていますね」
「知ってるさ。だけど、今そんなことをしている余裕はない。俺は今、金が欲しいんだよ」
怖顔の言葉を聞き、岳人は一呼吸おいてこう聞いた。
「どうして金が欲しいんですか?」
「……今、俺の親父が仕事で大怪我をして、入院してるんだよ。だから今、母ちゃんも俺も仕事をして稼がなくちゃなんねー。親父の入院費もそうだが、俺には3人の弟や妹がいる。そいつらを養うためにも、バイトをしなくちゃならねー」
何だ。家族思いのいい奴じゃないか。
弓彦はそう思った。だが、岳人はこの話を聞き、少し考え始めた。
「ですが……バイトをするのは許可が……でも……あなたの家族が今大変なことに……」
「そうだよ!確かに規則は破ってるかもしれねー。だけど……許可を得るには時間がかかる!そんなことをしてたら俺の家族が大変な目に合うんだ!」
岳人は焦りだした。確かに規則を守るのが一番だ。しかし、怖顔の家族は大変なことになっており、怖顔もその母親も働かなければ生活できない状況になっている。しかし、規則を守らなければ、風紀委員として顔が立たない。
岳人は規律を破ってはいけないという考えで、生きてきた。破った奴はどうであろうと、罰すると心の中で誓った。だが、バイトをして給料をもらえなければ怖顔やその家族はは生きていけない。
どうする?どうすればいい?
岳人は心の中で自問自答を続けた。だが、その答えは一向に出てこなかった。
「怖顔。もういいぞ」
アルスが怖顔にこう言った。
「どういうことだ?」
「バイトに行って来い。それと、お前の親父さんが入院している病院を教えてくれ。魔法で治してやる」
「は……はぁ」
その後、怖顔は父親が入院している病院と病室を書いたメモをアルスに渡し、教室から去って行った。この直後、若葉がアルスにこう言った。
「ちょっとアルスさん‼どうして見過ごすんですか?彼は規則を破ったのに……」
「私が守りたいのは規則や法ではなく、人です。規則や法が人を苦しめるのなら、私はそれを無視して人を守ります」
アルスはそう言うと、風紀委員の腕章を机の上に置いた。それを見て、弓彦も腕章をアルスと同じように机の上に置いた。
「短い間でしたがお世話になりました。今日から普通の生徒に戻ります。行くぞ、弓彦」
「おう」
会話を終え、アルスと弓彦は去って行った。
「法や規律が全てじゃないのか……」
茫然とする岳人を見て、平塚は彼に近付いた。
「岳人、今のはアルスちゃんが正しいよ」
「兄さんもそう思うのか?」
「ああ。もしアルスちゃんがいなかったら、俺が怖顔を助けてたなー。まぁ流石に魔法は使えないけど」
平塚は欠伸をした後、教室から出て行こうとした。
「兄さん?もう帰るの?」
「シ○ィーハ○ターの再放送があるんでな。そうだ。お前も帰って見るか?たまには息抜きも必要だぜ?」
この言葉を聞いた後、岳人は立ち上がった。
「若葉さん。今日は解散とします。僕、今日は帰りますので」
「……分かりました」
その後、二人は帰り支度をし、帰って行った。
翌日。怖顔が泣きながらアルスに頭を下げていた。
「申し訳ねぇ‼あなたのおかげで家族が救われました‼」
あの後、アルスは魔法で怖顔の父親の怪我を直したのだ。その結果、無事に父親は退院できた。
「何、勇者として当然のことを行ったまでだ」
「このご恩、一生忘れません‼」
「うむ」
話を終え、怖顔は何度も頭を下げながら去って行った。
「いやー。アルスちゃんは本当にすごいねー。魔法で治癒ができるなんて」
「いやいや、私よりムーンの治癒魔法がすごいぞ」
クラスの女子が、アルスに駆け寄り話を始めた。昨日の出来事は、すぐに学校中に広まっているのだ。
「あいつも人気者になっちゃって……」
弓彦はちやほやされるアルスを見て、呟いた。ふと廊下を見ると、こちらを見ている岳人の姿が目に入った。アルスは気付いていないため、弓彦が岳人の元に向かった。
「何の用ですか?」
「敬語はいいよ。同い年だし」
「……そうだな。何の用だ?」
「アルスさんに、礼を言おうと思って」
この言葉を聞き、弓彦の頭の上に?が生まれた。
「どういうことだ?あいつ、お前に何もしてねーだろ」
「いろいろ勉強になったんです。今までの僕は、規律を一番に考えて生きてきた。だけど、いざという時に、規律は壁となる。そう学んだんです」
「頑固委員長も、少しは柔らかくなったってことか」
「はは。そうです」
岳人がそう笑うと、弓彦はぽつりとこう言った。
「その笑顔を女子に見せると、もてるんじゃねーの?」
「女子に……まだそう言う風な考え方は僕は持ってないです」
「そうよ!岳人たんは純情なままでいいのよ‼」
後ろの柱から、若葉が叫んだ。
「いつの間に……」
「弓彦さんが気付いていなかっただけです。最初からいました」
「世界かよ……」
この時、弓彦の頭上から何かが落ちてきた。弓彦はそれが世界だと察知し、逃げようとしたが、世界は手から紐のようなものを発し、弓彦を捕まえた。
「捕まえたわよ、弓彦く~ん」
「お前、スパイ○ーマンみたいなことをするなよ‼」
「前回出番がなかったからさみしかったの。保健室で慰めて~」
「自分でどうにかしろ‼」
弓彦は紐を切ろうとしたが、なかなか切れなかった。
「その紐は切れないわよ。何故なら、私と弓彦君をつなぐ赤い糸だから……」
「ぎゃあああああああああああ!こいつ気持ち悪い事言ってるよー‼」
「全く、またあほなことをやってるなお前は」
弓彦の悲鳴を聞いたアルスが、セイントシャインで紐を切断した。
「あああああああああああ‼私と弓彦君の赤い糸が‼」
「何が赤い糸だ。白かったぞ」
「色はどうでもいいのよ。アルス、ここであんたとの決着をつけてやるわ‼」
「その戦い、待った!」
ここで窓からショーミが割り込んできた。
「勇者、我は前回も前々回も出番がなかったぞ。さあ、いい加減我とフィーバーしようぜ‼」
「自分でやってろ馬鹿魔王‼」
アルスはショーミに回し蹴りで攻撃したが、ショーミはその攻撃をかわすため、飛び上がった。
「甘い‼そして受けよ、我が新しい必殺技‼」
ショーミは体を回転させ、アルスに向かって突っ込んで来た。
「体術か!」
「必殺!回転して下着だけ取っちゃう技‼」
攻撃を受けたアルスは、特に傷とかはなかったが、ある異変に気付いていた。
「お前……私の下着を‼」
ショーミが手にしているのは、アルスのブラとパンツ。つまり、今アルスはノーブラノーパンである。
「ふはははは!前回と今回の前半がシリアスだったせいか、なかなかギャグを入れる隙がなかった。だから今こうして我が体を張っているというわけだ‼今だ世界‼アルスを我に向けて投げるがいい‼」
「あいあいさー!」
世界はアルスを羽交い絞めにし、ショーミに向けて投げようとした。だが、アルスは世界を掴み、ショーミに向けて投げた。
「地獄へ落ちろ貴様らァァァァァァァァァァァァァァ‼」
飛んできた世界に命中したショーミは、そのまま世界と共に窓から落ちた。こんなあほな光景を見ていた弓彦は、岳人にこう言った。
「いいか。ああいう馬鹿の取り締まりは強化していいから」
「分かった」
その後、アルスは女子トイレに入り、下着を付けましたとさ。




