風紀委員アルス、爆誕?
翌日。三毛が教室に入ってくると、アルスが駆け寄ってきてこう聞いた。
「おはよう。なぁ三毛、風紀委員って何をするところだ?」
「……何でそんなことを聞くの?」
「昨日の放課後、岳人という生徒から入ってくれと頼まれた」
「そうなんだ」
「ダメよ‼あんな所に入っちゃ‼」
話を聞いていた御代が、大きな声で叫んだ。
「会長」
「あんなかたっ苦しい所にいたら、気が止むわ。仮にあんたらは、生徒会の人間なんだから」
「会長、俺とアルスは生徒会に入った記憶はありませんが……」
「お前はだまっとれい‼」
ツッコミを入れた弓彦に対し、御代はドロップキックで返事を返した。
「おやおや、生徒会の人が風紀委員のアルスさんに何の御用ですか?」
そこに現れたのは、岳人だった。横には風紀委員らしき生徒が二人いた。
「へー、あの子が話題の勇者ちゃんか。魔法が使えるって聞いたけど、かめ○め波とか○丸とか出せるの?」
「兄さん……勇者はそんなもん出せるわけないだろ……」
「あ、そうなんだ。あっはっは~」
と、岳人の兄は笑いながらこう言った。
「そうだ。俺は平塚。よろしくね~」
平塚の挨拶を聞いてか、横にいた女生徒も頭を下げて自己紹介を始めた。
「私は2年の堀之内若葉と申します。以後よろしく」
若葉の挨拶を聞き、アルスと弓彦も頭を下げた。
「岳人風紀委員長。この女生徒がアルスさんですか?」
「はい。まだ正式に風紀委員とはなっていませんが」
「答えを聞きに来たのか?」
アルスは岳人にこう聞いた。御代が何か言おうとしたが、アルスは待ってくれと告げた。
「昨日は返事もできずにすまなかったな。弓彦が慌ててしまったからな」
そう。昨日……というか前回の話の後、弓彦はパニックになって「返事は明日でいいよね。いろいろと考え事があるから‼」と言って、アルスを連れて帰ってしまったのだ。そのことを思い出した岳人は、少し笑ってこう聞いた。
「いや、突然こんなことを言った僕にも責任はある。それより……答えは決めてきましたか?」
「アルス、お前しっかり考えたのか?」
弓彦がこう聞くと、アルスはこう言った。
「短期でどうですか?」
この返事を聞いた一同の間に、沈黙が流れた。
「短期って……バイトじゃないからこれ」
三毛がこうアルスに耳打ちした。
「まー、とにかく風紀委員とやらが何をするかあまりわからん。だから、ちょっと体験してそれから決める」
「……まぁいいでしょう。では翌日から、アルスさんは短期ですが、風紀委員です」
「うむ」
話を終え、岳人達風紀委員は去って行った。この流れを見ていた御代は、アルスに問い詰めた。
「何であんな返事をしたのよ!?」
「何をするか分からないからです。身を持って体験すれば分かるかなって思って。大丈夫です。生徒会にも顔を出しますから」
「そう言う問題じゃない‼あいつら風紀委員は、なんかちょっと気に食わないのよ」
御代は去っていく岳人の背中を見て、ベーっと舌を出した。この行為を察した若葉が、猛スピードで御代に迫ってきた。
「貴様、岳人たんに何をした?」
「舌を出しただけよ。あんな堅物坊主のどこがいいのよ?」
「……岳人たんを馬鹿にするとは……許せん‼いざ天誅‼」
若葉の変なオーラがこもった右手が、御代を襲おうとした。だが、御代の危機を察した日枝が、床を突き抜けて現れた。
「てめー、私の御代会長に何をするだー‼」
「私の岳人たんを侮辱したからよ‼」
その後、日枝と若葉は距離を取り、睨み合いを始めた。
「来いよショタコン女、貴様を始末してやる」
「それはこっちのセリフだ、ロリコン女‼」
罵倒の後、二人の激しいぶつかり合いが始まった。あほらしい戦いを見て、弓彦は小さく呟いた。
「風紀委員にもコンプレックスを持った人がいるんだ……」
放課後、アルスと弓彦は風紀委員が集まる教室に来ていた。
「うわー……ちょっと緊張する……」
緊張する弓彦を考えず、アルスは扉を開けた。
「失礼します」
「来ましたね、アルスさん」
教室にある大きな机に、岳人は座っていた。
「では、仕事の内容を説明します。風紀委員は学校規則に従わない者を見つけ、指導をするのが主な仕事です」
「何だ、警察のようなものか。簡単な仕事だな」
アルスはそう言ったが、岳人は目を細めて話を続けた。
「しかし、僕が風紀委員長になった今年、前年より風紀の乱れがあると先生から告げられました。僕自身先頭に立って指導をしても、誰も話は聞かないし、坊主は家に帰ってミルクでも飲んでろと言われる始末」
「まー、確かに岳人はちっちゃいからな!」
話の筋をへし折った平塚は、笑いながら言った。その言葉を聞いた若葉は、平塚の口をテープで塞ぎ、身動きが出来ないように体を縄で縛った。
「……とにかく、魔法が使え、優れた剣技を持っているあなたがいれば、規則を破る生徒も従うでしょう」
「つまり、私を脅しの道具として利用するつもりですね?」
アルスはこう言った。その言葉を聞いた岳人は、少し間を開けて返事を返した。
「脅しの道具ではありません。あなたの力を規則を守るために使いたいのです」
話を聞いていた弓彦は、大体の事を察しした。
今弓彦は思い出したのだが、高校に入学して最初に話題になったのが、1年で風紀委員長に上り詰めた生徒がいること。その生徒はかなり頭が良いため、すぐに風紀委員長の座を手にしたと。それが、この岳人である事を彼は知った。
それに、口ではこう言っているが、ちっちゃい岳人が風紀委員長になっても、威厳も何もない。指導される生徒にとっては子供がピーピー騒ぐようなものだ。だから、アルスの力を借りたいと。
「……まぁ短期だし、少しの間なら力を貸しましょう」
「アルス、本当にいいのか?」
弓彦はこう聞くと、アルスは首を縦に振って答えた。
「ああ」
「では今日から仕事の方をお願いします。これから僕と一緒に校内の見回りに行きましょう」
岳人はそう言うと、椅子から降りてアルスに近付いた。不安に思った弓彦は、若葉にこう言った。
「俺も付いていきます」
「勇者ちゃんの事が心配なのね。いいでしょう。だけど、岳人たんに手を出すんじゃねーぞ‼」
「それはないんで安心してください」
若葉にそう言うと、弓彦は教室から出て行った。
「おい見ろよ、おこちゃま風紀委員長だぜ」
「……マジかよ、あれって噂の勇者じゃん」
「げー、あの勇者が風紀委員になったのか?」
「これじゃあタバコ吸えねーじゃん……」
アルスを連れた岳人を見た不良生徒達が、恐れをなして持っていた煙草や髪のワックス。エロ本、挙句の果てにはエロゲーがダウンロードされたパソコンを岳人に渡していた。
「規則の中には、勉学に関係ない物を持ってきてはいけないというのがあります」
「しかし、重たそうですね。魔法を使いましょうか」
「うむ……た……たの……む……」
たくさんの荷物を抱えた岳人は、苦しそうにアルスにこう言った。その時、アルスは背後から殺意を感じた。
「また貴様か、世界‼」
背後にいた世界は、両手に禍々しいオーラを放った剣を装備していた。
「何だその物騒な物は!?没収……しても呪われたりしないよなあれ?」
「多分呪われます。というか世界、そんなもんどこで手に入れた?」
「校内を散歩してたら、庭に刺さってたのよ。で……引き抜いたら……自我を持てなくなって……コロス‼ダレデモイイカラキリキザンデコロシテヤル‼」
と、世界は両手の剣を振り回し、アルスと岳人に襲い掛かった。
「うわああああああ‼」
「岳人、こっちに来い」
弓彦は岳人を壁の裏に隠し、アルスの戦いを見届けた。
「全く、どうしてこの学校には呪われた剣が落ちているんだ?」
「ソンナコトシルカ‼」
世界は叫びながら、アルスに斬りかかろうとした。だが、アルスは両手から光魔法を発し、剣を破壊した。
「死ねェェェェェェェ‼アルスゥゥゥゥゥゥゥ‼」
「結局呪いから戻っても殺意は変わらずか」
折れた剣を持って襲って来る世界だったが、アルスは世界を窓に向かって蹴り飛ばした。
「大丈夫だぞ二人とも、世界は窓から落ちて行った」
「窓から落ちた……ここは3階だぞ‼落ちたらどうなるか分かってるのか!?」
岳人はアルスにこう言ったが、弓彦は岳人に落ち着くように言った。
「大丈夫だよ。あいつ死んでねーから」
「どうしてわかる?」
「一応幼なじみだから知ってんだよ。あいつの異常で異様な生命力を……」
この時、窓から世界の弓彦を呼ぶ声が聞こえた。
「ほらな」
「はぁ……」
世界の異常さを目の当たりにし、岳人は茫然とした。
その頃、生徒会室では、御代が何か悪だくみをしていた。
「フッフッフ……見てなさいよ風紀委員の堅物共、アルスとついでに弓彦を生徒会に戻してくれるわ‼」
御代は笑いながら、叫び声をあげた。この声を聞き、三毛は呟いた。
「なんか悪者っぽい……」




