勇者の相棒としてふさわしいのは誰だ?
ある休みの日の事だった。ムーンはアルスを探すため、崎原家を探し回っていた。
「お姉さまー。どこですかー?」
どこを探しても、アルスの姿は見当たらなかった。一体どこへ行ったんだろう?ムーンは二階の階段付近で立ち止まり、考え始めた。その時、弓彦の部屋から声が聞こえた。
「止めろ弓彦……そんなことをしたら……」
「しょうがねえだろ……そうでもしないと……」
「よせ、やめろ……あ……あ……」
この声を聞き、ムーンの脳内でこんな映像が流れていた。
服が乱れ、アルスの胸や太ももが、ところどころ見えていた。その原因となったのは、弓彦の淫行。
「アルス、もう俺は収まりがつかないんだよ……」
「止めろ弓彦!私はお前とそんな関係になりたくない……」
欲情する弓彦を止めようとするアルスだが、暴走した弓彦を抑えることは出来ず、そのままベッドの上で横になってしまった。
「アルス……もう限界だ。俺と一つになろう……」
「弓彦……」
そして、二つの影は徐々に一つとなり、ベッドの上で……
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼お姉さまが汚されるゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」
ムーンは弓彦の部屋の扉を蹴り飛ばし、中に入った。
「どうしたムーン?そんな大声出して」
アルスはゲームのコントローラを持ち、こう言った。
「……はへ?何やってるんですかお姉さま?」
「ス○ブラ。弓彦、もう一度リベンジだ」
「ああ。かかって来いよ」
その後、2人は2ストの終点、時間制限5分で試合を始めた。その様子を見て、ムーンは苛立ち、弓彦の首を絞めた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「何お姉さまと楽しく遊んでんだゴラ!?そのままあれか?大乱闘から大○交をするつもりか!?」
「とんでもない事を言うな!」
弓彦は後ろにいるムーンを払い、荒く深呼吸をしてこう言った。
「あのなー。いい加減アルスと一緒にいるからって、プロレス技をかけるのは止めてくれよ。お前のせいで、体中痣まみれだよ」
「そんなの、お姉さまといちゃついているあなたが悪いんでしょうが!自業自得ですよ」
にらみ合いを始めた弓彦とムーン。それを見ていたアルスは溜息を吐き、こう言った。
「喧嘩するんだったら、どっちがすごいか決着を付けたらどうだ?」
「グッドアイデアですねお姉さま!私の方がお姉さまにふさわしい事を、この野郎に教えてやりますよ!」
アルスのアイデアを聞き、ムーンはノリノリだったが、弓彦は慌てながらこう言った。
「ちょっと待て!俺が賢者と戦うなんて、絶対に無理だろ!魔法で塵にされる!」
「大丈夫だ。なるべく魔法を使わないようにするさ」
「頼むぜ……」
弓彦はそう言うと、心の中で一体どうなるんだと思った。
数分後、弓彦たちはキッチンに来ていた。で、テーブルにはアルスから呼ばれた三毛と浦沢。そして呼ばれてもいないのに世界がやって来た。
「いやー、なんか楽しそうなことやってるじゃん」
「全然楽しくねーよ」
気楽な浦沢の言葉を聞き、弓彦はこう返した。
「ねぇ、一体何をするの?」
「誰が私にふさわしいかを決める対決だ」
「で、その方法は?」
「料理だ。もし、誰かと一緒になるのであれば、料理が上手い人がいい。私はそう言う人がタイプでな」
「確かアルスって料理が下手なんだよね……」
「そうだ」
どや顔でアルスはこう言ったが、威張れることじゃねーだろと、弓彦は心の中で呟いた。そして、世界に向かってこう言った。
「それで何でお前も来てるんだよ」
「盗聴器から面白そうなことが聞こえたのでつい」
「ったく、また盗聴器を仕掛けてるのかよ。警察に言うぞ」
といつも通りのやり取りをかわしていたが、実は世界を呼んだのはムーンだった。二人は目でサインをしながら、こんな会話をしていた。
分かってますよね。これが上手くいけば私とお姉さまが一緒になり、余った弓彦がボッチになる。
そこで私の登場。見事なテクで弓彦君の心と体をいただきます。
その通りです!この作戦が上手くいくかは、あなた次第ですからね。
了解!
と、サインを終えた後、料理対決が幕を開けた。
料理のお題は卵焼きだった。弓彦とムーンは事前に作り方をスマホで見て、予習をしていた。
弓彦は慣れた手つきで卵をかき回せ、塩や砂糖で味付けを行っていた。ムーンはガスの日を使わず、火の魔法で火を付け、風の魔法でフライパンを操りながら料理をしていた。あまりにも異様な料理光景だったが、アルスが来てから異様な光景が繰り広げられたせいか、浦沢も三毛もツッコミをいれなくなった。だが、世界は一人心の中で珍しく真面目にこう思っていた。
この光景を見て、誰も何とも思わないんだろう。
数分後、アルス達の目の前には二つの卵焼きが用意されていた。
弓彦が作った卵焼きは、焦げ目も目立ってなく、綺麗にまとまっていた。だが、ムーンの卵焼きは綺麗に整っていて、逆にこれ芸術品なんじゃねーのと思うような卵焼きだった。
「では食べてみよう」
試食の時間になった。まず、最初に食べるのはムーンが作った卵焼き。それを一口食べた浦沢は、目を開いた。
「これは……うまいぞォォォォォォォォォォ‼」
大声と共に、口から光が放たれた。三毛は味に感激したのか、夢中で卵焼きを食べ始めた。世界は、あまりのうまさに感激して、泣いている。
「こんなの……始めて……」
「じゃあ、弓彦の卵焼きを食うか」
次に、弓彦の作った卵焼きを食べ始めた。
「……普通だな」
「うん。普通」
「ごめん弓彦君……これ普通」
この声を聞き、ムーンは勝利を確信した。いざとなったら世界を味方につけて票を得ようとしたのだが、そんな八百長は無駄だったようだ。
「じゃあどの卵焼きが上手かったか、教えてくれ」
アルスの声の後、3人はどうじにムーンの札を上げた。
「当然です!」
「ちくしょ~。これでも料理できるように特訓したんだけどな~」
弓彦のこの声を聞いた浦沢は、やっぱりと言って次にこう言った。
「お前やっぱ特訓してたんだな。前に作ったお前の料理は食えたもんじゃなかったしな」
「うるせーよ。剣道部の合宿に巻き込まれた時、なんかプライドが傷ついて、それで料理の特訓を始めたんだよ」
「で、す、がぁ~、そのプライドに再び傷が付いちゃいましたねぇ~」
ムーンの勝ち誇ったか男のセリフを聞き、弓彦はうざってぇと思った。だが、アルスはこう言った。
「勝負に勝ったのはムーンだが、すごいと思ったのは弓彦だな」
「……え?何でですか?」
目が点となったムーンがこう聞くと、アルスは答えた。
「苦手を克服しようと努力したからだ。何かを得るために、何かに勝つために頑張る奴は私は好きだ」
この言葉を聞いたムーンは、うなだれてその場に崩れた。
「ムーン。お前は確かに料理が上手いが、それは魔法を使ったんだろう。自分の手で作ってみたらどうだ?」
「自分の手で?」
アルスに言われ、ムーンは素手でフライパンを持とうとしたが、片手で持って少し腕が震えていた。
「これは……ちょっと……」
「そうだ。鍛えないと無理だろう。お前も頑張れば、世界との八百長なしの料理対決で真の勝利を掴めるだろう」
この言葉を聞いたムーンは、威勢よく返事をした。その後、浦沢は横にいた弓彦にこう言った。
「なんだかんだでいい話だったな」
「そうか?」
話を聞いていた三毛は、何かに気付いて皆にこう言った。
「今回は努力をすれば素晴らしいってことを知る事が出来たな」
というわけで、今回は努力をすればいい経験となるけど、悪い事はばれるぞ。という話でした。




