夕日の真下で
時は流れ、あっという間に文化祭最終日になった。騒動も軽くあったが、マッチョな生徒たちのおかげで、大惨事にはならなかった。
だが、御代はそんな事よりも、夜の事を考えていた。
文化祭最終日に男女二人が屋上で抱き合うと、必ず結ばれる伝説。
毎年、この伝説を聞いたカップルが、あらゆる手を使い、屋上へ行こうとするのだ。普段進入禁止の屋上へ行かせないため、生徒会はありとあらゆる対策を練っていたのだ。御代も、去年の生徒会長がこの対策で悪戦苦闘している姿を見ているのだ。
生徒会室にて。中には御代と日枝、三毛の他にも、アルスと弓彦もいた。
「会長、何事ですか?」
アルスは手にしているタコ焼きを食べながらこう聞いた。
「あなた達、この学校に伝わる文化祭の伝説を知ってる?」
御代がこう聞くと、アルス、弓彦、三毛は互いの顔を見合わせた。
「噂程度で聞いたことがあります」
「ゼ○ダの伝説なら好きですが」
「女子がこの話で騒いでました」
「少しは知ってるようね。それとアルス、ゼ○ダの話題じゃないからね」
御代はホワイトボードを引っ張り出し、アルス達に見せた。ボードには、『屋上侵入対策作戦!』と、書かれていた。
「本来屋上は非常事態以外、出入り禁止の場所です。ですが、毎年この伝説を頼りに幸せになろうとするカップルが、不法侵入を試みてます」
「なるほど。そういった掟を破る輩を取り締まるんですね」
「そう言う事。鍵は今私が持ってる」
と、御代は屋上のカギをアルス達に見せた。
「私が持っている限り、屋上へは行けないけど、キーピングをして入ろうとする連中もいるらしいのよ。私と日枝はここで鍵を守ってるから、あなた達は屋上入り口で待機してて頂戴」
その時、一組のカップルが生徒会室に入って来た。
「失礼します」
「先生が、会長が屋上のカギを持ってると言ってたので、鍵を取りに来ました」
この言葉を聞き、アルス達は溜息を吐いた。
「お前達、屋上へ行くつもりだな」
「ダメよ。あそこは進入禁止。特例がない限り、出入りは出来ないわ」
アルスと御代は厳しい口調でこう言ったが、それに対し、カップルの女子がこう言った。
「お願いします。長身でナイスボディで美人の御代生徒会長」
「んも~。しょうがないわね~」
と、笑顔の御代は屋上のカギをカップルに渡してしまった。カップルは鍵を貰った瞬間、ダッシュで生徒会室から出て行ってしまった。
「おいいいいいいいいいいいいいいいいい‼何やってんですかあんたはァァァァァァァァァァァァ‼」
弓彦は大声でツッコミを入れたが、横にいる日枝は茫然とする御代を見て、見惚れていた。
「ああ……茫然とする御代会長も可愛い……」
「いや、見惚れてる暇があったらあいつらを追いかけましょうよ‼」
その後、アルス達は急いでカップルを追いかけた。
アルス達が廊下を激走する中、周りには同じように走っているカップルが数組見られた。
「もしかして、あの人達も屋上に行くんですかね?」
「それしか考えられないじゃない‼文化祭の最終日に屋上で騒動起こされちゃあたまったもんじゃないわ‼」
カップルたちが屋上でハッスルする前に、アルス達は何とか屋上へ行こうと思った。その時、日枝はある事に気付き、アルスにこう聞いた。
「アルスさん!魔法で屋上にワープってできますか!?」
「そんな便利な魔法はない‼」
「じゃあ、どうすれば誰より早く屋上へ行けるんでしょう……」
日枝の言葉を聞き、アルスはある事を思いついた。
「私が空を飛んで、屋上へ先回りしてきます」
「できる?」
「やって見せます‼」
アルスは魔力を開放し、近くの窓から外へ出て、屋上に向かって飛んで行った。
「頼んだぞ、アルスー‼」
アルスは弓彦の声に対し、腕を動かして、了解のサインを取った。
「さて、人が集まってなければいいが……」
アルスは屋上へ着くと、人の有無を確認した。人影はあまり見えなかったが、その代わり巨大なベッドが二つ置いてあった。それぞれのベッドには、弓彦君専用と、勇者専用と札が書かれていた。何かを察したアルスは、光魔法でベッドを吹き飛ばした。
「何すんのよ‼」
「酷いぞ勇者‼死にかけたぞ‼」
攻撃を受け、半裸になった世界とショーミがアルスに向かって叫んだ。アルスは溜息を吐いた後、馬鹿二人にこう言った。
「さっさと帰れ。お前らみたいな馬鹿がいるから生徒会の仕事が増えるんだ」
「何その言い方、酷くない?」
「そもそもアルスは生徒会に入ってないじゃない‼」
「会長から仕事を頼まれた以上、働くさ」
アルスは馬鹿二人にこう言った後、大きな魔法陣を発生させた。
「馬鹿どもに次ぐ。痛い目を見たくなければ今すぐここから立ち去れ」
「……分かったわよ。そもそも弓彦君がいなければ意味ないし」
「我も帰ろう。これ以上攻撃を喰らったら死んじゃう」
ショーミはそう言い残し、空を飛んで帰って行った。世界も足早に屋上の出入り口へ向かった。その時、ちょうど他のカップルがカギを開け、屋上へ入ろうとした。
「あれ、先客がいるのか」
「関係ないわ。早くハグしましょ」
「待て待て待て。屋上は出入り禁止だ」
「じゃあ何であなたはここにいるのよ?」
「空を飛んできた」
アルスはそう言うと、カップル達を追い払った。
「ふぅ……何とかなったな……」
「アルスー」
下から弓彦の声が聞こえた。しばらくし、弓彦が屋上へやって来た。
「カップル達を追い払ったのか」
「ああ。で、会長や皆は?」
「あとから来るカップルの対処に追われてるよ。俺はアルスを迎えに来た」
「そうか。ありがとな」
アルスは弓彦に近付こうとしたが、その途中で段差に引っかかってしまった。
「え?うわっ!」
「へ?え!?」
アルスは弓彦を巻き込み、転倒してしまった。
「いつつつ……」
「すまん弓彦……けがはないか?」
下敷きになっている弓彦を心配し、アルスは声をかけた。
「ああ……」
弓彦は返事をしたが、少し黙ってしまった。それと、少し顔も赤くなっている。
「どうした?」
「なんかさ、この状況……お前が俺に抱き着いてるようでさ……」
こう言われると、アルスもこの状況を察し、顔を真っ赤にした。
「いやいやいやいや。これは事故だからな、決して故意ではない」
「分かってるよ。ははは、お前も照れることがあるんだ」
からかい気味に、弓彦はこう言って笑ったが、アルスは顔をさらに真っ赤にして叫んだ。
「この馬鹿ァァァァァァァァァァァ‼」
「あいたァァァァァァァ‼」
アルスの手から放たれた渾身の拳骨が、弓彦の頭上に落下した。
無事に文化祭が終わり、アルスと弓彦は帰路に付いていた。
「くぅぅ……」
弓彦はいまだに痛む頭を押さえ、小さな悲鳴を上げていた。
「馬鹿な事を言うからだ、馬鹿者!」
「お前、この世界の人と違って力が強いから、ちったぁ手加減してくれよ」
「分かった分かった」
アルスはそう言い返すと、ある事に気が付いた。
「やべ、屋上のカギを返すのを忘れていた」
「マジかよ。じゃあ急いで戻らねーと!」
「そうだな。弓彦、捕まってろ」
アルスは弓彦の手をつなぐと、学校へ向かって飛んで行った。入口では、御代と三毛、日枝が立っていた。
「あ、噂をしてたらちょうど来たわ」
「ナイスタイミングですね」
アルスは御代達の前に降り立ち、鍵を取り出した。
「どうぞ」
「鍵を持ってること忘れないでね」
アルスは鍵を渡した後、弓彦と共に帰って行った。残った御代達は、戸締りの為に屋上へ向かった。
「もうみんな帰りましたよね」
「もちろんよ。もう何時だと思ってるのよ」
御代達は屋上へ着くと、ある光景を目にしていた。それは、プリーズハグミーと看板と共に立っている雍也の姿だった。彼女らは馬鹿を無視し、扉の鍵を閉めて帰って行った。