魔王決戦
弓彦は頭の中で、もしかしたらこうなるんじゃないかと予想はしていた。魔王がアルスを追って、日本に来ることを。
まずいことになった。
弓彦はこの状況をどうにかしようと考えたが、焦りのせいで考えがまとまらない。相手は魔王。今アルスが戦っているが、やばそうな黒いオーラを発しており、いかにも自分が敵う相手ではないということがハッキリと分かる。だが、このまま戦いを見ているだけでは、アルスがやばい。アルスを守らねば。そう思っている弓彦は、あるものを見つけた。
「たぁっ‼」
アルスはセイントシャインを振り、ショーミに攻撃をしていた。だが、周りのオーラがショーミを囲み、防御をしていた。
「効かんな。そんな攻撃」
「くっ……」
アルスはショーミを睨んだ。その顔を見て、なんかぞくっとした。興奮したショーミの顔を見たアルスも、背筋がぞくっとした。
「その顔……イイ。憎いか?この私が憎いか?憎いならこの私を攻めろ‼」
ショーミは防御を解き、手を広げてこう言った。この光景を見て、アルスはぽかんとなった。
「何をぽかんとしている!攻撃している時の顔を見せて、早く‼さぁ早く‼カモン‼」
「……分かった。お前がそう望むのなら……」
アルスはセイントシャインを上に向け、魔力を解放した。すると、剣の周りに巨大な白いオーラが発生した。
「全力でぶつかろう」
この技を見て、ショーミは心の中でこう思った。
これやばくね?私はただ、一生懸命攻撃している勇者の顔が見たかっただけなんだよ。あの時の一生懸命な顔に私のマゾ心に火が付いちゃったんだよ。可愛げのある顔だけど、時折見せるきりっとした顔が見たかっただけなんだけど。あの技喰らったら……私、確実にお陀仏じゃん。
「これが私の全力だッ‼」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ‼普通に攻撃してェェェェェェェェェ‼」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼家が壊れるうううううううううううううううううううう‼」
ショーミと弓彦の叫びがこだました。間一髪、技はショーミが当たる少し手前で止まった。
「どうした弓彦!?隠れろと言った……はず……」
アルスは、弓彦が棒を持っているのを見て、こう察した。
「お前、まさか加勢しに……」
「そうだよ。お前一人戦わせるわけにはいかない」
「弓彦……」
見つめあう二人を見て、ショーミは少しイラッとした。
「何だこの空気!?おい小僧!勇者の体は私のだからな、手を出すんじゃねーぞ‼」
「お前に身をささげた覚えはない‼」
アルスは再び光を剣に発し、ショーミに斬りかかった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ‼」
斬られたショーミは悲鳴を上げながら、その場を転がりまわっていた。
「痛い、これマジで痛い‼なんか斬られたところから煙出てるし‼」
「ショーミ様‼」
イータは悲鳴を上げるショーミに近付き、傷の手当てを始めた。
「全く、隙だらけですよあんたは……」
「だって~」
グチグチ文句を言うイータと、うだうだ言い訳を言うショーミを見て、弓彦は心の中でこう思っていた。こいつ、本当に魔王なのか?と。その時、ショーミが弓彦を見て、にやりと笑った。
「よし!お前は今から人質だ‼」
「は?え!?」
ショーミは弓彦の腕を引っ張り、上空へ飛んだ。
「勇者アルス‼この小僧を助けたければ、我の跡についてこい‼」
と言って、飛んで行ってしまった。
「弓彦‼」
アルスは急いで飛び上がり、ショーミの後を追って飛んで行った。
数分後、ショーミはどこかの岩場に着地した。
「うわ、ここドラ○ンボールで有りそう……」
あの岩場っぽい雰囲気を見て、弓彦は呟いた。しばらくし、アルスが現れ、その後ろから世界が走ってやって来た。
「世界も来たのかよ……」
「美少女が二人……グフフフフ……こりゃ両手に花じゃなぁ……」
時折おっさんっぽい事言うなこの魔王。と、弓彦は心の中でツッコミを入れた。そんな中、イータは呆れているのか、その場に座ってこう言った。
「ショーミ様、さっさとやって帰りましょうよ」
「いやだ‼お楽しみは時間をかけて行うものだ‼」
この返事を聞き、イータは溜息を吐いた。この人大変だな。と、弓彦は心の中で同情した。
「行くぞ魔王!今日で貴様との因縁を終わらせる!」
アルスはセイントシャインを構え、ショーミに向かって突進してきた。それに対し、ショーミは笑みを浮かべてこう言った。
「ふふふ……その勇ましい顔を、エロい顔に変えてやる‼」
「それ魔王の言うセリフじゃないですよ」
「黙れイータ‼いでよ、服だけを溶かすエロい触手よ‼」
「うわ、ストレートな名前‼」
思わず弓彦は声を出してツッコミを入れてしまった。だが、触手は出なかった。
「……あれ?何で?」
「せやあああああああああああああ‼」
セイントシャインの刃が、ショーミの腹に突き刺さった。
「ぐぼわあああああああああああ‼」
ダメージを受けたショーミはその場に倒れ、血を吐いてぼやいた。
「え……何で?ごぼっ!……触手が出ない……」
「ショーミ様、あいつらは向こうの世界で置いてきたんじゃないですか」
イータに言われ、ショーミは情けない声を上げた。
「しまった‼あいつらを忘れてしまった‼ちくしょ~、あいつらの液体を使って勇者の服を溶かし、そのまま(ピー!)へなだれ込む計画がぁ……」
「あんた、この小説にR-18タグをつけるつもりか!?」
馬鹿な事を言ったショーミに、ツッコミを入れた弓彦だが、後ろから何かの気配を感じた。
「弓彦君……このまま拘束プレイやっちゃう?」
後ろにいたのは世界だった。世界はいつの間にか弓彦を縛っている紐を外し、自分を縛っていた。しかも下着姿で。
「な……何だこいつ……ショーミ様と同じくらい変態だ……」
世界の異常な行動を見て、イータはかなり動揺していた。
「誰が変態よ‼私は弓彦君に恋する純情な乙女よ‼」
「今の姿を見て、自分の事を純情と言えるお前が恐ろしいよ‼」
弓彦は世界に向かってこう叫んだ。
そんな事より、アルスとショーミの戦いの方はこうなっていた。
「おらっ、おらっ、おらぁっ!」
アルスは地面に倒れているショーミを突き刺そうとしているが、ショーミは何とか攻撃を回避していた。
「ちょ、や、タンマ!止まって!止めて!このままじゃあ死んじゃう!」
「うるさい、変態が‼」
アルスは勢いよくセイントシャインを地面に突き刺した。その直後、刺さったところから地面が割れ、割れ目から衝撃波が放たれた。
「い~~~~~や~~~~~‼」
衝撃波を喰らい、ショーミは上空へ吹き飛び、車○落ちで地面に激突した。
「やべ……このままじゃあ死ぬ……エロいことできずに死ぬ……死ぬ前に一回だけ(ピー!)したかったなぁ……」
「その情けないセリフが最期の言葉か!?」
アルスはショーミを睨み、こう言った。この光景を見て、世界の頭の中でこう思った。
魔王の手助けをすれば、アルスを始末できるんじゃないかと。
だが、彼女の天使が頭の中で現れた。
「ダメよ世界‼いくら憎いからと言っても、殺しはやばいって‼」
天使の言葉を聞こうとした世界だったが、悪魔の世界が現れた。
「やれやれ‼殺しちまいなぁ‼お前はいつもあいつを殺そうとしてたじゃないか‼」
「そんなことしちゃダメ!殺したら豚箱へぶち込まれて弓彦君に会えないわよ‼」
「今更こんなことを言うんじゃねーよ‼いつも世界はアルスを始末するために過激なセリフを言ってたじゃねーか‼」
「だけど彼女にも良心があるのよ!一応」
「だが、あいつを殺さないと弓彦君は私の物にならない。どうすればいいのかお前分かるのか?」
「分からないわ」
「だったら殺すしかないじゃねーか‼」
「でも方法はあるはずよ‼何かしらあるはず‼」
その時、ショーミの言葉が世界の耳に聞こえた。
「頼む‼殺さないでくれ‼せめてお前と一発ヤらせてくれ‼」
この言葉を聞いた天使と悪魔は、同時にこう言った。
「「アルスをあの魔王と百合百合な関係にすれば、自動的に弓彦君はあなたの物になる‼」」
そう思った世界は、すぐに行動に移した。ショーミにとどめを刺そうとするアルスに近付き、そのまま彼女を羽交い絞めにした。
「なっ……世界!?貴様、何をするつもりだ‼」
「今です魔王さん‼アルスと(ピー!)をするなら今がチャンスよ‼」
この言葉を聞き、ショーミはゆっくりと立ち上がった。
「ふ……グフフフフフ。さぁ、お楽しみの時間だ‼」
ショーミは羽織っているコートを脱ぎ捨て、下着姿になった。そしてアルスに抱き着き、アルスの服を脱がそうとした。
「なっ!お前、やめろ‼」
「ぐひひひひ~。観念しろ~、このままお前は私の女になるのだ~。大丈夫だ、優しくするから~」
ショーミはエロい笑い声をあげながら、アルスの頬をぺろぺろ舐めていた。その態度と世界に苛立ったアルスは、怒りを爆発するとともに、魔力を開放して叫んだ。
「いい加減にしろ貴様らァァァァァァァァァァァァァァァ‼」
解放された魔力は白い衝撃波となって天に昇り、その衝撃波に飲まれたショーミと世界はそのまま上がって行った。しばらくして、空から二人が車○落ちで落下し、地面に激突した。
「全く、この馬鹿は……」
イータはぼやいた後、気を失っているショーミを連れてどこかへ行った。弓彦とアルスも気を失った世界を背負い、帰って行った。
数日後、アルスはリビングで大好物のプリンを食べていた。
「ん~……やっぱプリンは美味いな~」
満面の笑みを浮かべているアルスだったが、ショーミが堀を乗り越えてやってきた。
「勇者よ‼今日こそ(ピー!)を」
アルスはショーミに向かって、衝撃波を放った。あれ以降、たまにショーミがアルスの体を狙って来るようになってしまったのだ。弓彦は悲鳴を上げながら空を飛んでいくショーミを見て、呟いた。
「これからどうなるんだろう……」