ろくでもない思い出がたくさん
ある日、弓彦は自分の部屋の掃除をしていた。部屋の中にはアルスと姉がいる。弓彦は後日なんかおごると約束をし、二人に部屋の片づけをお願いしたのだ。
「全く、あんたの部屋本が多すぎるっての。読まなくなった本とか中古で買った本なんて売りなさい」
「嫌だよ。その本のシリーズ、まだ完結してないんだから」
弓彦と姉がそんなやり取りをする中、アルスは本棚を引き出したり、机の下の掃除をしていた。
「あ、アルス‼そこは掃除しなくていいから‼」
「もう遅い……」
アルスは頬を赤くしながら、エロ本を差し出した。
「あああああああああああああああああ‼」
「あ、隠し場所変えたんだ。見つかんないわけだ」
アルスからエロ本を取る弓彦を見て、姉はゲラゲラと笑い始めた。アルスはエロ本の次に、アルバムと書かれた本を見せた。
「これはなんだ?」
「あー、俺の子供の頃のアルバムじゃねーか。懐かしー」
「お前の子供の頃の本か、興味あるな」
アルスはアルバムを開き、幼き頃の弓彦の写真を見始めた。
「これがお前か?はは、今のお前よりかわいいじゃないか」
赤ん坊の頃の弓彦の写真と、今の弓彦の顔を見てアルスは笑った。
「悪かったな」
「で、この横にいるのが私。いやー、私も変わったねー」
姉は写真に写っている自分の姿を指さし、こう言った。
しばらくアルバムをめくると、アルスは小学生の時の弓彦の写真を見つけた。その写真には、遠くから弓彦を見つめている世界の姿があった。
「あ、世界だ」
「あー。本当だ。そう言えば、そこから世界ちゃんのストーキングが始まったんだっけなー」
姉の言うとおり、それ以降の弓彦の写真には、必ずと言っていいほど世界の姿がどこかしらに写っていた。
「あいつは子供の頃からこんなんだったのか」
「ああ……苦労してたぜ……」
弓彦は遠い目でこう言った。その後も、アルスはアルバムを見ていた。
「ねぇ、アルスちゃんは子供の頃の思い出ってないの?」
姉にこう聞かれると、アルスはすぐに返事をした。
「ろくな思い出などない。子供の頃からずっと、戦ってきたんだ」
アルスはこう言うと、昔の事を語りだした。
私はクリスルファーのとある王国で生まれた。有名な騎士団長の家の出身だ。つまり、向こうでは貴族みたいな扱いをされていた。
家が貴族だからって、暮らしは楽ではなかった。父は私が生まれて間もないころにどっかの戦争で戦死し、母も病で早くに死んだ。私が育ったのは、家に仕えていたメイドや執事のおかげだ。
私が4歳の頃、邪悪なる魔界から魔王がクリスルファーに攻め込んできた。魔王が現れたことにより、全世界は恐怖で怯え始めた。そんな中、城に伝わる聖剣を引き抜く勇者が現れるという胡散臭い伝説が各地に広まった。子供の頃の私は興味半分でその剣を見に行った。他の屈強な男が力を入れ、剣を引き抜こうとしたが、びくともしなかった。しばらくし、兵士が他にいないかと叫んだ。誰もが諦めた中、私は冗談半分で手を上げた。皆が爆笑する中、私は剣を手にした。すると、剣はあっさりと引き抜かれた。このせいで、私は勇者と言われ、その後は勇者になるための修行を長年行った。
「それが、セイントシャインなのか?」
「ああ、そうだ」
アルスはセイントシャインを出し、返事をした。
「子供の頃は美味く剣を触れなかったな。今と比べると大違いだ」
「これってすごい剣だったんだ。よくアルスちゃんが野菜を切る時に使うから、もうでかい包丁としか見てなかったよ」
「お前、聖剣を包丁代わりに使うなよ。この前の合宿でも言っただろ」
「しょうがないじゃないか、便利なんだよ。とにかく、昔話を続けるぞ」
アルスは咳ばらいをし、話を続けた。
剣を引き抜いてから10年が経過した。私は仲間の賢者と共に、魔王討伐の旅を始めた。セイントシャインと光魔法のおかげで、魔王の軍勢は半分くらい消し去る事が出来た。その他にも、仲間の賢者の助けもあり、旅は順調に進んでいた。
2年後、旅が終わりに近づく時が来た。私と賢者はついに魔王の元に着いたのだ。私は賢者に危ないから下がっていろと伝え、魔王相手に一騎打ちを仕掛けた。だが、転移魔法で弓彦の家に飛ばされてしまった。というわけだ。
アルスの話を聞き終え、弓彦はアルスの頭を撫でた。
「いつも私はずっと戦って来たって言って来たけど、想像以上に過酷だったな」
「……修行の時は本当にきつかったんだぞ。幼い私にでも容赦なかったし」
「つらかったでしょうね……」
姉は立ち上がり、二人にこう言った。
「じゃあココアでも淹れてくるから、イチャイチャしながら待ってなさい‼」
「なっ!?」
弓彦は顔を真っ赤にし、姉に文句を言おうとしたが、その前に姉は笑いながら下に降りて行った。
「ったく、姉さんは一言多いんだから……」
「私と弓彦がイチャイチャしてたら、ムーンから叱られるな……」
「ん?ムーンって誰?」
「話に出ていた賢者の事だ。私の一つ下の女の子だが……」
この時、アルスはある事を思い出した。
「そう言えば、あいつ大丈夫かな……」
クリスルファーにて。魔王、ショーミが裸の少女が描かれた本を見て、よだれを垂らしていた。
「うっしっし~。あ~、やっぱ若い子のヌードは美しいのお~」
「ショーミ様」
部下のイータが声をかけたが、ショーミは気付かなかった。
「ええラインの乳だな~。あぁ、赤ん坊のように吸いたいのぉ~」
「ショーミ様」
「おおっ‼綺麗な太ももだな~。触りつくしたい!」
「ショーミ様」
「ここからはエッチな絡み合いだと!?しかも百合百合とな!?えーっと……はさみはどこだっけ?」
「ショーミ様!」
「あー、しゃーねーな……闇魔法で切るか」
「話を聞け変態レズ魔王‼」
「誰が変態レズ魔王だ‼せめて百合魔王と呼べ‼」
ショーミは大声を上げながら立ち上がり、イータに近付いた。
「何の用だイータ!?見ての通り私は忙しいんだ!」
「ただ百合系のエロ本読んでるだけじゃないですか!あなたの号令がないため、各地を占拠している魔物達が困惑してますよ‼この間もナナンテネ砦を占拠した魔物が、人間達によって崩壊したんですよ‼」
「そうか。砦を破壊したのはどこのどいつだ?」
ショーミは真面目な顔つきをし、イータにこう聞いた。
「モーホーという戦士です」
「性別は?」
「男です」
「男かよ‼構わん、虐殺しろ‼」
「はぁ……」
ショーミは玉座に座り、再びエロ雑誌を読んだ。そんな中、ある事に気付いた。
「なあ、この前来た女勇者はどうした?」
「あんたが異世界に送ったんだろうが」
「そうだったな。でも、今頃そこから脱出して、こっちに向かってるだろう」
「来ませんよ。永遠に」
「はへ?」
「あなたが使った転移魔法。どういう魔法か思い出してください」
イータがこう言った後、ショーミは後ろの本棚へ行き、本を調べ始めた。
「どこだっけなー。最近百合系の本しか集めてないから、魔法の本どっかいっちゃったなー」
「これじゃないですか?」
イータは本棚の裏を指さした。そこには、ホコリまみれの本が落ちていた。
「うーわきったね、イータ拾ってよ」
「しょうがないな……」
イータはいやいや本を手に取り、ホコリを払ってショーミに見せた。
「ったく、魔法の本よりエロ本が大事なんですか?」
「エロ本じゃない、百合の本だ。えーっと、転移魔法は確か……あった。このページだ」
転移魔法について詳しく書かれたページを開き、ショーミは読み始めた。
「えーっと……この魔法は憎いあん畜生を異世界へ飛ばす魔法です。この魔法により、異世界へ飛ばされた憎いあん畜生は二度と、元の世界へは戻ってこれません。仲直りしようとしても無理なので、もし飛ばしちゃったら諦めてくださいね……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雄たけびと共に、ショーミは本を破り捨てた。
「ああああああああああああああああ‼何やってんすかあんた!?」
「もうあのエロい体つきの勇者に会えない!?ふざけんな!じらしてじらして最後にアーンイヤーンなことをしようと考えていたのに、何だこの仕打ち?ふざけんな運命!」
「ふざけんなのはあんたですよ‼まぁでも、これで聖剣セイントシャインもこの世界にはないですし、これで我々魔族の世界征服は安全に……」
「仕方ない、我々も異世界へ行くぞ‼」
この言葉を聞き、イータの目は点になった。
「あんたバカですか?どんだけ自分の性癖に正直なんですか?」
「……イータ、我慢は体に毒だ。どこかのタイミングで、欲を出してもいいんだ。欲に忠実なのが生き物って奴なんだよ」
と、ショーミはこう言った。その時の目は、とても澄んでいて、清らかな目をしていた。
「いや、何かっこつけて馬鹿な事言ってるんですか!?あんたただあの勇者とアーンイヤーンなことをしたいだけでしょうが!」
「いいから行くぞ、異世界に‼」
ショーミは嫌がるイータを無理やり引っ張り、魔法陣を発生させた。そして、魔法陣から黒い渦が発生した。ショーミは笑いを発し、イータを連れて渦の中に飛び込んだ。
「待ってろ勇者‼今すぐお前を犯してやるからな‼イ~ヒッヒ……イ~ヒャッヒャッヒャ~~~~‼」
「あああああああああああああああああ‼誰か助けてェェェェェェェェェェェェェ‼」
気持ち悪い笑い声をあげるショーミと、助けを呼ぶイータの声は、渦の中に消え、段々と聞こえなくなっていった。数分後、その黒い渦は跡形もなく消えた。周囲にいたモンスター達は顔を見合わせ、会話をした。
「魔王様消えたんだけど」
「どうすりゃあいい?」
その直後、賢者ムーンが屈強な男たちを連れ、魔王の玉座に攻め込んできた。
「魔王、今こそ終わりの時です‼お姉さまの仇……死んでつぐなえやクソ魔王がァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」
ムーンが放った無数の魔法は、その場にいたモンスターを跡形もなく吹き飛ばした。
その結果、クリスルファーに少しだけ平和が戻ったとさ。でも、この物語は終わりません。