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勇者と芸術の秋


 アルスが現代日本に転移されて、大体1ヶ月ちょいが経過した。季節は十月、秋真っただ中である。


 我らが勇者、アルスは冷たい秋風を浴び、体を震えさせていた。


「うう寒い……寒すぎる。何だ、この冷たい風は?」


「秋風だよ。これで寒いって言ってると、冬の時はもっと寒く感じるぞ」


 スケッチブックを持った弓彦が、心配そうにこう言った。アルスたちは、写生の授業で学校の外に出ていた。場所は近くの山。風景を描くために、ここにきたのだ。


「おーい、集合」


 先生の合図を聞き、話をしていたアルスたちは話を止め、先生の元に集合した。


「今から写生の授業を始める。書くものはこの辺の風景、建物でもいいぞ。ただし、二次元っぽいキャラとか二次創作系の絵は禁止だ。あと、エロい絵を提出したら即補修な。じゃあこの辺で書いてくれ。じゃあ開始」


 写生の時間が始まった。各々自分の好きな所へ行き、絵を描き始めた。アルスは弓彦と共に行動しているが、何を書くかまだ決まってなかった。


「弓彦、絵は決まったか?」


「決まってない」


「そうか。魔法でも使えれば、何か起こしてそれを元にできるのだがな」


「先生に魔法は使うなって言われただろうが」


 そんな話をしながら、二人は歩いていた。そんな中、何かを書いている三毛を見つけた。


「三毛、何を書いているんだ?」


「野良猫」


 二人は三毛に近付くと、彼女の太ももの上に、野良猫が乗っかていた。


「ちょっと待ってねー、今書くから」


「猫に好かれやすいんだな」


「うん。昔からそうなの」


 弓彦は三毛が一体どんな絵を描いているのか興味がわき、彼女のスケッチブックを見た。そこにはかわいらしい猫のイラストが描かれていた。


「絵、うまいんだな」


「これでも小学校の頃、賞を取ったことがある」


「ほう、すごいんだな。よし、私も猫を描いてみよう」


 その後、アルスも三毛と同じように猫を見ながら絵を描き始めた。で、数分後。


「描けた」


 弓彦と三毛は、アルスのスケッチブックを見た。そこに描かれていたのは、猫とくらげを足したようなへんてこというか、文字でどうやって伝えればいいのか、作者でも分からない物体が書かれていた。


「何これ?」


「猫だ。私、絵が下手なのだ。だが、分かりやすいようには描いた」


「いや、猫と教えてもらえなければ一生分からない」


 弓彦はこの絵に対し、こんなコメントを残した。


 その頃、世界は一人で何かを書いていた。その周囲には定規や羽ペン、インクなどの漫画を書くときに必要な道具がそろっていた。世界は熱心な表情で、ペンを動かしていた。


「何やってるんですか、桂川さん?」


 異様な光景を見た先生が、額に青筋を浮かばせこう言った。


「次のコミケに出す漫画を書いてるんです」


「今は授業中です。そういうのは家に帰ってからやりなさい」


「時間をください。私に似たオリキャラと弓彦君に似たキャラのイチャラブ本を書きたいんです。全編エロシーンを千ページ分書かないとコミケに間に合わないんです」


「変なもんをコミケに出すな! さっさと道具を片して写生に行ってこいこのサイコパス!」


 その後、世界はしぶしぶ道具をしまい、どこかへ行った。




「あーダメだ! 全然うまく描けない!」


 アルスは頭を抱えてこう言った。彼女が描いた絵は、とてもうまいとは言えない品物だらけだ。簡単に言うと、幼稚園に通う子供の描いた絵と同レベルと説明しておこう。弓彦はアルスを見て、こう言った。


「しっかり見て、それと同じように書くだけだぞ」


「それが難しいのだ。それに、ずっと魔王軍と戦ってきたから、絵なんて描いたことはない」


 この言葉を聞き、弓彦は改めて思った。


 異世界、クリスルファーでアルスはずっと魔王軍と戦っていた。そのせいで、アルスは同年代の子と同じような生活を送ってはいなかった。そのため、アルスは戦い以外のことがあまりできない。なら、自分がフォローするしかないと。


「俺が手伝ってやるよ」


「ふぇ? いいのか?」


「絵なんて描いたことないんだろ? だったら、少しは絵を描いたことがある俺が教えてやらないとな」


「うん。ありがとな」


 その後、アルスは弓彦の力を借り、絵を描くことにした。最初はうまくなかったが、何度も書くうち、徐々に上達していった。数分後。アルスは自信たっぷりに絵を描き終えた。


「下書き終了だ」


 アルスが描いた絵は、綺麗な線で描かれており、木々についている葉や地面に生えている雑草など、細かく書かれていた。


「お前すごいな……少しだけ教えたのにもうこんだけ描けるなんて」


「勇者だからな」


「絵と勇者は関係なさそうだけどな」


「まぁいいだろう。よし、先生に見せてくる」


 と言って、アルスはスケッチブックを手にし、先生の元へ向かった。その時、世界が弓彦に抱き着いた。


「弓彦くぅーん……お願いがあるの」


「変な願いだったらアルスか先生に言いつける」


「絵のモデルになって」


「は? モデル? それならいいけど」


 弓彦はそう言うと、世界に連れられて人気のない所へ向かった。


「おい、どこまで行くんだよ?」


「ここでいいわ。あの大きい木の下に立って」


「ああ」


 その通りに移動した後、突如木から音楽が流れ始めた。


「え? 何これ?」


「最後のイベント……伝説の木の下で」


 世界はそう言うと、服を脱ぎながら弓彦に近付いて行った。


「弓彦君。やっと二人っきりになったね」


「おいてめー! ふざけんなよ、絵のモデルじゃないのかよ‼」


「そう怒らないで弓彦君……さぁ、一緒に一つになりましょう」


「話を聞け!」


 その直後、弓彦の叫びを聞いたアルスと三毛が現れた。アルスは木の近くにあったラジカセの電源を落とし、世界の方を見た。


「残念だったな、そこまでだ」


「クソ女! 生徒会から魔法を使うことは禁じられてるはずよ、どうやって私と戦うつもり?」


 世界は背中に隠してあった鎖鎌を装備し、鎌を振り回しながらこう聞いた。


「あー、その話だが……」


 三毛が世界の前に立ち、話を始めた。


「魔法解禁になった。つまり、アルスは魔法を使ってもOKということだ」


「魔法が使えなくなったから、大丈夫だと思ったのに……チクショー!」


 世界は泣き叫びながら、去って行った。その姿を見て、弓彦は叫んだ。


「せめて服は着てから逃げろ」


 数時間後、写生の授業は終わった。生徒たちは再び先生の元に集まり、話を聞いていた。


「じゃあ学校に戻るぞ。それと桂川、放課後補修な」


「そんなっ、酷い!」


「酷いのはお前の頭の中だ」


 話を終え、アルスたちは学校へ戻って行った。


 それから数日後、アルスは弓彦の家で絵を描いていた。あの日の写生の授業以来、アルスはたまに絵を描くようになったのだ。


「おっ、また絵を描いているのか」


「弓彦か……」


 アルスは弓彦の姿を見ると、絵を隠した。


「何だよその反応?」


「絵を見るつもりだな?」


「まだ終わってないだろ、完成してから見せてよ」


「今回の作品は……できれば、お前には見せたくない」


 この言葉を聞き、弓彦は驚いた。


「何だよそれ? いいじゃんか、見せたってよー」


「いーやーだー! 恥ずかしいー!」


 アルスはスケッチブックを振り回した。その時、スケッチブックを滑らせてしまった。


「うわっ!」


 宙に舞ったスケッチブックは、弓彦の顔面に激突した。


「うわあ! 見ないでくれー!」


「つつつ……」


 弓彦は顔面のスケッチブックを取り、アルスに渡そうとしたが、その時にアルスが描いている絵が目に入ってしまった。


「これって……俺?」


「わわわ……」


 アルスは顔を真っ赤にして、スケッチブックを取った。


「実は……人の顔を描こうと思ったんだ。それで、お前の顔が書きやすいから、試しに描いてみただけなんだ」


「それだけ?」


「ああ。練習用に描いただけだ。それだけ。特に深い意味はない」


「ああ……そう」


 弓彦はそう言うと、ごめんと言って部屋から出て行った。


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