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思春期男子は大変だね(笑)

 弓彦の布団の中に、寝ぼけたアルスが入って来た。困った弓彦は何とかアルスを元に戻そうとしたが、アルスはさらに寝返りを打った。その時、アルスの右腕が弓彦の鼻に命中した。


「っつ~」


 鼻を抑え、痛みを和らごうとしたが、アルスの動きはさらに活発になっていた。アルスは弓彦の腕に抱き着いたのだ。困惑した弓彦は起こそうとしたが、アルスは滅茶苦茶強く腕を抱きしめた。あまりの痛さに、悲鳴が上がりそうになったが、隣にいる三毛と世界を起こさないようにするため、何とかこらえた。


 その時、アルスの力が弱まった。そのおかげで、アルスは腕から離れた。いったん布団から出よう。そう思った弓彦は立ち上がり、布団がないか押し入れを覗いた。だが、アルスは弓彦に向かって転がって来た。そのせいで、弓彦は転倒した。


「こいつ……寝相悪いな……」


 弓彦が小声で呟いた直後、アルスは再び弓彦に抱き着いた。


「な……ちょ……」


 今度は腕ではなく、弓彦の全身を抱きしめていた。アルスの胸が当たり、足や腕が絡むように弓彦を包んでいた。それに、アルスの顔が滅茶苦茶近くにある。下手したらキスしかねないほどの距離だ。何とか逃げようと思ったが、先ほどよりも抱きしめている力が強かった。さらに、骨から小さくビキビキと音を立てていた。


 理性と骨がピンチ。何とかしてアルスのハグから抜け出したい。そう思う弓彦だが、全身が動かない以上、手はない。こうなったら、アルスを起こすしかない。そう思い、弓彦はアルスの耳に近付き、声を出した。


「アルス、アルス起きてくれ」


「むにゃむ……うん……肉が喋った……」


 こいつ、どんな夢を見てるんだ?弓彦がそう思った瞬間、アルスは弓彦にかみついた。


「あぎゃあああああああああ‼」


「ん?弓彦……弓彦?」


 弓彦の声を聞いたアルスは目を覚まし、この状況を察した。


「うわわっ、すまぬ!寝ぼけていたようだ……」


「気にすんな……」


 暗くてわからなかったが、言葉から察するにアルスは確実に顔を真っ赤にしているな。と、弓彦は思った。アルスはしょんぼりしながら、弓彦に近付いた。


「骨がきしんだようだな……治してやるから待ってろ」


 というと、アルスは魔法を使って弓彦を癒した。そのおかげで、骨の痛みが引いて行った。


「サンキュな」


「私のせいだ。自分で起こしたことは、自分で尻拭いをする」


 その後、アルスと弓彦は再び布団の中に入った。




「うーん……やっぱりこのままだと危険だな……」


 しばらくすると、アルスがこんなことを呟いた。


「何が危険なんだ?」


「また私が寝ぼけて、お前に危害を加えるかもしれん」


「だな……だけどどうするんだ?さすがに縄でお前を縛るわけにはかねーだろ」


「他の人が見たら、変なプレイをしていると思われるな……そうだ!弓彦、私に抱き着け」


「何言ってんの?」


 変なことを言ったアルスに対し、もう一度何を言ったか聞き返した。


「お前が抱き着けば、私の動きを止めれるだろ?」


「いや、いいの?俺男だよ、変な所触るかもしれないよ」


「何を言っている、私とお前の仲じゃないか、気にしないよ」


 と、アルスは言って、弓彦に近付いた。




 同時刻、世界は暴れながらなんとか脱出できないか、いろいろ考えてみた。


「チクショー!これ絶対に抜けないでしょ!ちょっと三毛さん‼苦しいからここから出るの手伝ってくれない?」


 世界は三毛にこう言ったが、すでに三毛は夢の世界へ行っていた。


「むへへへへ……焼き鳥がいっぱい……いただきまぁす……」


「焼き鳥食ってる夢を見てないで、こっちを何とかしなさい‼」


 この直後、三毛の寝言が止まった。気が付いたかと世界は思った。が。


「でかい焼き鳥だぁ……」


 三毛は相変わらず、夢の世界にいた。




 アルスと弓彦は、一つの布団の中にいた。弓彦がアルスに抱き着いているせいか、かなり緊張している。弓彦は心臓の音が聞こえていないか、息は臭くないか、顔に変なのが付いてないか、鼻毛は伸びていないか、下の息子は大丈夫かと、ずっと心配をしていた。


「何だ、緊張しているのか」


 アルスが弓彦にこう言った。


「当たり前だろ。俺、同年代の女の子と寝たことねーんだよ」


「そうか。恥ずかしいなら、後ろを向くよ」


「……ああ。その方がいい」


 その後、アルスは後ろを向けた。これなら大丈夫だろう。弓彦はそう思っていた。だが、実際は違った。手の位置は胸に近い所に来るし、アルスの息が手にかかる。かえって逆効果じゃねーの?弓彦はそう思った。


 やっぱりこんなこと止めよう。アルスの寝相が悪いのは、あえてほっておこう。弓彦はそう思い、アルスに声をかけた。


「なぁアルス、やっぱりやめようぜ」


 だが、アルスの返事はなかった。もう一度声をかけたが、やはり無反応だった。変だなと思い、弓彦はアルスの顔を覗いた。顔を見て、返事がないのが分かった。だってアルスは寝てるんだもん。


「……こいつたくましいな……」


 この呟きの直後、アルスは弓彦の腕を触り始めた。触るだけならまぁいいか。そう思ったが、握る手は徐々に強さを増していった。


「へ?ちょっと待って、痛い痛い痛い痛い痛い‼」


 弓彦は腕の痛さに耐え切れず、悲鳴を上げた。しかし、それだけではアルスは目覚めなかった。


「ちょっとアルス!?手を放してくれない?」


「モンスターめ……この私が握力で潰してくれる……」


「何でそんな方法でモンスターと戦おうとしてるの?つーか、それ俺の腕だから!」


「……弓彦?何故クリスルファーの地に……」


 自分の名前を聞いて、弓彦は声を出すのを止めた。


「……心配するな。お前は私が守るから……モンスターなどに手は出させない……」


 この言葉を聞き、弓彦の頬は少し赤くなった。


「俺の事……夢の中でも気にしてくれてるんだ……」


「だからモンスターは私の握力で潰す……死ねェェェェェェェ‼」


 その直後、アルスは再び弓彦の腕を握りしめた。


「ギャアアアアアアアアアアアアア‼お前が手ぇ出してんじゃねーかァァァァァァァ‼」


 弓彦の悲鳴が、ロッジに響いた。




 翌朝。


「すまん弓彦‼まさかこんなことになるとは思っていなかった‼」


「あー……気にすんなアルス」


 あの後、結局弓彦は一睡もできなかった。アルスと一緒に寝るという緊張感と、腕の痛みが睡眠の邪魔をしたのだ。


 朝起きてすぐ、アルスが治療魔法で腕を直してくれたのはいいが、寝不足は治らなかった。アルス曰く、何故かそう言うのは治らないらしい。


 アルスと弓彦は下に降りると、三毛が椅子に座ってストレッチをしていた。


「おはよう三毛」


「ん。アルスおはよう。弓彦、昨日何があった?お前の悲鳴が聞こえたぞ」


「いろいろとな……」


 昨日の事は絶対に言わないでおこう。弓彦はそう心の中で誓っていた。三毛はふーんと言った後、アルスと共に朝食の準備を始めた。


 その後の予定は、軽く剣道の練習をした後、昼食を食べて帰り支度をして帰るだけである。弓彦はアルス達の練習を見ながら、こう言った。


「合宿も終わりか……」


「いやー、大した騒動もなくよかったよかった」


 御代が笑いながらこう言った。


「……確かに何もなくてよかったです」


 弓彦は少し笑顔を作り、こう言った。


 三毛が行方不明になった騒動はあったが、アルスが助けてくれた。この事件を機に、生徒会はアルスに対しての評価は変わるんだろうな。と、弓彦は思っていた。このまま生徒会とひと悶着あるよりも、いい関係でいたい。弓彦は、心の中でそう願っていた。




 数分後、昼食と帰り支度を終え、後は帰るだけとなった。


「忘れ物はないな」


 弓彦はそう言うと、アルスと三毛はうんと返事をした。


「よし、じゃあ行くか」


 3人はロッジから出て、バスへ向かって行った。そして、アルス達を乗せたバスは、アルス達の住む町へ向かい、走って行った。


「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇ‼忘れないでぇぇぇぇぇぇぇ‼」


 布団にくるまれた世界が、走り去っていくバスに向かって叫んだ。


「忘れてるから、物じゃなくて人を忘れてるから‼弓彦君!?忘れないで、忘れないでよ‼ちょっと、本気で泣きそうなんだけど‼」


 世界の叫びは聞こえなかった。バスはそのまま走って行き、姿が見えなくなった。


「はぁ……どうしよう……いざとなったら自力で帰るか」


 そう呟いた直後、誰かが世界の足を握った。


「た……たす……助けて……」


 足を握ったのは、昨日の夜から放置されていた雍也だった。傷だらけでボロボロになった雍也を見て、世界は悲鳴を上げた。そして、雍也に渾身のドロップキックを浴びせた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼化け物ォォォォォォォォォ‼」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」


 雍也の悲鳴を聞き、再び森にすむ動物たちが逃げ始めた。


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